縁側でお茶を飲んでいると、ゆったりとした足音が聞こえてきた。手合わせを終えたところらしく、太郎さんの肩にはタオルがかかっている。

「手合わせお疲れ様です、太郎さん」
「おや、休憩中ですか。今日の近侍も優秀ですね」
「?そうですね、いつもおいしいお茶を淹れてくれるので……でも天気がいいと眠くなって困ります」

 ふぁ、とタイミング良くあくびが出る。庭は八月らしい青空が広がっているが、不思議と暑苦しくはない。縁側だとみんなの楽しそうな声が聞こえてくるのもあって、まだ仕事があるのに眠気に襲われる。太郎さんの声は穏やかで落ち着くから、今日はいつもより眠気が増している気がした。

「息抜きは必要ですよ。あなたには来派の太刀を見習ってほしいくらいだと、皆言ってますからね」
「ちょっとそれは……本丸が潰れそうですね。あぁでも、みんなしっかりしてるから……大丈夫かな」

 目を閉じると、瞼の裏に初期刀の姿が浮かぶ。今ではすっかり取り仕切るのが板について、新しく顕現した刀にあれこれ教えるのも、慣れたもの……

「……うぁ、一瞬寝た、寝てました」

 目を擦ってみるが、一度深淵に辿り着いた意識はまだ底辺を彷徨っている。ならばいっそと、燦々と輝く太陽を眼球に写すため空を見上げた。目に刺激を与えて強制的に起こそうというわけだ。すると、

「あ、飛行機雲!」
「二つありますね」

 一気に眠気が醒めた。我ながら子供かと思ったが、久しぶりに見ると嬉しくなるものらしい。子供の頃は授業中窓を眺めて、飛行機雲を数えたりしてたっけ。多い日は六つあって、今日はラッキーなんて思ったりしたものだ。

「おや、もう一つ来ましたね」

 平行に並ぶ白い足跡に、三本目が追加される。残る仕事も忘れて空を仰いでいると、太郎さんは嬉しそうに言った。

「私でも届きそうにありませんね」

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