十二月に入って早いもので十日が経った。すっかり季節は冬に染まった頃、年末も近付いてくるし仕事も忙しくなってくるなあ頑張らないとなあ残業はあまりしたくないなあと呑気に考えながら、私はひとつ大きな欠伸を浮かべた。只今の時刻、夜七時過ぎ。やったね、今日はちょっと早めに終われた。スーパーもまだ空いてる! シャットダウンしたノートパソコンを閉じてから、誰もいないオフィスで密かにガッツポーズも浮かべた瞬間ドアがガチャリと開いたので急いでその拳を解いた。
「…あっ、名前さん! お疲れ様です!」
「陸くん。お疲れ様」
警戒していたドアからひょこりと顔を出したのは、うちの事務所の看板アイドルであるIDOLiSH7のセンターこと七瀬陸くんだった。この子は元気で明るくてすごく良い子。そしてとにかく若い。確か私と三つしか変わらないはずなんだけど。何でかな、すごく陸くんと私の間には年の差を感じる。ちょっと前まで学生だった子と社会人歴三年目の違いなのかな…少し悲しいし虚しい。けれど陸くんはすごく人懐こくて、こんなしがないただの事務員の私のことも名前さん名前さんといつも可愛らしく呼んでくれる優しく出来た子なのだ。
「今、仕事終わったんですか?」
「うんー今日はもう上がるよ」
「そうなんですね。お疲れ様でした!」
「ありがとうねえ」
帰りの支度をしながら私は陸くんからの問いかけに応え、更に労ってくれる陸くんに心を癒されながら感謝の言葉を返した。本当に陸くんって出来た子だよね。性格良いしイケメンだし素晴らしいと思う。うんうん。…あれ? というか、何で陸くんは事務所に来たんだろう。今MEZZO"のお迎えをしている大神さんが事務所を出る前に「紡さんは陸くんとナギくんを迎えて寮に一旦寄った後、大和くんを迎えに行くそうなので結構遅くなっちゃうらしい」っていう風に言ってたのを思い出す。時間帯的に紡ちゃんは既に陸くんたちを寮へ送り届けて、今は大和くんのお迎えに行ってるはずだけどなあ…。つまり一旦寮に帰ったであろう陸くんがどうして事務所へまた来ているのか。疑問だ。
「あっ。あの、……えっと、」
すると、陸くんが慌てたように口を開いた。心なしかその表情は固い。どうしたんだろう。
「名前さんって……その、」
「うん?」
「えっと、あの………」
視線は定まることなく縦横無尽に彷徨わせたり、頬をぽりぽりと掻いたり、手を何度も合わせたり、とにかく忙しない陸くんに対して私は首を傾げる。どうしたんだろう。
「その……く、ク…」
「く?」
「く! クリスマスって……!」
言葉の動向を見守っていたら唐突に陸くんが大きな声をしたので、思わず「おお」と心の中で驚く。はて、クリスマス? どうしたんだろう。
「あのっ……」
「…」
「……さ、」
「…」
「寒いですよね!?!」
陸くんの問いを聞き、しばらくしてからようやく絞り出たのは「え」という言葉にも満たない声だった。陸くん。本当にどうしたんだろう。とても厳しい表情をしていたものだから、何か深刻なことを言われるのではないかとドキドキしていたのに。寒いかどうか聞かれても私は天気予報士でもあるまいし詳しいことは分からないけれど。まあクリスマスは年末だし寒いんじゃないだろうか。「ちょっと待ってね〜」となぜか頬を赤らめている陸くんに一言いってから自分の携帯で天気予報アプリを開いた。便利だよね、今時。えーと二十五日は……曇りのち晴れで、えーと気温は。
「最高十度の最低二度かな? 夜はかなり冷え込みそうだね」
「…そ、そうなんですね!」
「うん」
「ありがとうございます!!」
律儀にお礼をしてくれる陸くんにどういたしまして、と軽く返してから私は天気予報アプリの履歴を消した。そして時刻を確認すればもう八時前になろうとしている。やばいやばい、急がないとスーパー閉まっちゃう! 慌ただしくコートを羽織って、携帯をポケットに入れる。鞄を掴むように持って、オフィスの中を今一度確認した。大神さんも紡ちゃんも今日は直帰するって言ってたし。
「陸くん、私ちょっと急いでるからもう帰るけど…」
「えっ!」
「…?」
「あ、いえ! 大丈夫です!」
「……?」
「すみません、忙しいのに引き止めちゃって…」
「ううん、全然。 それじゃあ、またね。お疲れ様」
「はい! お疲れ様です!」
そう挨拶をして、私は陸くんより一足先に部屋を出た。腕時計を見ると八時まであと十五分。まずい、今もう冷蔵庫空っぽなのに! 最近で一番大慌てしながら私は階段を駆け下りて事務所を出た。そういえば、結局陸くんって事務所に何をしに来たんだろう。
・
・
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一週間後。
寒いなあ、ほんと寒い。冬の朝は異常だと思う。地球温暖化ってなんなの? 今年は暖冬ですって言ってた天気予報士さん、どういうことですか? 朝から心の中で文句がたらたら溢れて仕方がない。せめてもの熱を逃がさないようにマフラーに顔を埋めながら私は出勤をしていた。ちなみに今私の身につけてる防寒具はコートとマフラーのみである。そう、割と大事な手袋がないのである。去年の冬の終わりにまさかの手袋を失くしてしまって以来、今年は冬になる前にちゃんと買おうと考えていたけれど結局買うことをずっと忘れて冬を迎えてしまったからもう良いやって諦めた所存である。それだけで私がどれほどズボラで面倒臭がりかが分かると思う。夏の茹だるような暑さも嫌いだけど、冬も似たり寄ったりだ。なんて考えているうちに職場の事務所へと到着した。ドアを開けて中に入り、オフィスへ向かうと先客がいた。大神さんかな? と思って顔を覗かせると、そこに居たのはこの時間帯では珍しい人だった。
「あっ美羽さん!」
「あれ、陸くんおはよ。早いんだね?」
陸くんがこんな朝早くから事務所にいるということよりも、なぜかソファーで背筋を伸ばして座っていたことの方が余程気になりながらも私は自分のデスクに向かいながら軽くそう問いかけた。大神さんも紡さんもまだ来てないようだし、陸くんずっと一人でいたのだろうか。
「ちょっと事務所に用があって」
「そうなんだー。今日すっごい冷えてるねー」
「ほんとに、寒いですよね……」
「うんうん。私手袋ないから、もうカイロが命だよ」
デスクに荷物を置くなり、さっそく私はパソコンを立ち上げてIDとパスワードを入力する。いつもなら今すぐ給湯室へ行ってコーヒーを入れるけれど、陸くんがいる手前それをするのは気が引ける。なんて考えていると、陸くんが私の話を聞いて「ええ!」と驚きの声をあげた。
「手袋は大切ですよ! 俺のでよかったら、貸しましょうか…?」
「ええ、いいよいいよ。陸くんが寒くなっちゃうじゃない」
「でも……」
「平気平気! ありがとうね陸くん。やっぱり陸くんってすっごい優しいね」
「ほ、ほんと、ですか…」
「うん! すっごく素敵だなーって思うよ」
「ほんとですか!!」
純粋に陸くんの良心に私は心をぽかぽかと温めて素直に賞賛すると、陸くんは少し照れ臭そうにしながらもとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。可愛いなあ。こんなに可愛いのに、歌っているときは格好良いしたまに大人っぽい表情を見せるときは私でもこう、ドキっとしちゃうよね。普段からそういうギャップを見せられたら私、間違いなく陸くんに惚れちゃうわ。まあ、彼は常にこういうほのぼのしててピュアボーイだから歌っているときも活きるんだろうけどね……うん。やっぱり素晴らしいなあ我が事務所の看板アイドルのセンターは。
「あの、名前さん」
「んー? どうしたの?」
「その……」
「うん」
「に!! 二十四日か、二十五日って……」
そこから陸くんは言葉を詰まらせた。二十四と二十五日? イブとクリスマスのことかな。仕事のことかな? 珍しいなあ、陸くんってこういうスケジュール管理といつもしっかりしている印象だったけれど。近くにあったカレンダーをちらりと見て、その日付の欄を確認する。あ、そういえば。
「二十四日は陸くんたち生放送じゃなかった?」
「あっ、そ、そうなんですけど!」
「?」
「えっと…… 名前さんは…?」
あれ、私のことを聞いていたのか。そうだよね、陸くんが今月のスケジュールを把握していない訳がない。ちょっと申し訳ないというか失礼なことをしちゃったなと思いながらも、今度は私が自分のスケジュールを頭に思い起こした。
「私ー? 二十四も通常通り働いて……二十五は…土曜日かあ。…ま、朝から夕方まで働くかな?」
まあ、又の名を残業そして休日出勤ともいうけれど。なんて心の中で自分で言っておきながら苦笑いしてしまった。大きな番組の生放送だったりは、マネージャーである紡ちゃんだけではなく大神さんも現場へ同行するので事務処理がこれまた全く追い付かないのだ。悲しきかな。けれど、仕事自体はすごく満足なので残業もそこまで苦はないんだけれどね。職場にも恵まれてるし、こうやって可愛い子たちにいつも癒されているし。そう、あとは体力だけの問題よ。
すると、ぱっと陸くんの顔を見ると目を丸くして口をぽかんと開けていた。何その表情、すごく可愛い。どうしたんだろう。
「に、二十五日の夜は、どこか行くんですか!? 予定が、あるんですか!?」
「ええ?」
「……」
「え、いや、ないけど」
「ほんとですか!!」
あまりの勢いの激しさに狼狽えたけど、そう私が答えると刹那、今度はすごく嬉しそうな笑顔を陸くんは浮かべていた。表情がころころと変わるなあ。陸くん、私が休日まで夜まで働かないことを喜んでくれているのかもしれない。なんて良い子なんだろう。神様、この子には何もかも与えすぎではないだろうか。すると、陸くんが唐突に真剣な面持ちを浮かべたので私と彼、二人きりのオフィスは異様な空気に包まれた。
「あの、名前さん」
「はい」
「えっと、その」
「…」
「俺と、二十五日、……俺と」
ガチャリ。
「おはよう、名前さん! 今日も早いねー………ってあれ、陸くん?」
あ。
いつものように明るい声色でオフィスの中へと入ってきた大神さんは、まず第一に陸くんの姿を見て目を見開いていた。私と全く同じ反応でちょっと笑ってしまいながらも、彼に挨拶を返した。
「あ、ば、万理さん……おはようございます……」
「ん!? 何かすごい、陸くん暗いけど…大丈夫?」
「えっ!?」
すると、陸くんが先ほどとは打って変わって明らかに落ち込んでいますみたいな雰囲気を醸し出していた。それを見兼ねた大神さんがちらりと私の様子を伺う。まるで、「名前さん何かしたの」って目が訴えるみたいに。えっ、私!? 何で!? 私この短時間で陸くんに何かしたっけ!?
「……い、いえ。……何でもないです! 大丈夫です!」
「そ、そう?」
「あ。俺、お仕事の邪魔したらあれなので、寮に戻ります!」
トントン拍子かのように、早口でそういった陸くんはダッフルコートを羽織って、きちんと手袋もはめた。凄いモコモコだ、温かそう。寮までの道のりも寒いもんね。それにしても、本当に大丈夫なのだろうか。心なしかちょっと何か隠していそうな気はするけれど……。
「それじゃあ! 今日もお仕事頑張ってください!」
「ああ。陸くんこそ」
「ありがとう」
陸くんがオフィスの入り出口のドアに手をかけたその時、彼は何かを考えるように一時停止してから勢いよくこちらへ振り返った。
「……あの、名前さん! 二十五日の夜、絶対に空けていてください!!」
その顔はすごく真っ赤で、でもとても真剣な表情だった。バタンと閉められたドア。別に空けようと善処せずとも何も予定なんて絶対入らないんだけどな…と思いながら改めてパソコンに向き直すと、視界に入った大神さんが「そういうことかあ」と楽しそうに笑った。
あれ、そういえば結局陸くんの事務所の用事って何だったんだろう。……デジャブ。
・
・
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更に一週間後。
昨日は仕事中にも関わらずオフィスに私しか居なかったのを良いことに、テレビをつけて生放送の音楽番組に出演しているIDOLiSH7のみんなの姿を目に焼き付けた。みんな格好良かったなあ。ここでいつも会って話す彼らとは大違いだ。特にやっぱり陸くん。みんなには内緒だけど、私は陸くん推しだったりするのだ。みんなの素晴らしいパフォーマンスも見ることが出来たのでその後の残業はまあそれはそれは捗った。
そして今日、クリスマス。
土曜日だけど私は今日もキーボードを忙しなく打っている。そう休日出勤だ。慣れたものだ。残業よりは気持ち的に楽だけど、残業明けの休日出勤はかなり疲れがあったりする。けれど、昨日の金曜日(又の名を華金)は街並みのイルミネーションを見てきゃっきゃうふふしているカップル一色だったので、ぶっちゃけそっちの方が精神的に負担がきつい。
今年も私はサミシマス。ヒトリマス。くりぼっち。いや私には仕事という名の相手がいる。恋人がいる。隣には大神さんも一緒に休日出勤している。大神さんイケメンだし絶対彼女とかいるだろうけど、どうなんだろう。こんな日まで出勤なんて…仕事優先するタイプなのかな。何はともあれ私は一人じゃない、そう独りじゃないのだ。……そういや、今日陸くんに夜空けといてくれって言われていた気がするな。何だろう、お話かな。相談事かもしれない。年上の女の人にしか聞けないみたいなことがあるのかもしれない……と考えながらコーヒーをズズっと啜った。
午後七時。今日は夕方までと決めていたけれど、陸くんのことをどこで待てば良いのか分からなかったので、どうせ事務所で待つなら仕事をしておこうと思ったらこの時間だ。結局いつも通りじゃないか。まあ仕事終わったから良いかな…と思っていると、オフィスのドアが開いた。
「名前さんっ! 遅れてすみません!!」
息切れしながら部屋へ入ってくるなり謝り倒したのはだれでもなく陸くんだった。
「そんな急がなくても良かったのに…大丈夫だよ」
「いや、すみませっ、俺から誘ったのに…」
ん? 誘った? 陸くんの言葉のチョイスに疑問を感じながらも私はパソコンをシャットダウンさせた。すると、なぜか大神さんがニコニコとした表情でいつの間にか私の鞄を持っていて、「はい」と渡してくれた。ん? 大神さんの唐突な良心が不思議にしていると、すっごく楽しそうな笑顔で私に一言。
「楽しんできてね」
「えっ?」
「名前さん、行きましょう!」
「ええ!?」
それから陸くんに手を引っ張られて、私は事務所を出た。部屋を出る直前、大神さんが「メリ〜クリスマ〜ス」と手をひらひら振っていたのがかなり印象的だったけど、ぐいぐいと手を引っ張る陸くんについていくのに必死で大神さんの言葉の意味を理解することは忘れていた。
事務所を出てすぐ、陸くんはようやく足を止めた。ほんのちょっとしか走っていないのにゼェゼェと呼吸を乱している私……。少し時間を貰って息を整えてから、陸くんの顔を見上げた。
「どうしたの? 何か話があったんじゃないの? 行きましょうって、どこに?」
「は、話!? 違います!」
「ええ?」
思わず怒涛の質問攻めをしてしまった私に対して陸くんもあわあわと慌てていたけれど、そんな陸くんの返事で今度はこちらが混乱することとなる。
すると、陸くんは持っていた鞄の中から何やら可愛いイラストが描かれている袋を取り出した。頭の中が疑問符でしか埋められてない私に、陸くんは照れくさそうにそれを私に差し出した。
「これ。名前さんにまず渡したくて」
思考がほとんど固まっている私は言葉を発することも出来ぬまま、とりあえずそれを受け取って陸くんに促された通りに袋を開けてみる。
袋の中には、赤を基調とされた超絶可愛い手袋が入っていた。恐らく新品。
「名前さん、前手袋持ってないって言ってたから…良かったらと、思って」
「………」
「あっ、もう買ってたらごめんなさい! それに、嫌だったらごめんなさいっ! 」
その手袋をぼうっと眺めながら何も言わない私に陸くんは心配に思ったのか、勢いよく謝り倒した。ううん、違う、違うよ陸くん。私今すっごくビックリしていて声が出ないっていうか。何度も手袋と陸くんの顔を見て、現実をちょっとずつ把握していく。ようやく実感が湧いたとき、寒いはずなのに心がぽかぽかとし始めた。
「本当に、もらっていいの?」
「は、はい! もちろん!」
「…ありがとう、陸くん。すっごく嬉しい!」
「! …良かったあ」
ほっと胸を撫で下ろす陸くんを見て微笑ましくなりながらも、私はあることを思い出して一瞬にして罪悪感に呑まれた。どうしよう、まさかこんな素敵なプレゼントを貰えるなんて想定していたはずもないから何も用意していない……しょうもないものさえ無い……。
「…ごめん陸くん。私、何も用意出来てなくて…」
「ええ、そんなの大丈夫です!」
「ううーーん、私が納得出来ないというか…」
「あの、名前さん。それじゃあひとつお願いを聞いてもらっていいですか? 」
「ん? うん。出来ることなら何でもするよ!」
休日出勤も残業もしまくってるからお金には困っていないからね、私! たーんと何でも買ってあげられるよ! いきなり社会人の強みが出てきたみたいに私は何でも仰いと陸くんに胸を張った。しかし、陸くんの望みは私の予想していたものではなく、むしろ予想することは不可能であろうものだった。
「これから時間、ありますよね」
「…うん? あるけど」
「今から一緒にご飯行きましょう!」
「…」
「それから、俺、イルミネーション見に行きたいんです!」
「…」
「名前さんからの、クリスマスプレゼント。それで、お願いできませんか!」
ちょっぴり緊張しているような、けれど嬉しそうな陸くんに私は口をあんぐりと開けてからしばらくして、「そんなことでいいの? 」と思わず聞いた。ご飯食べて、イルミネーションを見にいく? それだけで本当に良いのかな。ほら、男の子だったら財布が欲しいとか腕時計が欲しいとか。何でも買ってあげられるのに。それに、せっかくのクリスマスなんだからメンバーとパーティとかしないの? 仮にそうじゃなくとも、こんな日を私みたいな年上の(自称おばさん)女と居てもいいの? そんなもので良いのだろうか!?
すると、私の言葉を聞いて陸くんはきょとんとした表情を浮かべた後、緩く口角を上げた。その笑みがなぜかすごく格好良くて、目を奪われた。
「クリスマスって、大切な人とか、大好きな人と過ごす日だから」
そして陸くんは頬を赤らめて、はにかんだ。
「名前さんと、過ごしたいなって思ったんです」
………………ん?
「――な、なんちゃって! それじゃあ行きましょう! この前、大和さんと三月が美味しいお店を教えてくれたんです!」
………それってつまり、………?!
いやいやいや、そんな訳ない。いやでも陸くんの今の言い方的にそうなってしまうのか。いやでもまさかそんな、こんな私にそういう感情を陸くんが抱くはずない。そうだ、年上のお姉さん感覚みたいな感じだよね、そうだそうだ。うわあ、大切で大好きな人って思ってくれている嬉しいなあ。でもさっきから陸くんの私を見る目がすっごく、なんていうか、熱っぽくて目線を合わせられない。するとそのとき、スピードの速い車が真横を通ってぐいっと陸くんに引き寄せられた。「危ないなぁ、あの車……。名前さんはこっちにいて下さい」ほぼほぼ陸くんの腕の中みたいな場所で彼にそう言われて胸がドックンと跳ねた。ちょ、待って、かっこいい、何それ、私ギャップに弱いんだって…! その瞬間、先ほどの陸くんの台詞も思い出して首元からじわりじわりと熱が上がった。
恥ずかしくてたまらなくて、とりあえず私は照れ隠しで陸くんから貰った手袋をはめてみる。すると、陸くんは「似合ってます! すごい、可愛いです!」って絶賛してくれて私のキャパシティはオーバーだ。これからのご飯、そしてイルミネーション。先が長いけれど私はやっていけるのだろうか。心臓持つのだろうか。いや幾らあっても足りない気がする。隣で楽しそうに歩いている陸くんを見ながら、私はそんなことを考えていたのだった。
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