痛くなど無いはずの頭が酷く悲鳴を上げて軋むから。
痛く無いはずの心臓が、脈打つように暴れるから。
『 お姉ちゃん、怖い夢を見たの 』
隣で眠っていた貞子が、目に大粒の涙を浮かべてわたしを起こした。
『 怖い夢、? お姉ちゃんに話してごらん 』
『 うん、うん、… あのね 』
" お姉ちゃんや実弥お兄ちゃんがね、刀を持って人を斬っている夢だったの "
静かに嗚咽を漏らした貞子はごめんなさい、とわたしに謝った。すっかり冷え切った指先で貞子の涙を拭う。
『 お姉ちゃんと実弥お兄ちゃんが怖かったねえ、ごめんねえ。大丈夫、そんなことしないよ約束するよ 』
『 ううん、… わたしこそごめんなさい、そんなことしないってわたしが一番わかってるのに 』
『 …… 夢はね、… 人が見た夢はね、自分以外の誰かに伝えるとね、効果が無くなるのよ。だから、絶対にそんなこと起きないよ、大丈夫よ貞子 』
わたしよりもひと回り小さい身体を抱きしめると安心したのか、暫くして寝息を立て始めた。季節は秋に変わり、肌寒くなってきた。風邪をひかないように掛け布団を首元までしっかりとかける。
『 おやすみ貞子、』
額を撫でると少しだけ表情が和らいだ。
他の兄弟もみんな、寝息を立てて寝ている。外では相変わらず、寝る前と何も変わらずに雨が降っている。少しだけ雨戸を揺らす風。
( あゝ、頭が割れそう )
ずきりと痛んだ頭を押さえ、わたしも再び眠りにつく、
□ □ □
『 ッ、…! 辞め、… お父さんッ 』
お父さんは酒臭い息を撒き散らし、いつもわたしにそう命令していた。
このギリギリの生活で、毎日最小限の消費しかしていないわたしたち子供を顧みず、お父さんはいつもお酒を飲んでは暴れていた。
気に食わないことがあれば殴り、腹が立てば蹴り、まるで子供のように暴れた。お母さんは小さな身体でいつも化け物のようなお父さんからわたしたちを守っていてくれた。
不思議なことに痛みに鈍かったわたしに、お父さんはいつも腹を立てていた。
あの日も、お父さんが死んだ日もいつもと変わらずに朝から家の中で暴れ回っていた。
『 ッもう辞めてください! 』
『 親父!! 辞めろ、辞めろよ! 』
『 もう辞めて…ッ 貞子も寿美もまだ小さいんだよ! 』
殴られた貞子と寿美は泣いていた。玄弥が二人を庇うように立つ。お母さんとわたし、実弥お兄ちゃんで暴れて言うことをきかないお父さんをなんとか鎮める。
その時、瓶が割れる音と共に、自分の頭から液体が垂れ、お酒の匂いが充満した。
『 名前ッ 』