現代

 日曜十時、開店から一時間後。客のいない店で時計を気にしながら過ごしていると、チリンとドアベルが鳴った。予想通り、黒髪のイケメンのお出ましだ。

「いらっしゃいませ」

 イケメンはショーケースの前に立つと、瞬きを挟みながら右へ左へ視線を動かした。新作が一種類出ただけでラインナップは変わってないんだけど、悩む時間の楽しさもわかるので口出しはしない。それだけウチのケーキがどれも美味しいってことだからね。イケメンに気に入っていただけて嬉しい限りだ。

 私の店は立地のせいであんまり新規の客は獲得できてないけど、常連客がいるから移転は考えてない。今の場所に引っ越したときに手続きが面倒だったのもある。そんなこと言ってるから繁盛しないんだよと友達に言われたが、儲けたいわけじゃないから大目に見てほしい。一号店でオリジナル保冷剤とか馬鹿なことやってたのを止めてくれた恩人だけど、私なりに譲れない部分もあるのだ。目の保養であるイケメンとか。



「ご来店ありがとうございました」

 姿が見えなくなってから、ふうと短く息を吐く。ノルマ達成と、一行しかない脳内リストに赤丸をつけた。
 彼は時間帯だけじゃなくて、購入する個数もいつも同じだ。今日は新作のティラミスとモンブラン。先週は確か、ショートケーキとプリン・ア・ラ・モードだったはず。単に甘党なのか、やっぱり恋人がいるのか……あんなイケメンに恋人がいないはずがないか。きっと誰かと食べるんだろう。そのうち二人で来てくれないかなぁ。サービスしたいなぁ。でも店員に顔覚えられるの嫌がるタイプかなぁ。



 今日はどんな入浴剤にしようかと考えながら駐輪場に自転車を停めて、マンションの階段を登る。ついでにリュックから鍵を取り出して、部屋の前に着くと同時に鍵を挿し込む。そしてあとは回すだけになったとき、隣のドアが開いた。

「ああ、丁度良かった。お仕事お疲れ様です。良ければこちら、貰っていただけませんか?友人が都合で来られなくなってしまって……」
「……そ、ですか、その箱は……」
「すみません、言わずに渡すところでしたね。こちらモンブランです。この店はどれも美味しいので、味の心配は不要かと。モンブランも二度食べたことがあるのですが、とても美味しかったですよ」
「は……はい。ありがとうございます……いただきます」
「いえ、こちらこそ。では失礼します」

 出かける用があったのか、彼はそのまま階段を下りていった。実は隣で、偶然今まで会わなくて、店員って気づかれなくて、今日売ったケーキを貰って???
 そんなことある?店にカメラとか仕掛けてない?ちゃんと店長の許可取った?ねーよ私が店長だよ!

 混乱しっぱなしの頭を押さえながら、フラフラ部屋に入る。

「嘘でしょ……」

 薄暗い玄関先で、袋の中を見て息が止まった。箱の上に乗せられた保冷剤に、先程までいた店名が印刷されている。

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