花開く恋心
城下町の一角で、ナマエはふと足を止めた。硝子張りの窓の向こうでは、きらきらと輝く魔導具の数々が見える。
「……どうした、ナマエ」
ナマエの数歩先を歩いていたクラウスが、立ち止まったナマエに気付いて、その傍らに駆け寄った。
ナマエのふたつの瞳が真っ直ぐに見つめる先には、ピアスの形をした魔導具が売られていた。
控え目な装飾は、確かにナマエに似合うかもしれない。
だが。
「……格好良いですよね、ピアス」
ほうと息を吐き出すナマエの耳朶に、ピアスを通す為の穴は空いていない。
つるりとした柔らかい耳朶は、まだナマエを受け入れることの叶わない耳朶だった。
「……お前も、ピアスをしてみたいのか」
「はい! ピアスをしているクラウス先輩、格好良いじゃないですか」
曇りの無い目と弾む声色で返されて、クラウスは言葉を失った。
恐らく、相当恥ずかしいことを言ったという事実に、ナマエは気付いていない。
その事実を突き付け、ナマエの発言を茶化すには、クラウスは生真面目すぎた。
「そう、か」
「……でも、やっぱり痛いんでしょうか」
窓越しにピアスを見つめるナマエの表情が、ほんの僅かに曇った。
ピアスに手を出してみたい気持ちはあっても、やはり痛いものは嫌なのだろう。
そんなナマエに微笑ましさを覚えて、クラウスは店の扉に手をかけた。
「……クラウス先輩?」
「痛くない方法を探してみるのも、良いものだろう?」
扉に吊るされたドアベルが、しゃらしゃらと可憐な音を立てる。
そのまま店に入ってしまったクラウスを追いかけて、ナマエも慌てて店に飛び込んだ。
店内は、アクセサリーの形をした魔導具があちこちに並べられていて、眺めているだけでも心が踊る。
「ナマエ、こっちだ」
ときめく心もそのままに、魔導具を見つめるナマエを、クラウスがそっと手招きする。
首を傾げながらも、素直にクラウスの側に駆け寄ったナマエは、思わず感嘆の声を漏らした。
「わあ……!」
「お前にピアスはまだ早いだろう。……これならどうだ?」
クラウスが手に取ったのは、小さなイヤリングだ。
銀色の華奢な蔦が、蒼い小さな宝石を抱えているデザインは、小さいながらも可愛らしい。
「とても、とても綺麗です!」
「そうか、良かった。買ってくるから、少し待っていてくれ」
何でもないような顔で言ってのけたクラウスに、慌てたのはナマエの方だ。
「クラウス先輩、そんな、申し訳無いですから……!」
「気にするな。好いた後輩に、プレゼントのひとつも贈れないような男でいたくはないからな」
ナマエは、顔に熱が集中するのを感じて、口を噤んだ。
そのまま踵を返し、会計に行ってしまったクラウスの耳が真っ赤に染まっていたことを、きっとまだ、ナマエは知らない。