「お前また宿題やってねぇの」
「……」
「なんだよ図星? はははっ」
「うるさい! メモするの忘れてたの!」
あー確かにお前、昨日の古典の時間寝てたもんなぁ。ニヤニヤとしながら思い出すようにそう言ったこいつは、最低最悪なことに今私の前の席の奴である。名は御幸一也。野球部。イケメンとやら騒がれて絶対調子乗ってる系男子。確かに初めはちょっと格好良いかもとか思ってたけど、中身を知れば全くそう見えなくなったのは如何なものか。私のことに関して小さなことでもいちいち突っかかってくるし、口を開いたかと思えば私の癇にピンポイントで触れやがる。正直、めちゃくちゃ嫌いだ!
「古典の先生、宿題とかに厳しーだろ」
「今からダッシュでする」
「そのプリント、裏にも問題あるんだぜ。無理だろ」
「……」
「てかお前、昨日の授業のノートもとってねぇし終わりだな」
「だぁぁっ!うるさい!」
ていうかアンタはいつもみたいにあの野球のスコアブックだか何だか読んでおきなさいよ! お構いなしに怒号をあげるとクラスメイトみんながこちらを向いていた。……ちょっと声大きかった。かなり恥じらいを感じながらも私はクラスメイトから目を反らした。ちなみに目の前にいるヤツは未だにニヤニヤしている。なんだよ、と言わんばかりの視線を送ると大きな笑い声を教室に響かせた。
「ひー、はははっ!やべ、笑いとまんねぇ。お前だいじょぶ?」
「こんのおのれ御幸……!」
お腹の底から沸騰していく怒りと共に、私は腰を上げて奴の頭に鉄拳を振り落とそうとしたその時。キーンコーンカーンコーン。「……あ。」終わった。私の古典の平常点グッバイ。まだ笑ってる御幸に、鉄拳を振り落とそうとする元気はもはや無かった。
「絶対御幸くん、名前ちゃんのこと好きだよ」
その日のお昼休み。いつも一緒にいる友達のグループ所謂イツメンと中庭でランチタイムを楽しんでいると、突如友達の口から出てきたその発言に私は思わず鼻で笑ってしまった。
「ないない」
あいつが? 私のことを? 好き? ラヴ?ないない。なさすぎて笑える。想像するだけで気持ち悪すぎて笑える。全力で有難く受け付けないです。「だって、御幸くんがあんなに女の子に絡むなんて初めてなんだって」そう仰る友達は、一年生の頃から御幸と同じクラスらしい。あんなに女の子に絡むなんて初めてといわれましても、そもそもあいつが私を女みたいに思ってるのかさえ疑わしい。「おめぇ口悪いな、男みたい」楽しそうにうししと笑いながら再び私の癪に触れてくるあいつが頭に浮かんだ。……くっそ、思い出すだけでムカつく。
「名前ちゃんはどうなの? 御幸くんのこと好」
「絶対ない」
「あ、苗字じゃん」
「……」
昼休みが終わる前。ランチタイムが終わってから友達に先に教室に帰ってもらって、私は食堂前の自動販売機にやってきた。水筒に入っていたお茶が今日はめずらしく減りが早かったのだ。よーし、何にしようかなー。炭酸にしようかな、無難にお茶やスポーツドリンクにしようか。あ、でもあと授業も二時限だけだしパックでもいいかなぁ、「あれ、無視? ひでー」うーんどうしよう。
「おーい」
「………」
「名前ちゃーん」
「………」
「何買おうとしてんの」
「うるっさいな、悩んでるの。分からない?」
「あれ、返事かえってきた」
「しまった!」
ここは御幸の存在に気づいてないフリをしようとしてたのに……あまりのしつこさに返事を返してしまっていた。ちくしょう。まるで勝負に敗北したかのような悔しさが込み上げる。あーあ、ほら、またニヤニヤしながら奴が私の隣に来た。
「しまったって何だよ、はは」
「ふーんだ」
「で、どれ買うの?」
「んー。もうお茶にしよかな」
「一番上の列のお茶?」
「うん。って、は?」
まず、なんでいちいち何買うか聞くんだよそんなに私のこと知りたいのかよと突っ込もうとしたけど、その後の御幸の行動の方が突っ込みどころ満載だ。あまりにもナチュラル過ぎて、一瞬何が起こったのか。御幸は自分の手の中に入っていた百円玉を二枚いれて、一番上の列のお茶を選んだ。その所要時間、わずか五秒。ガタンコトン。音をたてながら落ちてきたのは、私が選んだお茶。……ん? 私が選んだお茶? 御幸が飲むお茶?
「ん」
それを拾い上げて、私に突き出す御幸にますます頭がはてなマークでいっぱいになった。え、もしや、もしや。
「やる」
「え、マ、マジで、」
「なんて顔してんだよ」
驚きが多くて多分目がすんごいまんまるな状況だと思います。未だに状況を理解するのに頭がついていかず、口は動かないため心の中でそう答える。すると御幸は思わぬ爆弾を私に投げかけてきた。
「はは、可愛いやつ」
……え、は? ちょ、え? 私の頭に手をポンポンと二回優しく叩いてから御幸は校舎へと戻っていく。去り際、私に背中を向けて手をひらひらさせながら「今日の古典の件はそれで許してくれよ〜」と呑気な声色で言った。お茶奢ってくれるし可愛いとかいうし、何かいつもの私なら気持ち悪いでまとめるんだけど、なんでだろう。なんか胸がドキドキする。まさか……まさか、お茶マジック!?「絶対御幸くん、名前ちゃんのこと好きだよ」あー、友達! 友達よ! 頭の中に出てくるな! とりあえず、御幸のせいでまた更に頭が混乱した。御幸のバカヤロウ!き、嫌いだー!
▽160702