※刀剣男士が付喪神じゃなくて人間
※刀剣名=コードネーム
※機械・カタカナを使いこなす
※レキシューの設定も大幅改変
※審神者いません
メールアドレスを使用していた端末はプリペイド携帯で、早くも電子機器から奴らの情報を引き出すのも行き止まりとなってしまった。
全国に普及している携帯を一つ一つ探ってもいいが、確実に犯人を見つけ出す前に次の事件が起きてしまうだろう。あまり現実的とは言えない。
研修期間中は一か所しか捜査に参加させてくれなかったので、こういう時どんな手段を使うのかわからない。
歌仙と交代した物吉くん曰く、違うチームが現場の事情聴取に行っているらしいが、新情報は出るだろうか。頭の回転が遅い捜査官はここにいられないし、心配している訳じゃないけど、この状況で黙って待つというのは落ち着かない。
目の前には資料が映し出されたままの大画面。読み直せば何か発見があるだろうか。
「女主殿」
何よ、と隣を一瞥すると同時に手首が掴まれた。白い手袋越しに骨と豆の感触が伝わって、そう遠くない記憶が脳裏を揺らす。
もはや反射だった。振りほどいたところで一度出たものを完全に封じることなんてできないのに、彼の手から逃げるように半歩退いていた。どうしてこの組み合わせなんだろう。ただの偶然?本当に?
「時には耐え忍ぶことも重要です。ご自分の手をよくご覧ください」
自由になった手を見ると、左手の親指の付け根が赤く腫れたいた。
癖だ。いつからかわからないけど、良くないことがあるとつい掻いてしまう。無性に痒くて仕方なくて、無意識に爪を立ててしまうのだ。
「すみません、脅かすつもりはなかったのですが……」
「気にしないで。癖なの。少しびっくりしただけよ」
心配されるほど狂気的に掻いていたんだろうか。でも血が出るほどでもないし、時間が経てばすっかり元通りになるのに。
別の意見をもらおうにも、青江と物吉くんは画面に地図や英数字を出しては閉じてを繰り替えしていて、こちらを気にする様子はない。
いや、それでいい。こんな癖知らない方がいい。
その時丁度連絡が入り、インカムで言葉を交わした青江が華麗に180度椅子を回転させて微笑んだ。
「奴らの狙いは日本銀行だ」
*
「やっと来たか」
「お久しぶりです、長谷部殿」
日本銀行の近くの駐車場で、長谷部と呼ばれた男は腕を組んで待っていた。インテリ風の端正な顔立ちに、高級ブランドのスーツがよく似合う。
助手席にはもう一人、サングラスをかけた人が見えるが、降りるつもりはないらしい。こちらに手を上げただけで、後はシートを倒してくつろいでいた。
「新人か」
切れ長の目と視線が合う。だが名乗る前に「話は聞いている」と遮られた。
「新入りだろうと容赦はしない。疑問点は早急に解決しろ」
「仲間として受け入れる。わからないことがあれば聞け。ということですな」
「同じことを繰り返すな。時間の無駄だろう」
「余計な誤解があってはいけないかと」
「誤解されるような物言いはしてないが?」
怪訝そうな表情だった。なんだろう……よくわからないが、とりあえず私の中で好感度が上がった。
「俺達は表を見張る。裏は任せたぞ」
「「了解」」
*
裏口に車を回し、道端で始まった張り込み捜査。定休日らしく、門は閉鎖され、人の出入りはない。
ぱっと見ではわからない小さなイヤホンを耳につけると、表の横断歩道の音を拾っていた。
「長谷部殿、宗三殿、銀行で何があったんですか?確かに日本銀行は国内有数の規模ですが、それだけ警備も厳重です。奴らにとって、かなり危険な賭けだと思うのですが……」
『だから試したんだろう』
『どうやらあの銀行、最新式のセキュリティに替えたばかりだったみたいですよ。担当者が国内2カ所目だって自慢してきたんです。はぁ、襲撃されておいて何を偉そうに……って言ってやりました』
「えっ、言っちゃったの。尊敬します」
「やめてくだされ」
事実だけど口にできるなんて度胸あるな宗三さん。
『案の定激昂してな。殴りかかってきたところを拘束して、他に置いてる場所を吐かせたという訳だ』
『あいつ、僕のことじろじろ見てきたんですよ。顔も近づけてきて……まあ触られる前に無職にしてやりましたけどね』
『やはり権力はこういう時に使わないとな』
イヤホンから嘲笑の和音が聞こえてくる。社員の行動も良くないが、倍返し精神の二人も相当だ。もはや畏敬の域に達する。
「社会の裏側を見た気がする」
「慣れてください」
世間にはいろんな人がいるけど、この人達が味方で良かった。じろじろ見なくて良かった。
だがこれで、なんとなく話が見えてきた。
「なるほどね。一か所目が日本銀行で、昨日は人間を使った下準備だったと」
「裏切る予定だったなら、間違ったパスワードを教えてもおかしくありませんな。これで映像の動揺ぶりも納得できます」
『話が早くて助かる』
男が出かけたうちにポスターやパソコン、車内の工具などの証拠品を片付ければ、逮捕されても証拠がないから妄言になるし、逃げおおせたなら口封じすればいい。あの出血量、確実に仕留めるためだったに違いない。
「でも警備員は?生体反応は奴らの技術で停止できるけど、警備員の監視はどうやってごまかしたのかしら」
『成りすましだろう』
『正解です!』
「物吉くん?」
これ、作戦室にも繋がるのか。
軽く感動している間に、物吉くんの解説が始まる。
『先程、昨夜担当するはずだった警備員が自室で発見されました。命に別状はなく、意識もはっきりしているので事情を伺ったところ、その人の端末から身に覚えのない交代が申し出てあったそうです』
『文字のやりとりなら、多少の違いは気にならないからな』
そんなシフトみたいに……一応国の重要機関なんだけど。
ともかく長谷部さんと宗三さん、社員の自慢話から正解を導き出すなんてとんだ切れ者だ。
『警備員の数も、購入費に圧迫されて削減していたらしい。高価なセキュリティに胡坐をかいていたんだろう。それがこのざまだ』
『僕、油断する奴って嫌いなんですよね……』
「気を付けます……?」
『お前に言った訳じゃないと思うが……ああ、喋り方も好きにしろ。どうせ個性の殴り合いになる』
どういうことだと隣を見ると、「目上の方でも敬語を使わない方がたくさんいらっしゃるので……」と苦笑した。心当たりが多すぎる。逆に堀川くんは新人の私にも敬語を使うし……その辺、結構自由な組織なのかもしれない。
別に殴り合いってほど自分に強烈な個性があるとは思わないけど、とりあえず普通に喋ればいいんだろうか。
『俺達の見立てでは、奴らは13時から16時の間にやってくる』
堂々とした声音から、ほぼ確信しているとわかる。
どうして言い切れるんだろう。人通りがなくなる時間帯ではない。何か理由があるはずだ。この辺りで、銀行強盗なんて違和感をなくせることが……。
「「あっ」」
『そういうことだ』
『へぇ、よく知ってましたね。僕は兄さんが行かなければ興味ありませんでしたよ』
今日は歓迎会があったはずだ。アジア大会で表彰台に立った選手を呼ぶから、署内の待機人数はぐっと減る。参加する一般人が犯人を目撃しても高揚していれば見落とすだろうし、遠出の者は清掃員か何かだと勘違いするだろう。
それにしても、16時か。
「張り込みって飲食禁止?」
「そんなことありませんよ。もちろん、あまり席を立たない方がいいですが……」
車内に搭載されているデジタル時計を確認すると、12時52分を示していた。
「早く来てくれないかしら」
「完全に中毒者の発言ですな」
「空腹には勝てないの」
『グローブボックスに色々入ってますよ』
言われた通りグローブボックス──助手席の正面にある収納スペース──を開けると、チョコバーとペットボトル、そしてハンマーが出てきた。
「ハンマーは……窓を叩き割ればいいの?」
「今ではありませんよ?」
「わかってるわよ!」
『失くさないようにしとけよ。ハンマーは色々と便利だった』
「経験者がいる……」
「正規の使い方ではなさそうですな……」
チョコバーを齧りながら、異形を待つ。ナッツ入りの栄養食は、噛み砕くたびに小気味良い音がした。