「よおジャンヌ。元気そうじゃねーか」
「男主……!?」

 忘れもしない、生前の顔なじみ。
 不可思議な特異点でマスターを助けた彼は、その時結ばれた縁によってカルデアに召喚された。


 模様替えという理由で部屋に押し掛けた私を、男主はすんなりと入れてくれた。
 昔は男女が二人きりになるのは世間的によろしくないと避けられ続けていたが、世間の目が存在しないカルデアは話が別なのだろう。

 生前は軍隊一の変わり者として距離を置かれていた彼だが、カルデアにはあっという間に馴染んでしまった。特にオルタリリィの私やジャック、ナーサリー・ライムはすぐに懐いて、一緒に何か作ったり肩車してもらったりと、楽しそうにはしゃいでいる姿をよく見かける。彼は私のことも何かと気にかけてくれていたし、面倒見がいいのだろう。
 部屋には彼女達から貰ったのだろう絵が飾られていて、何一つ改造されていない部屋の唯一の個性となっていた。

「でも意外でした」
「何が?」

 どら焼きを緑茶で流しつつ、男主が聞き返す。

「貴方は座を拒否すると思っていました。死んでまで働きたくねぇ、とか言って」
「それな。いや、俺もそのつもりだったんだよ。無期限労働なんてやりたくないし、今度こそ死んでやるって思ってたからさ。ほら、お前も食え」
「今度こそ?あ、いただきます」
「まあなんだ……俺が英雄なんて大層なモンになれたのは、お前がいたからだ」
「そ、それは、どういう……」

 まさか私のために戦ってくれた、とか?でも男主はそんなロマンチックなことを言う人では……たまーにありましたけど、でも期待外れまでがセットでしたし!

「ジャンヌって有名だろ?教科書にも出てくるしゲームにもなってるし。そのおこぼれで英雄になったのにお前と違う道を選ぶのは違う気がしてさ」
「はい、そうですね。貴方はそういう人です」
「?」

 受け取ったどら焼きに齧りつくと、控えめな甘さが口に広がった。

 別にがっかりなんてしていません。今はまだこれでいいのです。負け惜しみではなく。

「ありがとうございます。フランスを見捨てないでいてくれて」
「逃げられなかっただけさ。お前の頼みはついでだ、ついで」
「でも騎士でいてくれたじゃないですか」
「賃金が良かったからな」
「ホントですか?素直じゃないですね」
「いやいや、俺はいつだって自分に正直だよ」
「わかりました。今はそれでいいです」
「なんで俺がワガママ言ったみたいになってるんだ」
「貴方が強情だからですよ」
「……」
「……」

 二人の間に静寂が通る。それがなんとなく気まずくて、お互いどら焼きに集中した。

「この餡、少し甘いですね」
「甘いの苦手だったか?」
「いえ、おいしいです」