全てに於いてかなわない


強化系が一番戦いやすかった。奴らは馬鹿正直に真正面から挑んでくるから。
私がこうして銃を構えたとき、ただ嗤いながら手のひらをかざすのだ。
「効くはずがない。撃ってみろ、止めてやるから」と。
そんな自信に満ちた奴らの手指もろとも、頭を撃ち抜く瞬間は快感だった。
高性能な重火器が蔓延る今世で、このような能力が通用するのか否か。答えはイエスだ。私がこれまで奪えなかった命はない。この銃弾が撃ち抜けぬものなど、この世に存在しないのだ。
私が向けた銃口を前に救かる方法はたった一つ。回避することだ。出会えたことはないが、それが唯一の弱点となる。もっとも銃弾を避けるほどの手合いなど、身内以外に想像できるはずもない。昔はよくフランクリンと比較されたものだが、再度言う。私の銃弾が撃ち抜けぬものなどこの世に存在していない。
それが例え、クロロのような強者が相手でもだ。

「何が言いたい?」

とはいえ、相手がいかなるものも防ぐ念能力を保持していたら話は別である。これを世間では矛盾という。最後は互いの誓約の差が勝敗を分けることになるだろう。臨むところである。

「もう一度問う。お前はオレの読書を妨げてまで何が言いたいんだ」
「なんでシャルたちの能力ばっかり! 私のも使ってクロロ!」

無理矢理膝上に乗り思いきり抱きつく私を、クロロは大きな溜息一回分で放置した。おそらく後頭部越しに本を読んでいるのだろう。こうなった私には何を言っても無駄であると長年の付き合いでよく知っているのだ。

「お前仕事はどうした」
「全部キャンセルしたに決まってるでしょ。というか誰も教えてくれないとか薄情すぎじゃない? 私もウボォーの弔い参加したかったしパクにさよなら言いたかったしグリードアイランドくらい全然行けるし、え、待ってクロロ。何これイジメ? クモ総出の? 返答次第ではアジトに向かって弾幕ぶっ放すけどいい?」

ふう、と頭上から二度目の溜息が聞こえた。
言いたいことを最後まで言わせてくれるあたり、クロロは優しいのだ。ただ単に、面倒なだけともいう。

「お前が」

本を閉じて置く音がし、後頭部にクロロの指先が触れた。

「心配だったんだ。わかれよ」
「…………」

予期せぬ吐息を受け顔中に熱が集まるも、この男がこんな歯の浮くような台詞を言うはずがない。睨みあげるようにゆっくりと上体を離せば、案の定からかいまじりの視線で愉しそうに私を見下ろしていた。

「お前にも、まだそんな純情さが残っていたとはな」
「死にたい?」
「やってみろ」

にっこりと銃を具現化し、額の十字目掛けて銃口を押し付けた。この距離では外しようもないのだが、相手はクロロだ。私の息遣い、瞳の動き、筋肉の収縮、その全ての要素を観察し、きっと余裕でかわしてみせるのだろう。
ゼロ距離でそれをされると念能力者としての矜持が音を立てて崩れてしまうのだが、なにぶんこの男だけは別格だ。悔しいと思うことすら烏滸がましい。

「ねえ、私の能力使ってよ。アイツ絶対ゴムで弾丸を返そうとするよ。そのまま蜂の巣にしてしまえばいいじゃん」
「もう計画に変更はない。お前は当日留守番だ」
「え、応援すら許されないとか、どんだけ私を仲間外れにすれば気が済むの」
「お前が見ていると緊張するだろ」
「一体どの口が……」
 
一気に身体の力が抜け、私はそこでようやく思考を放棄した。
クロロの胸板に顔を埋め、一定の鼓動を聞きながら穏やかに思う。いつかこれが途絶えた日には私も、自らの銃で後を追おうと。

「ああ、そういえばお前の能力を使わない一番の理由がある」
「あーはいはい。わかったわかりました」
「借りたところで、お前の腕前には到底敵わないからな」
「へーそう」










 え!?!?!?!?

- 結磨様/空模様色模様