「ね、どっちがいいかな?」
「っ………そう、っすね…………………」
マンドリカルドの背中に冷や汗が伝う。彼は今、過去最高に困っていた。目の前には二着の水着を掲げるマスター。ネット掲示板にスレを建てるなら、タイトルは「【急募】好きな人に水着の感想を求められたときの返答を述べよ【助けて】」で決まりだろう。だが生憎、マンドリカルドはネット知識に疎かったし、履修済みだとしても目の前でスマホをいじるのは不誠実だと諦めただろう。
もしかして自分ではなく後ろにいる人物に聞いているのでは?と気づいたときは「あっぶねー、恥かくとこだった……」と自分の発想力に大喝采を浴びせたくなったが、後ろには誰もいなかった。いやいや、霊体化してるだけでしょ……と更なる予防線を張るも、「聞いてる、マンドリカルド?」とマスターから名指しされたことであっさり砕け散った。
正直なところ、マンドリカルドはどちらの水着でも良かった。興味がない「どっちでもいい」ではなく、決められないくらい両方とも似合っているという意味での「どっちでもいい」である。しかし思ったまま伝えるという選択肢はない。マスターは「どっちがいい?」と二者択一を迫っているのだ。かなり真剣な目で。ならば質問に答えるために、どちらか一着を選ばなくてはならないのが道理というものだろう。だが一着を選ぶなんて、一週間の猶予を貰っても決められそうにない。だってどちらも似合うのだから。
というか、なぜ大勢のサーヴァントの中から自分だけを水着選びに誘っただろう。カルデアにはファッションに詳しいサーヴァントも、快くショッピングに付き合ってくれるだろうサーヴァントもたくさんいる。そういうサーヴァントたちと大人数で店に行って、自分は荷物持ちだろうなーなんて思いつつ待ち合わせ場所で待機し、来たのがマスター一人だった時のマンドリカルドの衝撃は、それはもうすごかった。長考の末、おそらくマスターは友達感覚で誘って、こうして尋ねてくれているのだろうと結論が出た。だがそう思うと、ありがたくて死にそうになると同時に、胸の奥がキュッとした。水着というのは、否応でも男の視線を引くものだ。着なくたって、アロハシャツの礼装で十分じゃないっスか──質問を理解した瞬間にそう思って、ああ、やっぱり自分はこの人のことが好きなんだなと思った。だがそれは、決して言ってはいけないことだ。他人と友達の境目はわからずとも、この感情が友達の域を超えていると、マンドリカルドは理解していた。
名前はマンドリカルドを困らせていると自覚していた。だが困らせたかったわけではない。いつか読んだ少女漫画のように、「俺以外の奴には見せるな」みたいなことを言ってほしかっただけなのだ。簡潔に言えば、嫉妬されてみたかった。その衝動のままにマンドリカルドを誘い、水着売場まで引き込んだわけだが、一番肝心なことを忘れていた。嫉妬されるのは、友達以上の好意がある時だけだ。聞いた後の長い沈黙の中で気がついたのだが、言ってしまったことは取り消せない。いやでも、もしかしたらそれっぽいことが聞けるかもしれないから……!とマンドリカルドの発言に注目していたが、これほど言葉に詰まるとは思っていなかった。きっと「友達って水着も選ぶのか……」と困惑して、なんて返せばいいか悩んでいるのだろう。
「すみません、やっぱ俺、決められないっす……」
「じゃあまた今度にしようかな!また山の特異点が来るかもしれないし」
「山は……リベンジしたいっすね。前は役に立てなかったんで」
「わかった、期待してるね!」
「………………うす」