朝、目が覚めると涙を流している。
理由はわからない。目がヒリヒリと沁みて心がじんわりと朝日に温められる感覚はどうももどかしいものがあった。

悲しい夢を見ていたのだろう。と思っていたがどうもそうではないようで、内容は覚えていないが起きた時の喪失感や孤独感は残り、朝はいつも苦手だ。

それでも毎日朝はやってくる。
仕事に行き、帰って、寝て、朝が来る。その繰り返しだ。
感傷に浸っていると仕事に遅れる。は、と時計を見れば家を出る時間まで30分を切ろうとしていた。
慌てて布団から飛び出れば冷たい床が私の足の熱を奪っていく。
ぶるりと身体を震わせ、よし頑張ろうと一言。
今日は金曜日。今日が終われば明日は休みなのだ。それだけで今日はやりきれる。




仕事も定刻でおわり、さあ帰ろうと荷物をまとめていると部署の同期が飲みに行こうと誘ってきた。
給料も入り財布の紐が緩んでいたのもあり快諾して近くの居酒屋へ行った。
最近どう?という世間話から仕事の愚痴、プライベートの悩みや恋の悩みなどお酒が入り話はヒートアップしていった。

「そろそろお開きにしよっか」

時刻は9時を回ろうとしていた。金曜日ということで二軒目いくかとなったが疲れたし酔いもいい感じで回っていることでこれ以上はやめた。

酔いに任せて鼻歌交じりに帰路につけば家まであっという間だった。
誰もいない家にただいまと言い放ちそのままベッドにダイブした。
お風呂に入らなきゃだとか着替えなきゃだとか化粧落とさなきゃだとか考えてるうちに、ジクジクとベッドに縫い付けられるように身動きを取るのが億劫になりとうとう意識を手放した。



夢の中で私は誰かに手を伸ばしていた。
だがその伸ばした先は白く靄がかり、誰がいるのか何があるのかはわからない。

「ーー!!」

誰かの名前を呼ぼうとした瞬間、は、と目が覚めいつもの朝がやってくる。
流れる涙を袖で拭い、息をつく。
だが今日はいつもと違い薄暗くまだ朝日が昇って来ていない時刻を時計は示していた。

「土曜日なのに」

せっかくの土曜日だったが早い時間に目が覚め、喪失感や孤独感と共に酒の抜けきっていない胃の不快感が押し寄せた。
再び寝る気にもならず風呂に入ることにした。

この嫌な目覚めを忘れようと熱いシャワーを浴び、そして夢を思い返す。

「夢を覚えてるなんて初めてかも」

いつもどんな夢だったかも記憶に残らず目が覚めてしまう。だが今回はほんの少しだったが覚えている。
この夢のどこに涙し、感傷に浸る部分があるのか自分にはわからなかった。

キュッと蛇口を閉めれば降り注ぐお湯は止まりポタポタ名残惜しそうに雫を垂らしていた。



火照る身体を部屋の空気が冷やしてくれた。
朝日が昇りつつあるのかぼんやりとした光が差し込む。
近くで新聞屋さんが近所の家に新聞を入れる音がした。
あぁ、朝が来たと感じると同時にまた眠たくなって来た。
髪も濡れたままそのままベッドに横たわり朝の音に耳を傾けた。
スズメの声、新聞屋さんのバイクの音、たまに車の音。

布団に包まれば冷めた身体の熱が芯から指先まで広がる感覚が心地よかった。

遠くでどこかの犬が吠えていた。
そしてまたどこか遠くで轟くような犬の遠吠えが聞こえた。
やけに騒がしい朝だと感じながらこの眠気に身を任せた。





←