店を出ると、ちりちりちりん!と大量の鈴を振り回しているような音が聞こえた。商店街に絶え間なく響くその音は、警報アラートのようにけたたましい。一体何事かと見渡すと、道を挟んだ向かいの店先に、大量の風鈴が吊るされていた。ぱっと見三十は余裕でありそうだ。それらが一斉に強風に煽られて、ガラスが割れそうなくらい鳴り響いている。

「主、その紙は俺が預かろう」
「紙?……さっきの割引券?」

 かばんを探り、店主に貰った割引券を取り出す。有効期限と書かれた枠内には一ヶ月後の日付のスタンプが押してある。
 だが年に一回来るか来ないかの店だ。この辺りだって、正面の風鈴騒ぎみたいにちょっと変わった店が多いから、ピンポイントで用がある時にしか訪れない。帰ったら捨てるつもりだったが、買いたい物でもあったのだろうか。

「じっくり見てたけど、気になる物あった?」

 割引券を渡しながらそう言うと、鬼丸国綱は少し黙ってから「まあ、そんなところだ」といつもの調子で言った。最近粟田口の短刀と一緒にいることが多いから、何か買おうとしてるのかもしれない。そうだったらいいなと温かい気持ちになるが、その間も喧しい音が鳴り響く。
 どうしてそうなったとしか言いようがない光景である。大量に吊るしてあって、もはや風鈴の壁だ。確かに人目を引くし、インパクトは十二分にあるけれど……。

「情緒がないな」

 意外な発言に目を丸くする。鬼を斬れればそれでいいと言う鬼丸国綱の口から、そんな言葉が聞けるなんて予想外だった。

「なんだ、狐につままれたような顔をして」
「いや……」

 もっと無骨な性格だと思っていたが、そうでもないのだろうか。

「気が弱い店主だ」
「?」
「さっさと行くぞ。次で最後なんだろう」
「うん……あ、時間あったら甘いもの食べたいな」
「昨日控えると言ってたはずだが」
「か、考え直した。今」
「よく回る口だな」

 表情は変わらないまま、呆れたような視線を向けられる。ビュウと風の音が耳元で鳴って、風鈴の音はすっかり掻き消えていた。

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