「すいかの種って面白いよね」
依頼の来ない密室でパイプを燻らせていると、名前が唐突に呟いた。今日の朝刊にすいかの文字はなかったはずだが、一体何から連想したのだろうか。また突拍子のないことを言い始めたなと思いながら「と言うと?」と続きを促すと、名前は面白いと言う割に生気のない目をして言った。
「小さい頃はさ、種が胃の中で育つって信じてたんだよね」
「それは……子供の想像力は豊かだからね」
「食べるときはすごく丁寧に種を取ってたし、飲み込んだときは発芽したらどうしようって三日くらい怖がってた。……周りが普通に食べてたから誰にも言わなかったけど」
「種が体内で育つなら、この世は植物人間で溢れているだろうね。もしかして医者になった理由はそれかい?」
「きっかけの一つだったと思うよ。胃酸が強すぎて自分の体が怖くなったもん」
「恐怖の対象が変わっただけか」
「でも人間ってそういうものでしょ?怖い思いをするほど生きてるって感じがするし」
「死に触れるほど生を感じる?」
名前は開きかけた口を閉ざし、ゆっくり瞬きをした。それが何かのスイッチだったかのように、目に光が戻る。
「未知って怖いけど、なくなったら困るよね」
「解き明かすのもほどほどに、ということかな」
「違う違う」
名前はごまかすように、にっこり笑った。
「すいかはおいしいってこと」