汗で張り付く布の感触から一刻も早く解放されたくて、夜の道路を早足で歩く。しばらく熱帯夜が続くと気象予報士が言っていたのは何日前だったか。そろそろ涼しい夜が恋しい。

「そこの君」

 夜、帰り道、知らない人。犯罪臭の漂う組み合わせに思わず体が固まるが、近づいてきた人影は安心したように声をやわらげた。

「良かった、誰も通らないから何かあったのかと」
「え、この辺りで事故でもあったんですか?」
「ああいや、失言だ。これを貰ってくれ」

 そう言うと彼は持っていたビニール袋を渡してきた。コンビニで買ったのか、何か入っているようだ。恐る恐る覗くと、いろんなアイスが入っていた。

「知り合いがアイスを買い込んでしまってね。食べきれないから押し……配っていたところなんだ」
「?冷凍庫で冷やせばいいじゃないですか」
「ダイエットをするから要らないと怒られてしまってね」
「え、何で買ったの……?」
「君のためだ」
「…………あの、私の知り合いの知り合いとか、ですか?すみません、全く覚えてなくて」
「気にすることはない。それが正常だからね」
「……」

 会話が噛み合っている気がしない。まあそれもそうか。向こうは私を知っているようだが、私は全く覚えていないのだから。

「夏のアイスは悪いものじゃない。栄養バランスは良くないが、体を冷やしながら糖分を摂取できるという点では重宝しているよ」
「へぇ……ダイエットしてる人を敵に回す発言ですね」
「あくまで個人の感想だよ。それじゃあ、早く帰って冷やしてくれ。市販で悪いが、味は保証しよう」
「こちらこそ、ありがたく頂きます」

 知り合いの知り合いらしき人は、用は済んだとばかりに踵を返した。そしてなんとなくビニール袋の中身を確認して、ギョッとした。高いアイスがごろごろ入っている。

「あ、名前……」

 振り向いた先には、もう誰もいなかった。足が速いなと思いつつ、仕方なく帰路の続きに戻る。今度は別の意味で、早足で帰った。

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