Xmas百




 12月25日。今年のクリスマスは土曜日だった。世間の恋人たちはさぞかし嬉しいんだろうなあ。この上ない喜びなんだろうなあ。だって、学生のカップルは言わずもがな社会人でも土曜に出勤しないカップルは一日中愛する人たちと過ごせるのだから。そんな私はというと、土曜の昼間からしっかりと仕事をしていた。年末だから忙しいのは分かるけれど、クリスマスというだけで働く気も失せてしまうのは仕方がないことだと思う。帰り道、最寄駅を降りると辺りはイルミネーションでキラキラと照らされていた。「すごいね」「綺麗だね」と周りに溢れかえる恋人たちが色んな場所で相手にこの美しい景色を共有している。良いなあ、羨ましいなあ。私はクリスマスの日に休日出勤して、挙げ句の果てに彼氏という存在も隣にいない。周りからはどう思われているんだろう、寂しくて可哀想な奴だなんて思われているのかな。

 ひとつ言っておきたいけれど、私は決して彼氏という存在が居ない、という訳ではない。むしろ居る。イケメンで、優しくて、いつも明るくて元気で、すごく面白くて常に笑わせてくれて、一緒にいると楽しくて、気を遣わなくて、私とは釣り合わないほどのすっごく素晴らしい彼氏がいる。付き合いもかなり長い。けれど、ひとつイレギュラーな点があるとしたら、彼はとてつもない有名人であるということだろうか。

 今や日本のトップアイドルであるユニットのRe:valeの片割れ。年末の音楽番組であるあのブラックホワイトで総合優勝も果たした、人気も実力も兼ね備えたアイドルだった。甘いマスクと歌声に巧みなダンス、何よりトーク力は抜群でバラエティ番組に引っ張りだこだし、今ではMCだって良く務めている。ファンの数だってもう数え切ることはできないだろう。そんな誰もが認めるトップアイドル、百と私が付き合っているなんて、周りで楽しそうにイルミネーションを眺めている人は誰一人知る由もないと思う。


 大学時代から一人暮らしをしているアパートに帰宅するなり、私はパンプスを脱ぎ捨て、カバンを放り投げて、ソファーへとダイブした。ああ、もう、疲れた。何が悲しくて、こんな日に仕事へ行ってるんだろう。いや忙しいからだけど。クリスマスのクの字もありゃしない。
 
 …本当は昨日、一緒に過ごすはずだった。

 百が25日のクリスマスは音楽番組の生放送に出演しなきゃならないから空いてないけど、イブなら夜は空いてるから一緒に過ごそうと言ってくれたのだ。だから私は昨日、24日の夜をすごく楽しみだった。そもそも百と会えるのだって2週間ぶりになるから、それはとっても。だから私は張り切って、昨日は仕事を早上がりした。同僚には勘付かれて「華金にイブデートなんて良いね」と語尾にハートをつけていわれるくらい、私は幸せオーラに包まれていたのかもしれない。
 しかし、現実とはそう上手くいかないもので。私が家に帰宅してからすぐにラビチャが届いて、百かな? とドキドキして確認したら予想は的中で百からだった。けれど内容を見て、私は今思えば面白いくらいに肩を下げたと思う。『名前、ごめん!! 急に今から仕事入っちゃった。せっかくのイブなのに。ごめん、ほんっとごめん!!!><』文面からでも伝わるくらいの申し訳なさを感じる百のラビチャを見て、溜息が溢れる。けれど、仕方がなかった。百が大人気になった今、こうして仕事をたくさんもらっている。突然仕事が入るなんて、私以上にある。だから、こうしてドタキャンなんてざらにあるし私は仕方ないといつも踏んでいた。だって百と付き合えているだけで幸せなんだもの、芸能界なんて可愛い子美人な人たくさんいるでしょうに、こんな私と。だから仕方がない。今回も、そう思っていた。けれど、やっぱり久々にクリスマスというイベントを一緒に過ごせるのかもしれないと思って、いつも以上に浮かれていた自分もいて、その分ショックも大きかったのも事実だった。
 とまあ、そんなこんなで24日を早上がりしたお陰で仕事はたんまりと残っているし、こうして翌日25日の土曜に休日出勤はやむを得ない訳だった。

 脱力感に溢れた体を嫌々起こして、私は適当に昨日の残り物を温めて夕食を済まし、さっさとシャワーを浴びた。化粧も完全に落とした現在、時間は夜11時過ぎ。あとは寝るだけの状態。私はまたソファーにぐだりと体を預けながら、酎ハイをちびちびと飲んでいた。聖なるクリスマスに彼氏に会えないからといって、何でこんなにおじさんみたいな時間を過ごしてるんだろう。百が出ていた生放送の音楽番組は9時に終わったらしい。ということは、今はちょうど打ち上げの真っ最中くらいだろうか。Re:valeはきっと大トリだったんだろうな。新曲を初披露するって教えてくれたけどリアルタイムで見れなかったな。まあばっちり録画済みだけど。テレビの画面をつけて、録画リストから今日の生放送番組を再生してはRe:valeの出番まですぐさま早送りした。大歓声の中、新曲が披露される。そういえば、百が今回の新曲超好きなんだって言っていた。私も、すごく好きだ。「千のあのBメロのパートが超かっこいいんだよ」と言っていた。確かに、かっこいい。けれど私は何より、百が一番かっこいいと思う。うん、本当に。ああ、百に会いたいなあ。百が出演してるテレビは全部こうやって見てる。画面越しでも会えるから。だからそれで少しでも満たされてたけど、ないものねだりな私はそうすることによって更に百に会いたくなってしまう。会いたい。声だけでもいいから聞きたい。ああもう、やだやだ、付き合いたての彼女みたいな乙女思考になってる。もう四捨五入したら三十路になる年なのに……。

 と、そのとき突然携帯から軽快な着信音が鳴り響いた。誰からだろう。テレビのリモコンを取って一時停止ボタンを押してから、携帯の画面を覗く。するとそこに映っていた名前に私は驚きを隠せなくて軽く三度見はした。
 だって、百からだったから。

『あっ名前! 起きてた!!』
「え、百…? 何してるの?」



頑張って書いてたんだけどなあ…
百ちゃんごめんね><


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