人と服に歴史あり



 ある日のこと。タイムパトロールを終え、トキペディアを確認してるとアルスの声が聞こえた。

「せんぱぁぁ〜〜い!」

 いつもの明るい声ではなく、どこか悲鳴に近いような気がする。(なんだ?)振り返ると、身につけているマントで簀巻きにされ芋虫のように腹ばいになりながらこちらに向かってくるアルスの姿があった。(……なんぞこれ)声が出ない。どこから突っ込んでいいかわからなさすぎて声が出ない。
 トキペディアから離れ、芋虫となっている後輩に近づきしゃがみ込む。

「後輩、何してんだ? 新しい遊びか何かか?」
「遊びじゃないっす! 自分被害者っす!」
「何の被害者かわかんねぇけど、何があった?」

 事情を聞く。
 アルスによると、エキスパートミッションを何回クリアーして新しい衣装を手に入れた。
 衣装に着替え、今日手合わせする予定のギニューさんに感想を聞きに行ったところ。

『けしからーーん!!』
『うぼあぁぁっ!』

 その叫びとともに身につけていたマントです巻きにされたらしい。ギニューさんには着替えないと手合わせはしないと言われてしまった。着替えたくてもしっかりと結ばれて両手を動かせなかったため、舞空術で時の巣まで飛び助けを求めてきたらしい。

「その姿で舞空術使ってここまで来るなんて、器用だな」
「何でもいいから助けてほしいっす! これじゃ自分動けないっす!」
「わかったわかった、ちょっと待ってろ」

 マントの結び目に手を伸ばす。少し固めに結んであったが、解けないほどではない。(これをこうして……よしっと)結び目が解け、後輩がその場から起き上がる。

「はぁ〜、助かりました!」

 起き上がった後輩の姿を見て、オレは少し驚いた。
 同時に、ギニューさんが叫んだ理由が理解できた。

「後輩」
「なんっすか?」
「その格好はけしからんって言われても仕方ないと思うぜ」

 後輩の服を指す。後輩が着ているのは、幼少期のチチさんが着ていたビキニアーマーだった。
 肩や胸は簡易な鎧で覆われているが、下半身は水着のような布でしか守られていない肌色成分が多めだ。後輩はキョトンとした顔で首を傾げる。

「似合ってないっすか?」
「いや、似合ってる。似合ってるけど露出が高すぎるぞ」
「露出が高いほうが動きやすいっすよ」
「ん〜……」

 後輩の反応を見るに、なんでギニューさんが怒ったのかわかっていない様子だ。あの人の性格を考えるに、後輩の格好を見て露出の高さにけしからんとなったのかもしれない。まぁ、自分の生徒がビキニアーマー着てやってきたらお前その格好何とはなるだろう。

「その格好だと手合わせした時、気弾が当たって装甲がかけたら大変だろ」
「大丈夫っすよ、この鎧かめはめ波が当たっても砕けないみたいっすし!」
「その鎧オリハルコン製なのか?」

 かめはめ波が当たって砕けねぇって何製の鎧なんだ。突っ込んだらきりが無いから置いておく。

「とにかく、着替えないと手合わせしねぇって言われたんだろ? あそこのガレージの影で着替えてこい。今なら誰もいないから」
「む〜、は〜い」

 アルスは口をとがらせ、渋々と言った様子でガレージの方へと向かった。本人はあの衣装を気に入っていたんだろう。それでも、ギニューさん的にあの衣装での手合わせは無理だろう。(オレだって、あれで手合わせしてほしいと言われたら断るだろうな)気弾を受けても壊れないとはいえ、事故が起こった時のきまずさが半端ない。

「露出の高い衣装だよねー」

 聞き覚えのある声が隣から聞こえた。視線だけを向けると、いつの間にかフューが立っていた。

「……何時から居た?」
「反応が薄いなぁ。後輩ちゃんがマントでぐるぐる巻きになってたところから」
「最初からじゃねぇか」

 気配も感じなかったところを見ると、お得意の姿が見えなくなる魔術を使ったんだろう。最初の時は驚かされたが、今となって離れてしまった。(いちいち驚くのも癪だしな)フューの望むような反応をしたくないという反発心もちょっとある。

「でも、後輩ちゃんがああいう衣装を着るなんて意外だよね」
「あいつは服の見た目よりも動きやすさを重視するからな。それでも、あの衣装で手合わせはな」
「パトローラー君は着替えたりしないの? いつも同じ服を着てるよね」

 フューはオレの上着を指差す。オレの着ている服は、タイムパトローラーのロゴ衣装だ。背中にはタイムパトローラーのロゴが入ったジャケットに、下半身に青いGパンを履いた至ってシンプルな格好。本来なら袖腕部分が白いが、自分の好みの色に変えられるので青に染めている。
 襟元を人差し指で引っ掛ける。

「動きやすいから気に入ってんだよ。それに……思い出深いものでもあるからな」

 オレにとって、これは大切な服だ。コントン都に来た頃の――正確には、クラスさんに拾われた時にもらった服。
 これ以外に着替えるときもあるが、最終的には戻ってきてしまうのだ。

「……思い出って」
「せんぱーい!」

 フューの言葉をアルスが遮る。こちらに走る足音がするところを見ると、どうやら着替え終わったようだ。
 アルスの方に顔を向けると、サイヤ人タイムパトローラー用の戦闘服に着替えていた。上半身は鎧は垢を強調しており、肩当ては黄色のウィング型。腰当ては無く、下半身はシューツ型の黒いブルマーを着ている。腰元には自分の尻尾を巻き付けていた。生足が気になるが、先程よりはマシだろう。

「それに着替えたんだな」
「はいっす! こっちの格好の方がしっくり来るので!」
 
 そう言って、後輩はその場で軽くジャンプをする。後ろに付いてるしっぽも上下に揺れる。

「そうか。早くギニューさんのところに行ってやれ、待ちくたびれてるかもしれんぞ」
「そうっすね! じゃあ、行ってきまっす!」

 アルスはオレたちに背を向け、入り口のところまで走っていった。
 アルスの背中に視線を向けながら、腕を組み、隣りにいるフューに尋ねる。

「……思うんだけどよ、サイヤ人って露出とか気にしないのか?」
「どうだろう? 後輩ちゃんだけじゃないかな。それより、さっき思い出深いって言ってたけど、どんな思い出があるの?」

 フューの方へと顔を向け、自分の唇に人差し指を当てる。

「秘密だ」
「えー! 教えてよ〜」
「教える義理もないから断る。オレはパラレルクエスト行く時間だから、またな」
「待ってよ、タイムパトローラーくん!」

 後ろからフューが追いかけてくる気配を感じるが、無視をする。
 今は過去を話すつもりはないが、そいつか話してやってもいいだろう。それまでは絶対教えてやることはない。(まぁ、そんな日来るかどーかもわかんねぇけどな)先がどうなるかはフューとオレ次第だろう。
 そんな事を考えながら受付場へと足を早めた。






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