地獄の一丁目
魔力測定の際、神殿に付随する神代の魔力の他に計測されたもう一つの異変。その正体を探るためニトクリスとスフィンクスに乗って砂漠を調査し、辿り着いたのは魔術協会三大部門が一つ、蓄積と計測の院──アトラス院だった。
「なんだって……?」
そこでダ・ヴィンチちゃんは耳を疑った。
「彼女は冠位の資格もない、ただのサーヴァントだぞ!?そんなことできる訳がない!」
記録媒体、疑似霊子演算器トライヘルメスは全ての事象を記録する。その事実を理解していながらも感情に身を任せて詰め寄ってしまうほど、ホームズの推論は突拍子のないものだった。
「方法はともかく、彼女は先代ウーサーの頃から宮廷にいる。そしてこの地に召喚された時も一度魔術王の聖杯を手にしていた。観察する機会は十分だったんだろう」
「……、」
「あの賢人は勝とうが負けようがどちらでもいいのさ。そうなるように仕込んだと言うべきかな。他にも目的はあるのだろうけど、一つはどちらに転んでも果たされる──この規模で行う力量といい覚悟といい、彼女には舌を巻くよ。もし助かっていたら……」
ホームズはふと気づいたように「いや、今言う必要はないな」と話すのをやめた。
「ではファラオ・オジマンディアスがセニカ殿に対して不干渉を貫いているのは……」
「聖杯を通して知っていたんだろう。神王は罪なき人間を罰しはしない」
探偵の最高峰にいるホームズが確証のない推理を口に出すとは考えにくい。それに、これで人理定礎値が測定不能になっていた理由にも説明が付く。ただでさえ地球の大部分を観測不可能にしているのに、持ち主同士の願いがすれ違っているのだから、聖杯同士が拮抗するはずがないのだ。
「他の目的っていうのは……いや、それは本人に聞こう。次はあの魔力について調べようじゃないか」
「それはできない」
ホームズはキッパリと断言した。
「この世に残る魅力的な未解決事件をちょっと調べてしまってね。あと一回しか使えないんだ。いやぁ、英霊になっても好奇心には勝てないとは」
「何やってんだよキミ!?」
「ははは、はははははは!」
笑って誤魔化すホームズに二人分の呆れた視線が突き刺さる。
「という訳で残り一回は魔術王について調べたい。だからこの大事件の当事者にして目撃者──マスターとミス・マシュを連れてきてくれ。今日の真相は後日また話そう」
「……わかった」
ダ・ヴィンチちゃんは吐き捨てるように言った。
「説明頼むよ、名探偵」
「もちろんだとも」
どちらからともなく天才と名探偵は握手を交わした。そこに笑顔はなく、犯罪者同士が互いの黙秘を誓い合うような、重い空気が立ち込めていた。