『今年もいよいよクリスマスのシーズンがやって来ますね! 東京◯区は、既に一面イルミネーション! 東京一大きいと称されるクリスマスツリーの点灯式が今日行われました! 綺麗ですね〜。明日18日からは幻想的なプロジェクションマッピングを使用したクリスマスイベントも行われます。イベントは19時から! テレビの前にいる皆さんもぜひ、大切な方とお出掛けになってみてはどうでしょうか?』
「もうじきだなー」
「そうですね」
寮の自室にも戻らず、リビングのソファーで寛ぎながらスマホでアプリゲームをしていると、同じくリビングにいたみっきーとそーちゃんがそんなことを言い出した。チラリと様子を伺ってみると、二人は仲良くテレビを見ていた。ニュース番組を見ているっぽかったけれど、内容は難しいものじゃないなと俺はテレビの画面を見て察した。だって、テレビに映ってんのは画面越しでもキラキラと眩しいイルミネーションだったから。
「そういえば、三月さんは事務所の前のイルミネーション、見ましたか?」
「あー見た見た! あの向かいのところだよな。すげぇキレイだったよ!」
事務所の前のイルミネーション? 最近事務所行ってないし、俺は知らないなーとか一人勝手に心の中で答えながらアプリゲームを再開させる。ちなみにやってんのは、王様プリンのパズルゲーム。
「あー、外出たらカップルばっかになるんだろうなあ」
「微笑ましいですけど、まあ少し爆発しろとは思っちゃいますよね」
「はは! 壮五ー、本音出てんぞー」
そーちゃんこっわ。人に向かって爆発しろとかやばすぎんだろ。みっきーもけらけら笑ってんのが余計に怖い。とか思いながらも会話には参加せず、上から流れてくる王様プリンをひたすら指先で消していく。すると、いきなり視線をビンビンと感じた。
「環はどうすんだー? クリスマスは!」
あ、パズルがタイムアップになった。スコアを確認した後、俺はゆるりと顔を上げた。みっきーは満面の笑みをこっちに向けている。そーちゃんもなんか柔らかく笑ってるけど、さっきの話、俺聞いてたから。なんか怖いようにしか見えねーんだけど。
「……クリスマスは、生放送じゃねーの?」
スケジュールの確認をそーちゃんに細かく(口うるさく)言われるから、この前ちゃんと確認したときは25日は音楽番組の生放送って書いてた。リハーサルが昼の2時からで、本番が夜7時って書いてた。
「いやそうだけど。そうじゃないだろ!」
「?」
「環くん、名前ちゃんは?」
そーちゃんが穏やかな笑顔を浮かべながら、俺にそう尋ねてきた。「あー、名前? 名前が何?」と尋ね返すと、みっきーが「とぼけんなって!」とオレの肩に腕を回してきた。うわ、なんかみっきー酒臭いし酔ってるな、これは。いつの間に酒飲んでたんだろう。
「名前ちゃんと予定とかないのかよ?」
ほんのり赤い顔をこちらににじり寄せながらそう言ってくるみっきーに、俺は表情も変えることなく引き剥がす。酒くせーんだもん。
「……あるけど」
「えっ、デート?」
「そ」
「環マジかよお前! こんのやろ!」
すると、みっきーがまた俺に突っかかってきた。酔ってるみっきーはマジで面倒臭い。面倒なことになる前にさっさと部屋へ戻ろうとするけど、酔っ払いに羽交い締めされてそれが叶うことはなかった。
「いつ? いつだよ!」
「明日」
「マジ!?」
「環くん、僕たちに秘密事をしてたなんて…」
「いや別に、秘密にしてたわけじゃないけど」
そーちゃんが露骨に悲しそうな顔をするからとりあえず弁解しておく。なんだこれ、壮ちゃんも酔ってるのか? でも、そーちゃんが酒飲んでたらもっとやばいことになってるからそんなことはないはず。
みっきーは、「それで、それで?」と俺にイルミネーション並みのキラキラとした眼をこちらに向けてくる。
「プレゼントとか用意したのか?」
「ん、した」
「何買ったんだよ!」
「えー、それはさすがに言わない」
「なんで!!」
「恥ずかしいじゃん。なんか」
すると、壮ちゃんがまた「僕たちにまた秘密事を増やすなんて…」と悲しそうな顔をする。なんだこれ、マジでめんどくせえ。さっさと部屋に戻っておけば良かった。こうなったら壮ちゃんは納得するまでずっと根に持ってくるから俺は溜め息を吐いて大人二人にしばらく付き合った。
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翌日。寮を出ようと靴を履いていたとき、「珍しく洒落た格好で出掛けるんだな」と後ろから声をかけられて、振り返ったらヤマさんがいた。なんて答えればいいか分からなくてぼうっとしてたら、「週刊誌にはせいぜい注意しろよ。ま、楽しんで」とメガネをくいっと上げてカッコつけながらヤマさんは自分の部屋へと戻っていった。
外へ出ると、冷たい風が襲った。確か今日の朝、天気予報の女の人が今日は一段と寒くなるって言ってた気がする。変装用にと思って持ってきたマフラーだけど、さっそく俺はマフラーを首に巻いた。ん、あったけえ。
12月18日、17時半。すっかり辺りは夜の景色で、歩きながら周りを見渡せばイルミネーションがちかちかと光っている。店だけじゃなくて、一般の家でもイルミネーションがつけられていて凄い。事務所も寮も、こんなのやったら絶対面白いのに。そんなことを考えながら、俺は待ち合わせの場所へとひたすら歩いていった。そして今日の予定と計画を頭の中で巡らせた。
今日は、デート。
「環くん」
ずっと、楽しみにしていた日。
控えめに小さく声をかけられて振り返る。するとそこには、マフラーをぐるぐる巻きにして温かそうなダッフルコートを着ている彼女の姿があった。いつもより唇に色が付いてて、いつものストレートの髪の毛もくるくるになっていて、なんていうか、めちゃくちゃ可愛い彼女の姿があった。
「ごめんね。待たせちゃったかな?」
「んーん。俺も今着いたとこ」
「そっか」
「うん」
短いやり取りをしてからさっそく俺は「じゃ、行こ」と仕切って彼女の冷たそうな手を取った。すると恥ずかしそうに、でも嬉しそうに顔を真っ赤にした彼女に俺はついつい口角が上がった。
俺の恋人の、名前。超可愛いだろ。
付き合ったのは、一年とちょっと前くらいから。同じ高校で、同じクラスで、俺が一目惚れして、俺なりに色々とアピールして、告白して付き合うことが出来た。メンバーのみんなにも勿論付き合ってることは教えている。だからこの前だってからかわれた(俺の中ではそう捉えてる)んだし。社長にもマネージャーにも伝えた。マネージャーからはすげえ心配されたし社長にだって、もし責任も持てない生半可な気持ちで付き合ってるのなら今すぐ辞めなさいって超怖い顔で言われたけど、俺だって責任は持ってるし、生半可な気持ちで付き合ってるわけじゃない。それに名前だって、そこらへんのキャーキャーいう女じゃなくて、俺と付き合ってることを色んな人にバラしたりしないし、俺よりも周りに対して気を遣ってくれてる、超いい奴なんだよ。超可愛いし。めちゃくちゃ、自慢の彼女なんだ。
そんなことを考えながら、上機嫌で歩いてる彼女に視線を送ると、名前は首を傾げながらこちらを見上げた。
「どうしたの?」
「ん、別に」
「…えーっ、何。その意味深な顔。気になる!」
「何でもない、マジ」
「ほんとにー? 絶対うそだよ」
そういって警戒心を露わにしている名前が面白くて、つい吹き出したら怒られた。仕方ねーじゃん、名前が可愛いんだもん。でもそれを言ったら照れまくって黙りこくるから。未だに頬を膨らませてる名前の頭をぽんぽんと叩いて、俺が予約した店へと二人で向かった。
「んん〜! 美味しい!」
名前は、いつも美味しそうにものを食べる。その顔はすっげえ幸せそうで、向かい側でそれをいつも見ることが出来るのは俺の特権だ。この前それをいおりんに言ったら「惚気ないでください」ってめちゃくちゃ鬱陶しそうな顔をされた。別に惚気ようと思って言ってないのに、ていうかこれが惚気だったら俺は色んなメンバーに普段から惚気てると思う。特にヤマさん。あの人、話引き出すの上手いからついつい何でも話してしまう。名前が今日ポニーテールしてて可愛かったとか、名前から手作りのお菓子を貰ったとか、名前に昨日の生放送カッコよかったって言われたとか。あれ、俺めっちゃヤマさんに惚気てんのかな。
「わ! これも美味しい! 」
「どれ、ちょうだい」
「いいよ!」
「んぁ」
「えっ」
「…あーん、してくれんだろ?」
個室の部屋を良いことに、俺はちょっと調子に乗ってみる。口を開けて名前の手が伸びてくるのを待っていると、また名前はリンゴみたいに顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせていた。俺らもう付き合って一年以上経つのに、名前はいつまでもこんな感じ。ちゅーだって、何回も心の準備ができてないって拒まれ続けて、なんやかんや出来たのは付き合って半年経ったくらいだし。俺、よく我慢したと思う。頑張ったと思う。でもそんな名前も可愛いし、名前らしくて俺は好きだ。ていうか名前の全部が俺は何でも好きなんだろうなーって思う。名前の幸せが、俺の幸せみたいな。
恥ずかしそうにしながら、名前のぷるぷると震えた手が伸びてくる。箸に挟んでいる食べ物が落ちそうでこっちがハラハラする。焦れったくて待ちきれなくて俺が迎えに行くような形で名前の箸をぱくりと口に含んだ。あ、これ美味い。超美味い。もう一口ちょうだいって言おうとしたら、名前は真っ赤な顔を両手で隠してジタバタしていた。
「環くんの美しい顔が……うう、恥ずかしすぎて死にそう……」
なんだそれ。ウケる。
デザートのプリンを頬張りながら、俺はスマホの待ち受けの画面を確認した。18:53。お目当てまで後もうちょっとだ。目の前で同じくデザートのアイスを食べている名前の名前を呼ぶと、スプーンを加えながらこちらに振り向いた。
「こっち。来て」
不思議そうにしてる名前は、残っているアイスを平らげて素直に俺の隣へと移動してくる。それでも一人分くらいの距離を空けて座るもんだから、俺は名前の腕をぐいっと引っ張ってその距離を詰めさせた。そして外がよく見える窓の際に移動させて、あぐらをかいている俺の足の間に名前を座らせて、後ろから抱き締めるみたいな体制をとってみる。もちろん名前は「ひぇ!?」って動物みたいな変な声を出してた。もっとこういうのも慣れてほしい。でも、それじゃあ名前じゃないような。いや、でもやっぱりちょっとは慣れてほしい。抱き締める腕に力を込めると、顔だけじゃなくて耳も首元も真っ赤になっていた。
「ど、どうしたの環くんちょっと私今すっっごい恥ずかしすぎて死にそう……」
「さっきから何回死にそうになってんの」
「うう。本当なんだもん……というかお願いだから耳元で喋んないで……」
そんなこと言われたら、からかいたくなる。俺は名前の耳にフーッと息を吹きかけた。すると猫が毛並みを立てるみたいにびくりと反応する名前に俺はめちゃくちゃ笑ってしまう。「もう、環くん! 本当に何がしたいの!」と名前が俺の方に振り返って怒ろうとした瞬間、窓から見える外の世界が一瞬でパっと輝いた。小さくだけどBGMも聴こえてきて、名前はすぐさまそっちの方へ振り向き直す。
「えっ、えっ……! あれって、今日から始まるクリスマスイベント?」
「ん、そ」
「わあ! すごい! とっても綺麗!」
なんだっけな、えっと、プロジェクション……何とかってやつ。遠くからではあるけど、それを食い入るように窓から眺める名前の横顔を後ろから見つめる。たまに「わっ」とか「すごい…」とか一人で呟いたり、「見て、環くん! サンタがいる!」と興奮したようにこちらを振り返ってくる。その様子に俺の口角は益々と緩むばかりで、プロジェクション何とかよりも、名前のことばっかり俺は見ていた。
「もしかして、これを見せてくれるためにこのお店を予約していたの…?」
「まぁーな」
「う、うそっ」
「マジ」
俺がそんなことをするとは全く想像できないのか、名前は驚いた表情をしていた。まあ俺だって、やるときはやるんだし。結構前からちゃんと計画してたんだし。昨日みっきーとそーちゃんが見てたニュース番組で取り上げられる前から色々と調べて、そこから近くてイベントが観れる店まで探したんだし。まあ、そんなこと名前には絶対教えないけど。その代わりに俺の口から溢れたのは、謝罪の言葉だった。
「ごめんな」
「えっ」
「ほんとはこんなとこじゃなくて、ちゃんと外の、もっと近いとこで一緒に見たかったけど」
そう、ちゃんとあの場所で見たかった。でもさすがに俺だって、あんなに人が溢れかえっているところに名前と行くほどバカじゃない。すぐさま撮られて終わりだ。週刊誌の奴らは怖いから。アイツらモンスターだから。それでも、やっぱり名前もこんなところじゃなくて、ちゃんと外で見たかったと思う。それが俺の職業柄、連れて行けないこととに俺はめちゃくちゃ罪悪感とか申し訳なさを感じてた。
でも名前は、そんな俺に対してふんわりと優しく笑った。
「そんなことないよ。私、すっごく嬉しい。環くんと一緒にこうやって過ごせるだけで、本当に嬉しいの」
ありがとう、環くん。俺の目を真っ直ぐに見つめて、名前はそうしっかりとした声で言った。何でか分かんないけど、嬉しくて鼻がツンとした。俺、泣きそうになってるのかもと気付いた瞬間、イベントは終わった。それでもなおイルミネーションは光り続けていて、昨日テレビで言ってた幻想的ってこういうことかーとぼんやり考える。そして、ポケットの中にずっと秘めていたそれを俺は取り出した。
「名前」
「ん?」
「あっち向いて、目、瞑って」
不思議そうにしながら、名前がゆっくりと目を瞑るのを確認する。そして、名前の両耳についているピアスをそっと取り外した。その手が緊張で震えているのは、自分以外の人のピアスをいじるのはあんまりやったことがないからだと思う。たぶん。
そして、ポケットから取り出した箱の中に大事にしまわれているそれを丁寧に取って、名前の耳元へ近寄せた。相変わらずぷるぷる震える手で、名前の耳たぶを持ち上げながら、それを付ける。変なとこ刺さないように、ちゃんとホールに、入れて、と……。
「うし、出来た。もういいよ、目開けて」
名前を体ごと振り向かせて、そう促すと名前はゆっくりと目を開いた。うわ、超間抜けな顔だ。「耳、なんか、付けたよね…?」「ん、つけた」触りたいけど、触っていいのか分からなさそうな名前の手が行き場を迷うみたいに空中で彷徨う。俺はスマホのカメラを内カメラに切り替えて、名前へと手渡す。鏡みたいに内カメラで自分の耳元を確認する名前を見ていると、俺の口角はゆっくりと上がった。
「すごい、可愛い…!」
そして、名前の耳元に揺れるそれ――スカイブルーのピアスを見て、言葉が溢れる。
「似合ってる、めちゃくちゃ」
名前はその言葉を聞いて、なんだか泣きそうになっていた。
「ちょっと早いけど、俺からのクリスマスプレゼント」
携帯を返してもらって、まだ画面にはカメラ機能が開いていたから外カメラに切り替える。そして俺はパシャリと名前の姿を撮った。耳元にはきちんと、俺があげたピアスが写っている。
「たまき、くん」
「んー」
「ありがとう、環くん……私、環くんに、貰ってばっかり」
「うん。いっぱい貰って」
「ありがとう、環くん。大好きだよ」
「ん。俺も」
いつもは照れて好きってあんまり言ってくれないのに、今言ってくれた。やば。録音したかったレベルだ。可愛すぎて俺は名前をもう一度正面から抱き締めた。名前の手も、ゆっくりと俺の背中へ回ってくる。距離がぐっと近くなって、俺の顔のすぐ横に名前の耳についているピアスがあった。「なあ、名前」「なぁに」「そのピアス、俺も買った」「えっ! お揃いってこと?」「そ」「うそ、嬉しい」すると俺の背中に回っていた名前の腕に力が入る。ああー、可愛すぎて、もう一生このままでいたい。
俺が名前のためを思って、名前につけてほしいと思って買ったものを、名前本人が付けてくれるって、こんな嬉しいものなんだ。気持ちが止まらなくて、俺は名前のほっぺにキスをした。そして、そのまま立て続けに思考が止まっている彼女のくちびるにキスをする。あ、一瞬でまたリンゴみたいになった。でも、恥ずかしそうだけどすごい嬉しそうに名前は笑ってた。名前といたら、色んな感情を知れる。俺、今めちゃくちゃ幸せというものにありふれてると思う。
さっき撮った写真、帰ったらヤマさんに見せよう。あ、みっきーとそーちゃんにも。いや、もうメンバーみんなに見せてやろ。いおりんには惚気ないで下さいってまた怒られるかもしんないけど、いいや。だってこんな可愛い名前を自慢しないでどうする。そんなことを考えながら幸せを噛み締めていた俺の、俺たちの一週間早いクリスマスだった。
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