雄弁は銀、沈黙は金なり 「フューさんって意外にモテますよね」 隣りにいるアルス発言に、オレは顔を向けた。 今いるのは壊滅したセルゲーム会場。アルスとのパラレルクエストを終えて、一休みしてから帰る予定だ。のんびりと握り飯を食っていると、唐突に言ってきた。 咀嚼していた握り飯を飲み込み、アルスへと話しかける。 「急にどうした」 「やっ、前に友達がかっこいいよねーって話してたんですよ。確かに顔はイケメンだなーって思って」 「まぁなぁ」 「けど中身はマッドな研究者っすけどね!! 中身知らないって罪深っすよね!」 「落ち着け後輩」 突然切れ始めたアルスに若干戸惑う。どこに切れる様子があったのか全くわからない。 「何怒ってんだ?」 「前に友達にフューさんの本性話したらウッソだーって笑われたんすよ!? 自分本当のこと話したのに腹立つー!! 顔がよけりゃ中身もイケメンと思ってるんっすかねー!」 「お前が切れてることは分かったから落ち着こ??」 荒ぶる馬を諌めるようにアルスをなんとか落ち着かせる。一気にまくし立てたからか、アルスは肩を上下に動かしていた。お疲れ様という意味を込めて、肩をポンポンと叩く。 しかし、アルスの言うことも頷ける。 フューは、オレやクラスさんが戦った敵――ミラとトワの遺伝子から作られた存在だ。ミラやトワの外見は、オレから見たら美男美女な顔つきをしていた。オレ以外にもミラを美女呼ばわりしてるやつも居たから、あの二人の顔立ちは平均以上なんだろう。 そんな二人の遺伝子から生まれたフューも、例外なくイケメンだ。傍から見たらどこかの星からやってきた無邪気な好青年。中身はミラと同じマッドな科学者だと言ったら、おそらく信じるヤツのほうが少ないかもしれない。 「アルスの怒りもわかるが、お前の場合オレを通じてフューの性格知ってるからだろ? あいつの性格知ってるやつなんてあんまり居ないと思うぞ」 「ぐぬぬ〜。フューさんって外見で得するタイプっすよね」 「かもな。さて、そろそろポッドでコントン都に戻るぞ」 「あ、はいっす!」 その場から立ち上がり、アルスと共にポッドへと乗り込んだ。 セルゲーム会場からコントン都にある受付場に戻り、ポッドから降りるとアルスが話しかけてきた。 「先輩、この後はどうするんっすか?」 「オレはレイドに挑戦してくる。お前は?」 「自分は友達と約束があるんで、このへんで失礼させてもらうっす!」 「了解。気をつけてな」 アルスは笑顔で手を振り、背中を向けて走っていった。アルスの背中を見送り、オレはフューのいる場所へと向かった。 オレ・レイドはフューが作り出した実験場だ。巨大な時の裂け目の中ではフューが用意した強敵が居て、与えたダメージによって報酬がもらえるらしい。タイムパトローラーたちの腕試し場所でもあり、フューにとってのエネルギーを集める場所でもある。ちなみに時の界王神様や老界王神様はこの事を知らない……はずだ。黙認している可能性もないとは言い切れない。 フューのいる場所に向かうと先客が居た。サイヤ人と地球人、魔人の女子タイムパトラーたちがフューとなにか話していた。フューは人の良さそうな笑顔を浮かべながら対応している。彼女たちも恐らくレイドに参加するんだろう。邪魔しちゃ悪いと思い、一旦待っていることにした。 暫く待ったがまだ話は続いてるらしい。(長いな)そこまで長くなるような話なのかと、少し気になる。 「レクス」 隣から誰かに話しかけられる。右を向くと、クラスさんがオレの方へと近づいてきた。 「クラスさん」 「ちょうどよかった、レクスを探してたんだ」 「オレを?」 「実は時の界王神様から仕事をお願いされたんだけど、内容的に俺一人じゃ難しくてなぁ。トランクスは別の任務中だから、レクスに手伝ってほしいと思ったんだ。ダメか?」 クラスさんは眉をハの字にしながら微笑む。(どうやら緊急っぽいな)いつもお世話になってるクラスさんの頼みだ、無下に断ることはできない。オレレイドはまだ開催期間だから、明日でもいいだろう。 「わかりました。オレで良ければ手伝います」 「助かるよ」 「おい、あれコントン都の英雄じゃないか?」 「トキトキ都の英雄も居るぞ」 周りが少しざわつく。英雄が二人も揃ってることが珍しいのか、少しづつギャラリーが増えてくる。(やべぇな)このまま増え続けたらいろいろと面倒なことが起こりそうだ。 クラスさんも同じことを考えたのか、オレへ苦笑を向ける。 「人に囲まれる前に、早く時の巣に行こうぜ」 「ですね」 クラスさんとその場を立ち去り、時の巣へと向かった。 夜になり、クラスさんとの任務を終え、帰路を歩く、(疲れたー)歩きながら軽く背伸びをする。任務の内容自体はそこまで難しくなかったが、出てくる敵が強敵ばかりでけっこう大変だった。クラスさんからも礼を言われ、今度何かおごらせてほしいと約束された。何をおごってもらおうかは家に帰ってから考えよう。 ふと、自宅を見ると明かりがついていた。(フューだな)家に電気がついている時はフューが居る。前々から勝手に入るなと言っているが、一度も守ってもらったことはない。 玄関を開け中にはいる。リビングへと向かうと、フューがソファーで胡座をかいて座っていた。腕を組みながら、お決まりのセリフを言う。 「おい、フュー。家に勝手に侵入するなって言ってんだろ」 「……」 いつもだったらごめんと軽く謝ってくるのに、今日は不機嫌そうな顔でオレを見つめていた。(なんだ?)不機嫌になるようなことでもあったんだろうか。理由は後で聞いておくとして、先に夕食を作ろう。 「飯食べてくんだろ? それ食ったらとっとと帰れよ」 フューに背中を向け、台所へと向かう。壁にかけてあるエプロンを着用し、冷蔵庫を開けて今日の夕食材料を取り出した。(さてと)夕飯を作るために、服の袖をまくる。 その時、背中から体温を感じた。指ぬきグローブを付けた両腕がオレの胸下へと巻かれる。視線を左に向けると、フューがオレの肩に顔を乗せてきた。 「フュー? 抱きつかれると飯が作れねぇぞ」 「……の?」 フューがなにか言ったが、声が小さくて聞き取れなかった。何を言ったのか聞き返す。 「なんだ?」 「……何で昼間、話しかけてくれなかったの?」 「昼間?」 何のことかと思い思考を巡らせる。数秒ほど考え、オレ・レイドのことを言ってるのかと理解ができた。というか、フューはオレが来ていたことを知ってたのか。 「お前、気づいてたのか?」 「気づいてたよ!」 「うおっ」 いきなり大声を出されて、ビクッと体が跳ねる。フューの声に怒りが混じってるのがわかる。(パラレルクエストのアルスを思い出す切れっぷりだな)何に対してそんなに怒ってるのか、全くわからない。 「何をそんなに怒ってんだよ」 「だって! パトローラー君来てたのに全く話しかけてくれなかったじゃん!」 「いや、それはお前が他のタイムパトローラーたちにレイドのことを説明してたから」 「あれは説明じゃなくて無駄話だよ! というか、パトローラーくんが話しかけてくれないおかげで、ボク大変だったんだからね!」 「……どういうことだ?」 フューが言うには、こうだ。彼女たちはオレレイドの参加者だったが説明してる間、ちょくちょく話を挟んできた。どこからきたのか、好きなものはなにかといろいろ質問されまくってたらしい。オレが話しかける間の我慢だと思っていたが、クラスさんがやってきて一緒に立ち去ってしまったから、無駄話に付き合う羽目になったらしい。 フューの話を聞いて納得した。(説明が長いって思ってたけど、そう言うことか)そりゃあ無駄話を交えていたら長くなるわけだ。 だが、わからないのはなんでオレが怒られているかだ。 「お前が大変だったのはわかるけど、愛想よく喋ってたじゃねぇか」 「そりゃあ、ボクの実験に付き合ってもらってるんだから愛想良く接したほうがいいでしょ? そうしたほうがメリットもあるしね」 「ちゃっかりしてんなぁ」 エネルギーを集めるためなら他のタイムパトラーたちも利用する気らしい。(フューらしいといえばらしいんだけどな)しかし、これはどうすべきか。正直、理不尽に八つ当たりされてる感がする。フュー達から離れた位置に居たから会話なんて一切聞こえてこなかったし、クラスさんの頼みだって急な出来事でお世話になってるから断ることはできなかった。オレが謝る要素があるのか疑問に思う。 だが、個々で変に反論したりすると余計にややこしくなることが目に浮かぶ。ある程度弁明してから謝罪したほうがいいだろう。 左手でフューの頭を撫でる. 「お前の言いたいことはよくわかったよ。クラスさんと一緒に行ったのは、トランクスが手を離せないから変わりに任務を手伝ってくれってお願いされたからなんだ。フューだって、オレがあの人に世話になってるのは知ってるだろ?」 「そりゃあ、知ってるけどさぁ」 フューはどこか納得できない表情をしてるが、怒りはさっきより収まった気がする。一気に畳み掛けるか。 「明日またレイドに行って、今日と同じ状況だったらちゃんと話しかける。お前が困ってることを察知しなかったことについては謝る、悪かった」 「明日はちゃんと来てくれるの?」 「行く。約束する」 「……そっか、それならいいよ」 フューはオレから離れれる。先程の不機嫌な顔から、いつもの強気な笑顔に戻った。 「夕食の準備邪魔してごめんね? ボク、待ってるから」 そう行って、リビングへ戻っていった。(食ってく気まんまんかよ)帰れよっとツッコミを入れたかったが、材料が無駄になってしまうため喉元で止めておく。フューがリビングに移動したことだし、とっとと料理に取り掛かろう。 次の日、フューのところへ行くと昨日話していた三人娘が居た。 フューは相変わらず人のいい笑みを浮かべている。(約束したしな)オレは三人娘とフューに近づき、話しかけた。 「フュー」 フューの名前を呼ぶと、こちらに顔を向けた。 「やぁ、英雄君。レイドに参加してくれるの?」 「あぁ。募集してるやつはいるか?」 「探すからちょっと待っててねー」 フューは空中ディスプレイを出し、参加者を募集する。オレ・レイドは普通のレイドとは違い、パトローラーだけではなく先生たちも参加できるシステムだ、今の実力を試したる、強敵と戦いたいってやつにはうってつけだ。 「あ、あの!」 三人娘の一人が、オレに話しかけてきた。 「なんだ?」 「英雄様も、レイドに参加するんですよね? その、私達も一緒に参加してもいいですか?」 「いいけど」 三人娘はやった〜と声を揃えていった、何やら嬉しそうにキャッキャと話している。(そんなに嬉しいことか?)喜んでくれるのは何よりだが、そこまで嬉しがることなのかわからなかった。 三人娘たちが時の裂け目に入り、オレも後から入ろうとする。 その直後、何かに引き止められる。(なんだ?)振り返ると、フューがオレの手首を掴んでいた。 「なんだ、フュー?」 フューはオレに近づき、耳元に顔を寄せた。 「約束守ってくれて、ありがとう」 「……どういたしまして」 手首を離し「それじゃあ、頑張ってね〜」とオレに向かって手を振る。 フューに見送られながら、オレは時の裂け目へと入っていった。 裂け目に入ると、ステージは宇宙ではなく空だった。ヤムチャさんの姿がないところを見ると、レイドはまだ始まってないらしい。 三人娘の一人が、こちらへと近づいてくる。 「英雄様、フューさんとなにか話してたんですか?」 「ちょっとな……なぁ、お前たちから見たフューってどんなやつだ?」 少しだけ気になったので尋ねてみる。アルスの友達はかっこいいと行っていたが、この子達からはどう映っているんだろう。 「フューさんですか? かっこいいですよね〜」 「ちょっとミステリアスな感じがあるよね」 「でもでも、無邪気なところもあって可愛いよね〜」 三人娘が口々にフューを褒める言葉を口にしていく。(あぁ、これはまたアルスが切れそうな評価だな)アルスがこの場に居たらそんな人じゃないっすよと言いたげな表情をするだろう。このコントン都で、フューが子供っぽくて血を欲しがるような科学者だと知ってるやつはどれくらい居るんだろうと少し気になった。 それでも、彼女たちにとってモチベーションとなっているならそれは悪いことではないんだろう。理想を演じてる自分が言えることはなにもない。 「言わぬが花ってやつだなぁ」 「なにか言いました?」 「いや、気にしないでくれ。そろそろ敵もやってきそうだから、構えたほうがいいぞ」 暗黒魔界の結晶を使い、強化されたタイムパトローラーたちが出てくる。 目の前のことに集中しようと、構えた。 |