神龍に選ばれし者!タイムパトローラー、クラス誕生!




 地球のとある場所。
 夜空に無数の星がかがやき、丸く白い月が周囲を仄かに照らしている。
 木々が密集した森の中、男性が細長くて太い丸太に座りながら、かがり火を焚いていた。
 赤色のオールバックに、一本だけ前髪がたれさがっている。穏やかな緑色の瞳には細い木の棒で貫かれ、火で焼いている数匹の魚が映っている。黒いインナーの上から赤色の胴着を着ていた。
 彼の名はクラス、世界中を巡る旅をしている。
 今日は町や村がなかったため、野宿で一夜を過ごす。今は近くの川で捕れた魚が焼けるのを待っている。

「そろそろか?」

 クラスは火傷をしないように、慎重に魚が突き刺さった木の枝を手に取る。焼いた魚はこんがりとしており、香ばしいにおいを漂わせていた。先端と末端を両手でもち、口を開く。

「いっただきま……」

 クラスが魚にかぶりつこうとする。

「……え?」

 風景が全て白になっていた。先ほど居た森や目の前にあったたき火が消え、何も無い空間が広がり、足が地面から浮遊していた。
 どこか厳かで威圧的な声が耳に入る。

『遠くの地で、お前を呼ぶ者がいる。強き戦士よ。さぁ、姿をみせるがいい』

 声が終わると同時に、視界を眩しい光がつつみこむ。あまりの目映さに、クラスは腕で顔を覆った。
 光が止み、ゆっくりと目をひらく。
 黒色にぬりつぶされた空。緑色の鱗に黄色の腹の長い胴体らしき物が空中に浮かんでいる。視線を下に移すと、赤い瓦のついた白い壁と草の生えた地面、整備された石畳の道が見えた。
 気配を感じ、クラスは背後を振り返り、目を見開いて驚愕の表情を。
 クラスの何倍も巨大で二本の角とヒゲを生やした龍が、クラスをみおろしていた。龍は光の中で聞いた声で言う。

「願いは叶えてやった」

 そう告げると、龍は散光を放ちながら、姿を消した。
 龍が居た場所には台座が置いていた。台座には七つの丸い窪みがあり、黄色く光るオレンジ色の玉がとびでてきた。七つの玉は時計周りで空へと舞い、散り散りに飛んでいった。
 暗闇だった空が明るくなっていく。
 クラスは呆然と、龍が消えた空中をみあげている。何が起こったのか分からず立ちつくすことしかできなかった。

「驚いてますよね」

 見知らぬ声と足音が近づいてくる。
 クラスは足音の方に顔を見向く。
 薄紫色の額髪は大きくM字に左右に分かれ、襟髪は綺麗に切りそろえられている。目鼻立ちが整った凜々しい顔立ちだ。身長はクラスよりも少し低く、ファーの付いた黒いコートを着用している。胸には茶色のベルトを付け、背中には鞘に収まった剣を背負っていた。
 青年はクラスに接近しながら、話しかけてくる。

「説明はあとでゆっくりさせていただきます。でも……まずは」

 青年の話をさえぎるように、グーっという大きな音が響く。
 音の発生源はクラスの腹からだった。
 先ほどから黙っていたクラスが口を開く。

「悪いが、俺は猛烈に腹がへってるんだ。先にこれを食べていいか?」
「……えっと、どうぞ」

 クラスは青年に背中を向け、魚にかぶりついた。青年はクラスの背中を静かに見守っていた。
 食事を終え、クラスは真面目な顔でふりかえる。

「で、ここはどこで君は誰なんだ?」
「口の周りに食べカスが付いてますよ」
「締まらなくて本当にすまない」

 クラスは口のまわりについている食べかすを、手で拭う。
 青年は苦笑をうかべていたが、気を引き締めるように表情を変えた。

「自己紹介の前に、あなたの実力をみせて下さい」

 青年は両腕を身構える。クラスは青年の構えをみて、腰を低くし、両腕を軽く曲げた。
 お互いに睨み合い、相手の出方を見ようと微動だにしない。
 動いたのは青年の方だ、クラスに向かって正拳突きを放つ。

「はぁっ!!」

 クラスが拳を回避すると、青年はすかさず左右の拳で連撃を繰り返す。
 クラスは冷静に青年の拳を受け流していく。左手をしゃがんで避け、右足を軸に左足を反時計回りに動かす。青年の足首をねらって足払いを行う。

「ぐっ!!」

 青年が後ろへと崩れ落ちる。
 しかし、すぐに片手で地面を付き、反動で後ろへと下がった。

「へぇっ」

 やるなと言いたげな声を出す。クラスと青年は挑発的に微笑み合い、同時に地面を蹴った。
 それから数時間におよぶ手合わせが続いた。実力は拮抗しており、両者一歩も引かない様子だった。
 先に構えをといたのは青年だった。
 青年は途中から使っていた剣を空中にほうりなげ、クラスに歩みよっていく。

「流石ですね、神龍にえらばれたことはあります」

 宙をまっていた剣の刃先が下向きになって、青年へと真っ直ぐに落ちていく。体を少し右に傾けると、剣は吸い込まれるように鞘へと収まった。
 お見事とクラスは心の中でつぶやいた。

「いきなり襲いかかってすみませんでした」

 青年はクラスの最初の疑問に答える。
 彼の名前はトランクス。とある事情からタイムパトロールをしている。クラスが召喚された世界はトキトキ都、時の流れが集まる場所らしい。
 タイムパトロールというのは、歴史の改変を元にもどす仕事だとトランクスは言う。

「歴史の改変?」
「本来あるべき歴史が、何かのきっかけでまちがった未来につながってしまう事があります。そうなると大変な事態が起きてしまいます。歴史を正しい方向に修正するのがオレ達の仕事です。タイムパトロール隊員はあらゆる時代の戦士と戦います。時には伝説の武道家や超パワーの戦士とも……。どうですか? 貴方の実力をここで試してみませんか?」

 クラスは両腕を組む。
 数秒ほど考えたのち、口を開いた。

「すまないが、いきなり連れてこられて一緒に戦ってくれといわれても、すぐに返答はできない」

 クラスの返答に、トランクスは頷く。

「当然だと思います。なら、この都を巡ってみて下さい。返事は戻ってきた時でかまいません。他のタイムパトローラーたちの話を聞いてみてください」
「……わかった」

 トランクスの態度にクラスは疑問を感じながらも、彼の話に耳を傾ける。
 クラス達が今居る場所は時の広場。他にもタイムマシン発着所や、商業区で場所が別れている。トランクスに見送られながら、クラスはタイムマシン発着所につづく門をくぐった。
 トキトキ都をまわっていると、肌と髪が同じ色の柔らかそうな生き物に、体型は人間のようだが、二本の触覚を生やした緑色の肌をした人物。堅い装甲を付けた、小柄で大きな尻尾を持った宇宙人などが沢山いた。
 歩き疲れたクラスは、商業区のベンチに腰を下ろした。

「ねぇ」

 座りながら周りを見渡していると声をかけられた。
 声の主は女性だった。
 二つの長いもみあげには金色の髪飾りをつけ、純黒で背中上までのウェーブ状の長髪。目鼻筋が通っており、クラスと同世代のようだった。動きやすそうな白い武道着に黒いスパッツを着用していた。
 女性はじっとクラスをみつめている。

「何か用か?」
「……もしかして、トランクスさんが呼んだ人?」

 言い当てられて、クラスは驚いた。

「え? どうして」
「さっき空が暗くなってたから、トランクスさんが前々からいってた人を神龍で呼び出したんだなって。見かけない貴方をみつけて、もしかしたらと思ってね」

 女性は朗らかに微笑んだ。

「自己紹介があとまわしになってごめんなさい。私はエオスよ」
「クラスだ。よろしくエオスさん」
「エオスでいいわ」

 エオスが右手をさしだす。クラスは左手を出してエオスの手を握った。
 握手を終え、二人は手を離した。

「何をしてるの?」
「ちょっと休憩してたんだ。都を巡ってみたけが、初見の種族が沢山居るんだな」
「じゃあ、一つずつ紹介してあげるわ」

 エオスによると、髪と肌が同色の種族は魔人族、緑色の肌に二本の触覚を持つ種族はナメック星人、装甲を纏った小柄で尻尾の生えた種族はフリーザ族だと丁寧に教えてくれた。

「なるほど。フリーザ族やナメック星人には雄と雌の区別がなくて、魔人族は俺たちと同じように性別があるんだな」
「そうよ」
「色んな種族がパトローラーになってるのか。エオスみたいな地球人パトローラーも居るんだな」
「あら、地球人じゃないわよ」
「えっ?」
「私はサイヤ人。彼らと同じ宇宙人よ」
「ホントか?」

 クラスはエオスを上から下に眺める、彼からみたら肌の色も体型も地球人に思えた。

「サイヤ人は地球人とよく似てるから、間違えられるの。ちがうのは地球人以上の長い寿命と、外見の成長がかなりゆっくりなところね」
「全く気がつかなかったな」

 クラスは地球人だと勘違いした中に、サイヤ人が居たのかと考えた。顔を向けると、エオスがじっとクラスをみつめていた。

「なんだ?」
「……ううん、何でもないわ」

 エオスの態度にほんの少し疑問を感じ、首をかしげた。
 気を取り直して、クラスはエオスに質問をする。

「エオスは何でパトローラーに?」
「……色々あってこの都に流れついたの。倒れていた私をトランクスさんが拾ってくれたのをきっかけにね」
「そうだったのか」
「どうしてそんな事をきくの? もしかして、隊員になるのを迷ってる?」
 エオスの指摘に、クラスは思案した後、頭を軽くかいた。
「その通りだ。正直、歴史を守るっていまいちピンとこないんだ。俺にちゃんと務まるのかなって」

 トランクスの話を聞いた時から、クラスは乗り気ではなかった。自信がないわけではなく、スケールの大きな話についていけなかった。
 都をみてまわったが、自分よりも実力が上なものが沢山いたし、戦闘力は五だといわれた。他にも適役が居るからと、断って他の人に頼むよう進言するつもりだ。

「それじゃあ、自分のためっていうのはどうかしら?」

 エオスの言葉にクラスは首をひねる。

「どういうことだ?」
「トキトキ都のパトロール隊員たちは、強い人と戦いたいって人や、英雄になりたいからって人もいるの。大事なのは何をしたいか、じゃないかしら」

 クラスの脳裏に一つの場面がうかぶ。
 古びた家で髪を白髪に染めた老人がベッドで横たわっている。ベッドの傍では、クラスが木の椅子に座りながら悲しそうな表情でみつめている。
 老人は微笑みながら、クラスに何かを告げる。クラスは頷きながら皺だらけの老人の手を握った。
 クラスは俯かせていたて顔を上げる。

「うん。今きまった」
「迷いは晴れた?」
「おかげさまで。ありがとうな、エオス」
「どういたしまして。そろそろトランクスさんの元に行ったら? 貴方の帰りを待ってると思うわ」
「あぁ。それじゃあまた」

 クラスはベンチから立ち上がり、時の広場へと向かう。
 エオスはクラスの背を見つめながら呟いた。

「もしかして、彼……」

 エオスの言葉は、風と共にきえた。

 時の広場、最初に出会った場所でトランクスが立っていた。
 トランクスはクラスに気付き、笑みをうかべる。

「お帰りなさい。どうでした?」
「トキトキ都はすごいな。色んな種族が沢山いて、元居た世界よりも文明が発展してる面白い場所だ」
「気に入ってくれて何よりです。また、戻ってきてくれたという事は……タイムパトロールを手伝ってくれるんですよね」

 クラスは数秒ほど間をあけたあと、口角をあげた。

「あぁ。やらせてくれ」
「ありがとう、よろしくおねがいします!」

 トランクスの態度に、先ほど感じた疑問をぶつけてみる。

「あんまり驚いてないな。断られるって心配しなかったのか?」
「心配なんてしませんでしたよ。オレは神龍に『一緒に戦ってくれる強い人』を連れてきてほしいと頼みましたから」
「……あぁ、なるほど」

 クラスは納得する。神龍と呼ばれたあの龍が、最初から拒む人間を召喚することはないと解釈した。

「では、オレの後についてきて下さい」

 トランクスが歩きだし、その後ろをクラスはついていった。
 大きな門をくぐると、周りの景色か一変した。
 薄緑色の空には大小様々な惑星が浮かんでいる。地面には石畳の道が続いている。中央に白くてドーム型の建物がそびえたっており、ドームの上には闊大な木が生えていた。

「ここが時の巣です。中央にある建物は、刻蔵庫とよばれる書物の倉庫です」

 刻蔵庫を見ていたクラスは、ふと何かに気づく。視線の先には、半球型の止まり木のようなものが刺さった家が建っていた。隣にはシャッターの閉まった倉庫と水の出た噴水が目に付く。
 家を指さしながら、トランクスに尋ねる。

「なぁ、トランクス。あれは誰の家だ?」
「あそこは、この場所を管理している、時の界王神様のお家なんです。今は不在ですけど、きちんと紹介します」
「どんな人か楽しみだな。それで、何で連れてきたんだ?」
「是非、貴方に頼みたい仕事があるんです。刻蔵庫に向かいましょう」

 入り口の階段を上り、トランクスと共に中に入っていく。
 部屋の中央には丸くて大きなテーブルが設置しており、壁際についている三つの菱形に無数の何かが置かれていた。ドームから生えている木の根っこが壁に張り付いている。
 クラスは辺りを見渡していた。

「すごい場所だな」

 トランクスが階段を下り、小さな石碑が立っている場所へと歩いていく。
 紫色の壁から何かをとり出した。紺紫色の背表紙に、白い三角形の図形が描かれた巻物だった。
 巻物からは禍々しい黒いオーラが漂っている。

「それは?」
「これは、終わりと始まりの書。宇宙の時間、歴史の流れ、全てが書き写されたものです。ですが……いや、まずはこれを見てください」

 トランクスは持っていた巻物の紐をほどき、机の上に広げる。
 クラスは巻物をのぞきこむ。
 本紙に映像が浮き出る、どこかの平原と三人の人物が映し出された。
 一人はトキトキ都にいるサイヤ人と同じ戦闘服を着た、ハリネズミのような長い黒髪をした男。
 対峙しているのはすり切れたオレンジ色の胴着を着たとがった髪の男と、紫色の胴着を着用したナメック星人だ。サイヤ人らしき男が無傷なのに対して、ナメック星人達は憔悴している。
 男の一人がサイヤ人の背後に回り、羽交いじめをする。

「いまだ、ピッコロ! やれー!!」

 ピッコロと呼ばれたナメック星人は人差し指と中指を立てる。黄色の光が指先に集束していく。

「魔貫光殺砲ー!」

 指先から、紫の光をまとった黄色の光線が発射された。光線は羽交い締めされた男へとまっすぐむかっていく。
 あと少しで当たる直前、サイヤ人の両目が妖しい光を宿した。
 サイヤ人は羽交い締めをたやすく振りほどく。

「なっ……」

 拘束していた男が驚き、魔貫光殺砲で胸を貫かれた。糸が切れた人形のように地面へと崩れ落ち、砂埃をまきあげる。
 サイヤ人はピッコロに向かって気弾を発つ。現状に気をとられてしまったピッコロはよける事ができず、攻撃が直撃して倒れふせた。
 サイヤ人は邪悪な笑みと黒いオーラを放ちながら立っていた。
 巻物の映像はそこで止まる。

「ご覧の通りです。時空が歪み、貴方の伝え聞いてる歴史とは結末が変わっているはずです」

 真剣な面持ちで巻物を見つめるクラスが、口を動かした。

「なぁ、トランクス」
「はい」

 クラスは巻物の映像を指さす。

「この三人、誰だ?」

 クラスの発言に、トランクスは目をまばたきする。

「……え?」
「緑色のナメック星人がピッコロって呼ばれたからわかったんだけど、サイヤ人っぽい奴ともう一人の男が分かんなくてな」

 トランクスはクラスの言葉を理解し、体をふるわせる。

「も、もしかして……孫悟空さんを知らないんですか?」
「誰だ? 孫悟空って」

 静寂があたりをつつむ。

「えーっ!」

 トランクスの叫びが刻蔵庫を軽くゆらした。

「本当に知らないんですか!?」
「知らん!!」
「強く返答する場面じゃないですよ!?」
「そう言われてもなぁ」

 クラスは困った表情で頭をかく。彼の様子から嘘をついていない事を把握し、トランクスは説示をする。

「手短に教えます。あの長髪のサイヤ人はラディッツで、先ほど胸を貫かれた男性は孫悟空さんです。本来ならさきほどピッコロさんの放った技が、ラディッツに当たっているのが正しい流れなんです」
「なるほど。けど、ラディッツは振りほどいてたな」
「何かの力で時空が歪み、結果が変わってしまったんです」

 トランクスは広げていた巻物を元にもどし、クラスへと差し出した。
 クラスは巻物を受け取る。

「貴方の力で悟空さん達を助けてあげてください。よろしくおねがいします」
「了解だ。で、どうやって助けに行けばいいんだ?」
「巻物を持ったまま、念じてみて下さい」

 クラスは瞼を閉じる。
 すると、クラスの体は光に包まれ、その場から居なくなった。

 地球のとある場所。
 夜空に無数の星がかがやき、丸く白い月が周囲を仄かに照らしている。
 木々が密集した森の中、男性が細長くて太い丸太に座りながら、かがり火を焚いていた。
 赤色のオールバックに、一本だけ前髪がたれさがっている。穏やかな緑色の瞳には細い木の棒で貫かれ、火で焼いている数匹の魚が映っている。黒いインナーの上から赤色の胴着を着ていた。
 彼の名はクラス、世界中を巡る旅をしている。
 今日は町や村がなかったため、野宿で一夜を過ごす。今は近くの川で捕れた魚が焼けるのを待っている。

「そろそろか?」

 クラスは火傷をしないように、慎重に魚が突き刺さった木の枝を手に取る。焼いた魚はこんがりとしており、香ばしいにおいを漂わせていた。先端と末端を両手でもち、口を開く。

「いっただきま……」

 クラスが魚にかぶりつこうとする。

「……え?」

 風景が全て白になっていた。先ほど居た森や目の前にあったたき火が消え、何も無い空間が広がり、足が地面から浮遊していた。
 どこか厳かで威圧的な声が耳に入る。

『遠くの地で、お前を呼ぶ者がいる。強き戦士よ。さぁ、姿をみせるがいい』

 声が終わると同時に、視界を眩しい光がつつみこむ。あまりの目映さに、クラスは腕で顔を覆った。
 光が止み、ゆっくりと目をひらく。
 黒色にぬりつぶされた空。緑色の鱗に黄色の腹の長い胴体らしき物が空中に浮かんでいる。視線を下に移すと、赤い瓦のついた白い壁と草の生えた地面、整備された石畳の道が見えた。
 気配を感じ、クラスは背後を振り返り、目を見開いて驚愕の表情を。
 クラスの何倍も巨大で二本の角とヒゲを生やした龍が、クラスをみおろしていた。龍は光の中で聞いた声で言う。

「願いは叶えてやった」

 そう告げると、龍は散光を放ちながら、姿を消した。
 龍が居た場所には台座が置いていた。台座には七つの丸い窪みがあり、黄色く光るオレンジ色の玉がとびでてきた。七つの玉は時計周りで空へと舞い、散り散りに飛んでいった。
 暗闇だった空が明るくなっていく。
 クラスは呆然と、龍が消えた空中をみあげている。何が起こったのか分からず立ちつくすことしかできなかった。

「驚いてますよね」

 見知らぬ声と足音が近づいてくる。
 クラスは足音の方に顔を見向く。
 薄紫色の額髪は大きくM字に左右に分かれ、襟髪は綺麗に切りそろえられている。目鼻立ちが整った凜々しい顔立ちだ。身長はクラスよりも少し低く、ファーの付いた黒いコートを着用している。胸には茶色のベルトを付け、背中には鞘に収まった剣を背負っていた。
 青年はクラスに接近しながら、話しかけてくる。

「説明はあとでゆっくりさせていただきます。でも……まずは」

 青年の話をさえぎるように、グーっという大きな音が響く。
 音の発生源はクラスの腹からだった。
 先ほどから黙っていたクラスが口を開く。

「悪いが、俺は猛烈に腹がへってるんだ。先にこれを食べていいか?」
「……えっと、どうぞ」

 クラスは青年に背中を向け、魚にかぶりついた。青年はクラスの背中を静かに見守っていた。
 食事を終え、クラスは真面目な顔でふりかえる。

「で、ここはどこで君は誰なんだ?」
「口の周りに食べカスが付いてますよ」
「締まらなくて本当にすまない」

 クラスは口のまわりについている食べかすを、手で拭う。
 青年は苦笑をうかべていたが、気を引き締めるように表情を変えた。

「自己紹介の前に、あなたの実力をみせて下さい」

 青年は両腕を身構える。クラスは青年の構えをみて、腰を低くし、両腕を軽く曲げた。
 お互いに睨み合い、相手の出方を見ようと微動だにしない。
 動いたのは青年の方だ、クラスに向かって正拳突きを放つ。

「はぁっ!!」

 クラスが拳を回避すると、青年はすかさず左右の拳で連撃を繰り返す。
 クラスは冷静に青年の拳を受け流していく。左手をしゃがんで避け、右足を軸に左足を反時計回りに動かす。青年の足首をねらって足払いを行う。

「ぐっ!!」

 青年が後ろへと崩れ落ちる。
 しかし、すぐに片手で地面を付き、反動で後ろへと下がった。

「へぇっ」

 やるなと言いたげな声を出す。クラスと青年は挑発的に微笑み合い、同時に地面を蹴った。
 それから数時間におよぶ手合わせが続いた。実力は拮抗しており、両者一歩も引かない様子だった。
 先に構えをといたのは青年だった。
 青年は途中から使っていた剣を空中にほうりなげ、クラスに歩みよっていく。

「流石ですね、神龍にえらばれたことはあります」

 宙をまっていた剣の刃先が下向きになって、青年へと真っ直ぐに落ちていく。体を少し右に傾けると、剣は吸い込まれるように鞘へと収まった。
 お見事とクラスは心の中でつぶやいた。

「いきなり襲いかかってすみませんでした」

 青年はクラスの最初の疑問に答える。
 彼の名前はトランクス。とある事情からタイムパトロールをしている。クラスが召喚された世界はトキトキ都、時の流れが集まる場所らしい。
 タイムパトロールというのは、歴史の改変を元にもどす仕事だとトランクスは言う。

「歴史の改変?」
「本来あるべき歴史が、何かのきっかけでまちがった未来につながってしまう事があります。そうなると大変な事態が起きてしまいます。歴史を正しい方向に修正するのがオレ達の仕事です。タイムパトロール隊員はあらゆる時代の戦士と戦います。時には伝説の武道家や超パワーの戦士とも……。どうですか? 貴方の実力をここで試してみませんか?」

 クラスは両腕を組む。
 数秒ほど考えたのち、口を開いた。

「すまないが、いきなり連れてこられて一緒に戦ってくれといわれても、すぐに返答はできない」

 クラスの返答に、トランクスは頷く。

「当然だと思います。なら、この都を巡ってみて下さい。返事は戻ってきた時でかまいません。他のタイムパトローラーたちの話を聞いてみてください」
「……わかった」

 トランクスの態度にクラスは疑問を感じながらも、彼の話に耳を傾ける。
 クラス達が今居る場所は時の広場。他にもタイムマシン発着所や、商業区で場所が別れている。トランクスに見送られながら、クラスはタイムマシン発着所につづく門をくぐった。
 トキトキ都をまわっていると、肌と髪が同じ色の柔らかそうな生き物に、体型は人間のようだが、二本の触覚を生やした緑色の肌をした人物。堅い装甲を付けた、小柄で大きな尻尾を持った宇宙人などが沢山いた。
 歩き疲れたクラスは、商業区のベンチに腰を下ろした。

「ねぇ」

 座りながら周りを見渡していると声をかけられた。
 声の主は女性だった。
 二つの長いもみあげには金色の髪飾りをつけ、純黒で背中上までのウェーブ状の長髪。目鼻筋が通っており、クラスと同世代のようだった。動きやすそうな白い武道着に黒いスパッツを着用していた。
 女性はじっとクラスをみつめている。

「何か用か?」
「……もしかして、トランクスさんが呼んだ人?」

 言い当てられて、クラスは驚いた。

「え? どうして」
「さっき空が暗くなってたから、トランクスさんが前々からいってた人を神龍で呼び出したんだなって。見かけない貴方をみつけて、もしかしたらと思ってね」

 女性は朗らかに微笑んだ。

「自己紹介があとまわしになってごめんなさい。私はエオスよ」
「クラスだ。よろしくエオスさん」
「エオスでいいわ」

 エオスが右手をさしだす。クラスは左手を出してエオスの手を握った。
 握手を終え、二人は手を離した。

「何をしてるの?」
「ちょっと休憩してたんだ。都を巡ってみたけが、初見の種族が沢山居るんだな」
「じゃあ、一つずつ紹介してあげるわ」

 エオスによると、髪と肌が同色の種族は魔人族、緑色の肌に二本の触覚を持つ種族はナメック星人、装甲を纏った小柄で尻尾の生えた種族はフリーザ族だと丁寧に教えてくれた。

「なるほど。フリーザ族やナメック星人には雄と雌の区別がなくて、魔人族は俺たちと同じように性別があるんだな」
「そうよ」
「色んな種族がパトローラーになってるのか。エオスみたいな地球人パトローラーも居るんだな」
「あら、地球人じゃないわよ」
「えっ?」
「私はサイヤ人。彼らと同じ宇宙人よ」
「ホントか?」

 クラスはエオスを上から下に眺める、彼からみたら肌の色も体型も地球人に思えた。

「サイヤ人は地球人とよく似てるから、間違えられるの。ちがうのは地球人以上の長い寿命と、外見の成長がかなりゆっくりなところね」
「全く気がつかなかったな」

 クラスは地球人だと勘違いした中に、サイヤ人が居たのかと考えた。顔を向けると、エオスがじっとクラスをみつめていた。

「なんだ?」
「……ううん、何でもないわ」

 エオスの態度にほんの少し疑問を感じ、首をかしげた。
 気を取り直して、クラスはエオスに質問をする。

「エオスは何でパトローラーに?」
「……色々あってこの都に流れついたの。倒れていた私をトランクスさんが拾ってくれたのをきっかけにね」
「そうだったのか」
「どうしてそんな事をきくの? もしかして、隊員になるのを迷ってる?」
 エオスの指摘に、クラスは思案した後、頭を軽くかいた。
「その通りだ。正直、歴史を守るっていまいちピンとこないんだ。俺にちゃんと務まるのかなって」

 トランクスの話を聞いた時から、クラスは乗り気ではなかった。自信がないわけではなく、スケールの大きな話についていけなかった。
 都をみてまわったが、自分よりも実力が上なものが沢山いたし、戦闘力は五だといわれた。他にも適役が居るからと、断って他の人に頼むよう進言するつもりだ。

「それじゃあ、自分のためっていうのはどうかしら?」

 エオスの言葉にクラスは首をひねる。

「どういうことだ?」
「トキトキ都のパトロール隊員たちは、強い人と戦いたいって人や、英雄になりたいからって人もいるの。大事なのは何をしたいか、じゃないかしら」

 クラスの脳裏に一つの場面がうかぶ。
 古びた家で髪を白髪に染めた老人がベッドで横たわっている。ベッドの傍では、クラスが木の椅子に座りながら悲しそうな表情でみつめている。
 老人は微笑みながら、クラスに何かを告げる。クラスは頷きながら皺だらけの老人の手を握った。
 クラスは俯かせていたて顔を上げる。

「うん。今きまった」
「迷いは晴れた?」
「おかげさまで。ありがとうな、エオス」
「どういたしまして。そろそろトランクスさんの元に行ったら? 貴方の帰りを待ってると思うわ」
「あぁ。それじゃあまた」

 クラスはベンチから立ち上がり、時の広場へと向かう。
 エオスはクラスの背を見つめながら呟いた。

「もしかして、彼……」

 エオスの言葉は、風と共にきえた。

 時の広場、最初に出会った場所でトランクスが立っていた。
 トランクスはクラスに気付き、笑みをうかべる。

「お帰りなさい。どうでした?」
「トキトキ都はすごいな。色んな種族が沢山いて、元居た世界よりも文明が発展してる面白い場所だ」
「気に入ってくれて何よりです。また、戻ってきてくれたという事は……タイムパトロールを手伝ってくれるんですよね」

 クラスは数秒ほど間をあけたあと、口角をあげた。

「あぁ。やらせてくれ」
「ありがとう、よろしくおねがいします!」

 トランクスの態度に、先ほど感じた疑問をぶつけてみる。

「あんまり驚いてないな。断られるって心配しなかったのか?」
「心配なんてしませんでしたよ。オレは神龍に『一緒に戦ってくれる強い人』を連れてきてほしいと頼みましたから」
「……あぁ、なるほど」

 クラスは納得する。神龍と呼ばれたあの龍が、最初から拒む人間を召喚することはないと解釈した。

「では、オレの後についてきて下さい」

 トランクスが歩きだし、その後ろをクラスはついていった。
 大きな門をくぐると、周りの景色か一変した。
 薄緑色の空には大小様々な惑星が浮かんでいる。地面には石畳の道が続いている。中央に白くてドーム型の建物がそびえたっており、ドームの上には闊大な木が生えていた。

「ここが時の巣です。中央にある建物は、刻蔵庫とよばれる書物の倉庫です」

 刻蔵庫を見ていたクラスは、ふと何かに気づく。視線の先には、半球型の止まり木のようなものが刺さった家が建っていた。隣にはシャッターの閉まった倉庫と水の出た噴水が目に付く。
 家を指さしながら、トランクスに尋ねる。

「なぁ、トランクス。あれは誰の家だ?」
「あそこは、この場所を管理している、時の界王神様のお家なんです。今は不在ですけど、きちんと紹介します」
「どんな人か楽しみだな。それで、何で連れてきたんだ?」
「是非、貴方に頼みたい仕事があるんです。刻蔵庫に向かいましょう」

 入り口の階段を上り、トランクスと共に中に入っていく。
 部屋の中央には丸くて大きなテーブルが設置しており、壁際についている三つの菱形に無数の何かが置かれていた。ドームから生えている木の根っこが壁に張り付いている。
 クラスは辺りを見渡していた。

「すごい場所だな」

 トランクスが階段を下り、小さな石碑が立っている場所へと歩いていく。
 紫色の壁から何かをとり出した。紺紫色の背表紙に、白い三角形の図形が描かれた巻物だった。
 巻物からは禍々しい黒いオーラが漂っている。

「それは?」
「これは、終わりと始まりの書。宇宙の時間、歴史の流れ、全てが書き写されたものです。ですが……いや、まずはこれを見てください」

 トランクスは持っていた巻物の紐をほどき、机の上に広げる。
 クラスは巻物をのぞきこむ。
 本紙に映像が浮き出る、どこかの平原と三人の人物が映し出された。
 一人はトキトキ都にいるサイヤ人と同じ戦闘服を着た、ハリネズミのような長い黒髪をした男。
 対峙しているのはすり切れたオレンジ色の胴着を着たとがった髪の男と、紫色の胴着を着用したナメック星人だ。サイヤ人らしき男が無傷なのに対して、ナメック星人達は憔悴している。
 男の一人がサイヤ人の背後に回り、羽交いじめをする。

「いまだ、ピッコロ! やれー!!」

 ピッコロと呼ばれたナメック星人は人差し指と中指を立てる。黄色の光が指先に集束していく。

「魔貫光殺砲ー!」

 指先から、紫の光をまとった黄色の光線が発射された。光線は羽交い締めされた男へとまっすぐむかっていく。
 あと少しで当たる直前、サイヤ人の両目が妖しい光を宿した。
 サイヤ人は羽交い締めをたやすく振りほどく。

「なっ……」

 拘束していた男が驚き、魔貫光殺砲で胸を貫かれた。糸が切れた人形のように地面へと崩れ落ち、砂埃をまきあげる。
 サイヤ人はピッコロに向かって気弾を発つ。現状に気をとられてしまったピッコロはよける事ができず、攻撃が直撃して倒れふせた。
 サイヤ人は邪悪な笑みと黒いオーラを放ちながら立っていた。
 巻物の映像はそこで止まる。

「ご覧の通りです。時空が歪み、貴方の伝え聞いてる歴史とは結末が変わっているはずです」

 真剣な面持ちで巻物を見つめるクラスが、口を動かした。

「なぁ、トランクス」
「はい」

 クラスは巻物の映像を指さす。

「この三人、誰だ?」

 クラスの発言に、トランクスは目をまばたきする。

「……え?」
「緑色のナメック星人がピッコロって呼ばれたからわかったんだけど、サイヤ人っぽい奴ともう一人の男が分かんなくてな」

 トランクスはクラスの言葉を理解し、体をふるわせる。

「も、もしかして……孫悟空さんを知らないんですか?」
「誰だ? 孫悟空って」

 静寂があたりをつつむ。

「えーっ!」

 トランクスの叫びが刻蔵庫を軽くゆらした。

「本当に知らないんですか!?」
「知らん!!」
「強く返答する場面じゃないですよ!?」
「そう言われてもなぁ」

 クラスは困った表情で頭をかく。彼の様子から嘘をついていない事を把握し、トランクスは説示をする。

「手短に教えます。あの長髪のサイヤ人はラディッツで、先ほど胸を貫かれた男性は孫悟空さんです。本来ならさきほどピッコロさんの放った技が、ラディッツに当たっているのが正しい流れなんです」
「なるほど。けど、ラディッツは振りほどいてたな」
「何かの力で時空が歪み、結果が変わってしまったんです」

 トランクスは広げていた巻物を元にもどし、クラスへと差し出した。
 クラスは巻物を受け取る。

「貴方の力で悟空さん達を助けてあげてください。よろしくおねがいします」
「了解だ。で、どうやって助けに行けばいいんだ?」
「巻物を持ったまま、念じてみて下さい」

 クラスは瞼を閉じる。
 すると、クラスの体は光に包まれ、その場から居なくなった。






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