・ジャンヌの戦友
・一度死んだせいでやけくそ気味
人は死んだらどこへ行くのだろう。天国か地獄か、それとも永遠の無か。死んだことがないからわからないと笑っていた頃が懐かしい。
友よ、俺は転生したぞ。
舞台は魔法が存在するファンタジーワールド。転生特典はおろか神に会うこともなかったが、他の連中の対処で忙しいのだろう。多分。
とにかく、死んだからには新しい世界で悠々自適な第二の人生送ってやる!
……そう思っていた時期が俺にもありました。
「切っても切っても減らないとか無限湧きか!?影分身ならナルトに勝てるぞゴキブリ野郎!」
「男主!後衛が到着する前に半分削ってください!」
「はあ!?無茶な注文すんな!」
この世界は史実に沿っているらしく、普段クワを持つ農民ですら戦争とあらば徴兵される。だから「なら給料の高い騎士になった方がいいな!死にそうになったらトンズラすればいいし!」と王国の騎士に志願したのだが……まさかここまでピンチになるとは思わなかった。俺何回戦地に立ったんだよ。
知っている世界であれば原作知識で回避できたのかもしれない。フランスとかジャンヌとか聞き覚えのある名前を聞いた時は現実世界じゃね……?と思ったこともある。
でも現実に魔法はないし、中世モチーフの作品なんて挙げればキリがない。だから俺は唯一使える魔法「やけくそ」を発動した。
特典もない一般人は戦場に立たせちゃダメってそれ世界共通で言われてるから。あと乙女に国の命運預けて自分は隠れるとかクズの極みだぞ王様ァ!名前忘れたけどなァ!
「つーか兵士投入し過ぎなんだよイングランド!人命はもっと尊ぶもんだろーが!」
「発言と行動が矛盾していますよ!」
「うるせぇ!喋る暇あったら手ぇ動かせ!」
「貴方も十分喋ってるじゃないですか!」
余裕があるわけじゃない。叫んで気を紛らわせないとやってられないだけだ。余計な思考はやけくその天敵である。
前世の自我がそのまま残っているせいで、常識も平和な日本産のまま。どんなに屁理屈をこねたって、俺がやっていることは結局人殺しだと考えてしまう。
戦争に屍はつきものだ。じゃあ俺は何のために戦っているんだろう。金は十分貯まってる。名誉もいらない。ハーレムも面倒だ。
すれ違い様に鎧の隙間に剣を滑らせていると、旗を掲げる鎧姿が目に映った。
そうだ、ごちゃごちゃ考えるのは性に合わない。理由なんて「可愛い子を守りたいから」で十分だ。
教科書のジャンヌ・ダルクと同じ結末は辿らせない。そのために剣を振ろう。屍を積み上げよう。
「死にたい奴だけかかって来い!俺は今、最高に機嫌が悪い!」
男主が次々と敵陣を吹き飛ばしていく。周囲に漂っていた敗北の色は一気に消え失せ、騎士たちは「また男主の癇癪が始まったぞ」と演劇でも観るように口々に呟いた。
フランス軍の士気が一気に高まったのが手に取るようにわかる。
「今です!我らはこの地を奪還します!」
私は旗を掲げて声の限りに叫んだ。野太い雄叫びが波のように広がっていくが、その中に彼の声はないのだろう。
男主はいつだって異質だった。王に兵を借りた時もそうだ。国を奪還するのだと愛国心を漲らせる者や小娘に従うのかと嫌悪を顔に出す者がほとんどの中、彼は王に向かって「お前タマついてんの?」と貶したのだ。
不敬罪に値する発言に、当時の私は冷や汗をかいた。
だが彼は眉間にシワを寄せ、小首を傾げたまま追い討ちをかけるように言い放った。
──目の前まで侵略されときながら一般市民に絶対の成果を求めるとかおこがましいにも程があるだろ。
後で知ったことだが、彼は騎士の中でも問題児として有名だったらしい。実力は団長クラスだが、言動で大幅なマイナスになっているとジルが教えてくれた。
戦う彼を見ているとよくわかる。問題発言と突拍子のない行動は予想が難しく、一度癇癪を起こせば誰も止められない。
──馬乗りは初めてか?ったく、休憩なしとか正気度喪失してんだろ。ま、何かあったら遠慮なく呼んでくれ。
──単騎なんて認められるか!賛成する奴は出てこい。拳でゆっくり語り合おうじゃねーか。
──俺が知るか。神父共も知らねーよ。単純に教えるなら可愛い子にしたかっただけじゃねーの?
でも、彼の癇癪は優しさから生まれている気がするのだ。
やっぱり無策で来たのはまずかったか。処刑直前に突入した方が成功したかもしれない。
でも一刻も早く助け出すべきだと思ったのだ。ジャンヌは牢獄に入れられていい人間じゃない。国を救った報いがこんな始末だなんて俺は認めない。
「なぁ、見張りの立場で言うのも何だが、いい加減寝たらどうだ?その指、手当てするこっちが痛いんだが」
「だったら見なきゃいいだろ。人間こんくらいじゃ死なねーよ」
「……さすがフランス一の癇癪持ちだ」
ぐるぐる巻きにされた包帯の下で、眠気覚ましに折った指の骨が鈍く痛む。
おそらく次のチャンスは連れ出される時だ。寝過ごしてる間に外に連れ出されて処刑、なんてことになったら笑えない。
「恋人なのか?」
「あ?」
「そこまでして助けたがってるんだ。関係の一つや二つあるんだろう?」
「お前の目は節穴か?スマホ片手にスマホ探す奴よりマヌケだぞ。三日三晩俺の何を見てたんだ」
「すまほ?……いや、じゃあなんでそんなに執着してるんだよ。そりゃああの敬虔さには俺らも助けてやりたいと思ったが……」
「冤罪で殺されそうな奴を助けるのに大層な理由が必要か?何とかしたいって思うのはそんなに変か?」
「っ……」
見張りは声の出し方を忘れたかのように黙った。ああ、腹立たしい。乱雑に頭を掻いたが気は晴れず、クソ、と口癖になってしまった悪態をついた。
「俺は……俺達は、お前に謝らなきゃならない」
「……急に何だよ」
改まって深く頭を下げる見張りに、嫌な予感がした。
「ここにジャンヌ・ダルクはいない。あの子は昨日、処刑された」
「……ドッキリにしちゃあ胸糞悪いネタだな。そういうのは後にしてくれ」
「お前が運ばれたのは別の施設だ。最初から騙してたんだよ。俺達はお前を足止めすることを命じられて──」
「その喧しい口を閉じろっつってんだよ!」
俺はアイツを助けるために捕まったんだ。ここにいると聞いたから、いても立ってもいられなくて──なのに、死んだ?
「フランスには偽の情報を流していたんだ。王が身代金を払わずに奪還しに来るかもしれないと踏んでな……だが見捨てるつもりらしい。お前の分は払ったが、あの子には一銭も寄越さなかった」
「は……ああ、くそ……結局は教科書通りってか…………」
本当にこの世はままならないことばかりだ。こんなだから、俺はまともに生きていられない。
「今頃天国か……道に迷ってないといいが」
「かわいそうだが、火刑に導きはないだろう」
「……俺にとっちゃ燃やすのは普通なんだがな」
もう全てが馬鹿らしい。今更アイツを見捨てた国に戻ったところで何になる。そうだ、今度こそトンズラしてやろう。日本を目指すのもいいかもしれない。
「それと、あの子からお前に伝言だ。『不本意でしょうが、私の愛するフランスを守ってください』だと」
「……そうか」
視界が歪んで、両目に腕を当てた。生きていれば何とでも言えたのに、遺言じゃあ断ることもできない。
「ほんとアイツは……無茶な注文をする」