森の中で自然と戯れるエルキドゥは、さながらプリンセスのようだった。切り倒した丸太に腰かけ、指先に降り立ったカブトムシを柔和な笑みで眺める。ちょっとおかしな点もあるけれど、そんなの気にならないくらい様になっていた。

「いいところだね」

 ブゥンと羽を広げて飛んでいくカブトムシを見送ってから、エルキドゥは呟いた。足元には自分が集めた三倍の小枝が積まれていて、私は両腕に抱えていた枝をその上に乗せた。

「すごいよね、シミュレーションルーム。気に入った?」
「ふふ」

 エルキドゥは穏やかに笑うだけで何も答えなかった。返事を放棄したわけではなさそうだが……最近はよくあることだ。悩んだ時期もあったが、今はもう「楽しそうだからいいか」と思っている。難しいことを考えるのは私の役目じゃない。

「キミは?この空間は君にとって、どんな存在なのかな」
「うーん……」
「難しい質問だったかな」
「あ、癒しの空間かな。楽しくてちょっと寂しくて、でも癒される感じ。雨とか土のにおいも結構好きかも」

 深く考えず、思ったままに伝える。ちゃんと答えられてるかなと目線が落ちるが、小枝を見たところで何かわかるはずもない。ぐっと顔を上げると、エルキドゥは笑みを忘れて目を丸くしていた。彫像のように固まる姿勢と表情の中で、長いまつげだけが揺れている。

「……そうか」

 今度はエルキドゥが俯く。目の前に立っていた私には、どんな表情をしているのか見えなかった。

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