愛しい傷跡 自分の体を好きか嫌いかと言われたら、どちらでもないと答えるだろう。 自室にある全身が映る鏡の前に立ち、水色の上着を脱ぐ。上着を床へと落とし、鏡に映る自分の身体を見つめた。 腹には鬱血してできた赤紫色の打撲痕、脇腹にはレーザーか何かで焼かれた火傷痕、肩には刃で切り裂かれた痕がある。悪目立ちするくらいにくっきりと残っていた。新しくできた傷跡をゆっくりと指でなぞる。 二日前、パラレルクエストでフリーザさんの不意打ちで、ビームが脇腹をかすった。掠っただけでも火に触れたかのように熱く、激痛が走った。軽い怪我だったおかげか、二日で治すことができた。(ヘマしたなぁ)一人の敵に集中して、周りに気を配れていなかった。そのせいで隙ができてしまった。次の乱戦では今回のようにならないよう注意しなきゃな。 この傷だらけの身体を誰かに見せるつもりはない。 この体を汚いと言わないが――お世辞にも綺麗とは言えないだろう。見せたところで、心配そうな雰囲気で痛々しい表情をされるからだ。 だから、自分の体は嫌いでもなければ好きでもない。 身体になにやらこそばゆい感覚と肌寒さを感じる。柔らかくて乾いた感触が緩やかに腹をなでている。(なん、だ……?)重い瞼に力を入れ。ゆっくりと目を開く。最初に目に入ったのは電気が消された天井。まだ夜が明けてないのか、あたりが暗いままだ。 顔を右上に動かす。顔で肘で支え、横になっているフューの姿が目に入った。いつもくくっている髪は下ろされ、黄色のガラスのはいった丸メガネを掛けていない。髪の毛をおろしただけで子供っぽさがぬけ、どこか大人っぽくなっている。上着越しからでもわかる筋肉が顕になっている。 フューはオレが起きたことに気づき、微笑みかけた。 「やぁ、親友。起こしちゃった?」 「……いや、自分で起きただけだ。何してんだ?」 「キミの傷を見てたんだ」 「傷?」 腹を見ると、掛けていたうわ布団がめくれ上がり、自分の素肌が見えた。 フリーザーさんにつけられた傷跡をフューの人差し指でなぞる。擽ったい原因はフューの指だったようだ。俺はフューの手首を掴む。 「あんまり触るな、擽ったい」 「ごめんごめん。けど、いっぱい付いてるよね。神龍に治してもらおうとか考えなかったの?」 「……いいんだ、これはこのままで」 「どうして?」 「この傷はオレの失敗したっていう証拠だから。傷があったほうが次のことを具体的に考えられるからだよ」 この体にできた傷は失敗の証であり、反省するための材料みたいなものだ。どう動けばよかったか、どうすればよかったかを考えさせられる。それを次の戦いに活かすためだ、同じ失敗を繰り返さないために。 確かに神龍に言えば綺麗にしてもらえるかもしれないが、自分のプライドが許さなかった。 「パトローラーくんって呆れるほど真面目だねぇ」 「ほっとけ。けど、まぁ――好きなやつに見せたくないなとは思ってたんだけどな」 傷や痣だらけの身体をみたいなんてやつは居ないだろう。こっちだって見てほしいと思わないし、心を許して相手ならなおさらだ。フューのことだから心配したりはしないと思うが、いい気分ではないかもしれない。 フューの方に顔を向けると、じっとオレを凝視していた。 「なんだよ、なにか言いたいことでもあるのか?」 フューは体を起こし、オレの上へと四つん這いでまたがった。身体を下の方へとずらし、打撲痕がついてる場所に顔を近づけた。 オレは驚き、フューを止めようとした。 「おいっ、フュー」 湿った感触が肌に触れた瞬間、ぴくりっと体が少し震える。フューは傷跡にどんどん口づけをしていく。 「んっ」 身を捩って逃げようとするが、フューの両手が腰を固定しててよじることさえできない。片手をフューの頭へと伸ばし、髪の毛に触れた。 「やめろっ。お前、何がしたいんだよ」 「……ラディッツ、ベジータ、ナッパ、ザーボン、ドドリア、フリーザ、クウラ、セル、ブウ、そしてボクの父さんと母さん」 「へ?」 いきなり、オレが戦ってきた人間たちの名前を口にし始めた。 フューは傷跡からオレの方へと顔を上げた。口元に笑みを浮かべ、人差し指を肌へと滑らせていく。 「孫悟空と対峙してきた強敵達とキミは戦ってきた。キミが戦ってできたこの傷は――英雄の証だ。この証も含めて、キミは綺麗だよ」 屈託のない笑みを浮かべながら、オレの目を見てはっきりと答えた。 フューの言葉にあっけにとられたが、言葉の意味を理解して顔が熱くなった。顔を見られたくなくて両腕で隠す。(なんっつーこと言うんだよ、こいつ)自分の利にならないことでおべんちゃらを言うようなやつじゃない。そこら辺分かってるから、なおさらタチが悪い。 「ねぇ、パトローラー君」 「なんだよ」 「続き、してもいい?」 「……勝手にしろ」 単純と言われることを上等で、撤回しよう。 自分の体が好きでも嫌いでもないと言ったが――今は、ちょっとだけ嫌いではなくなった。 |