腕を振る度に、癖のない銀髪がサラサラ揺れる。ずっと続けていたら無言の視線に耐えきれなくなったのか、蘭陵王が困惑気味に言った。
「楽しいですか、それ?」
「楽しいよ」
焚火の映像と同じだ。このまま一日が終わるんじゃないかってくらい見飽きない。探せばやることはあるけれど、今日のトレーニングは終わってるし、たまにはぼうっと探す時間があってもいいよね、なんて思ってしまう。
「マスターが楽しいなら良いのですが……うちわで私を扇いだところで、面白いことなど何も起きませんよ?」
「もう面白いし、なんなら癒されてるよ」
「えっ、どこにそんな要素が……?」
戸惑いながらも、そよ風を受ける顔は動かさないでくれている。蘭陵王は優しいなぁ。うちわの絵がはだけた美少女なの、すごく気になってるはずなのに。
「これ黒髭に貰ったんだ。失敗作が余ってるんだって」
「ああ、なるほど……失敗しているようには見えませんが……」
「女の子の顔がでこぼこしてるんだって。骨組みに貼る時にズレたって言ってたけど、蘭陵王わかる?」
「それらしい箇所はありますが、誤差の範囲では?というか、私がこの絵柄を不躾に見て良いのでしょうか……」
「あげた物だし、黒髭も怒らないと思うよ。まあこのイラスト、結構時間かけて描いたみたいだけど……」
「いえ、そちらの心配はあまり……ちなみに私の他にこのうちわを見せた方はいますか?」
「いないよ。なんで?」
「その……ここには幼いサーヴァントもいるので、使う時と相手は選んだ方がよろしいかと」
「だよねー……急に来ることもあるし、見えない場所に隠さないとって思ってるんだけどさ」
いくつもの特異点を経て、贈り物だらけになった部屋を見渡す。マイルーム片付けなくちゃなぁと溢すと、手伝いますよと蘭陵王は苦笑した。きっと時間がかかるのを見越しているのだろう。そうと決まればのんびりしている暇はない。予定が入ったらすぐ動くべきだ。
でもお互い、会話を終わらせることも立ち上がることもしなかった。浮かんだ予定はすべて「いつか」に詰め込んで、今は自由だと錯覚する。
ただ穏やかな時間が過ぎていた。