向日葵を見る度に思い出す人がいる。青空に向けて真っ直ぐ伸びる茎と、鮮やかな黄色の花。そして人目を集める存在感が、清廉で苛烈なあの人と重なる。
 だからだろうか。向日葵はいつも私の目を奪い、足を止めるのだ。

「そんなにあの花が気になる?」

 ばっと振り返ると、マーリンが不思議そうにしていた。その視線は私の横を通り過ぎて、遠くで輝く向日葵に向けられている。
 油断していた。いつもは来る前に立ち去るのに、声をかけられるまで全く気づかなかった。きっとこの特異点が暑いせいだろう。暑くて頭がぼうっとするから、マスターの気配を察知できなかったのだ。

「花は全て好きですよ。それで、聞き込みの成果はどう──」
「でも嫌いなのは向日葵だけだ。なのにいつも眺めて、君の方が向日葵みたいだよ」
「……気づいてたんですね」
「何か嫌な思い出でもあるのかい?君が嫌悪するって相当だと思うんだけど」
「……」

 あの時のことを夢で見たことはない。けれど、それが何の安心材料にもならないことも知っている。
 ……いや、言ったところでマーリンは何も気にしないだろう。向日葵の彼女も優しいから、そんなこと気にしなくていいと言ってくれるに違いない。だから結局のところ、黙秘しているのは許されたくないからなのだ。そうやって自分を戒めていなければ、今度こそ過ちを犯してしまいそうで恐ろしい。

 真っ直ぐに伸びる向日葵を見る度に、私は眩しくて憎くて、その太い茎を真っ二つに折りたくなる。

「嫌な思い出、ありますよ。忘れたいくらい苦しくて悲しくて、永遠に許せない思い出が」

 でも向日葵は好きです。そう言うと、無言で手を繋がれた。

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