「観光ですか?」
「、ええ、そんなところです」

 そのまますれ違うと思っていたから、少し反応が遅れた。女性はどこにでもいそうな私服だったが、だからこそ威圧感のある腕章が目立っている。祭りの見回りに駆り出された警備員だろうか。よく見ると、耳からインカムをつけていた。しかし片手に綿あめの袋を提げているあたり、ちゃっかり楽しんでいるようだ。

「ああ、これは没収したんです。不審な男性に話しかけたら、女の子を狙って……っと、話しちゃいけないんだった。今の秘密で」
「誰にも言いませんよ。きっとすぐ忘れますし」
「お祭りは羽目を外す人が多くて困りますよ。こっちも最近妙な目撃情報が上がってるからピリピリしてるし」
「……大変ですね」
「ほんとですよ」

 妙な目撃情報に心当たりがありすぎたが、犯人の一人とは言えないので受け流す。女性は人懐っこい笑みを浮かべたまま、訝しむそぶりもせず流されてくれた。

「お時間取らせてすみませんね。お兄さんも私に没収されないように気をつけてください」

 ではお祭りを楽しんで〜と手を振り、女性は僕が来た方向に歩いて行った。怪しまれていた気づいたとき、既に姿は見えなくなっていた。

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