不鮮明なあした
不鮮明なあした


 夢か現実か分からない、そんな微睡みの世界で私は優しく頭を撫でられていた。とっても心地がよくて、しあわせで、その正体がどうしても知りたくて、重い目蓋をひらいた。「悪い……起こしたか」はっきりとしない視界の中で聴こえたのは大好きな人の声で、意識がゆっくりと、着実に覚醒し始める。「れい、くん?」掠れた声で確かめると、彼は口元を緩めた。わたしは零くんのこの優しい笑顔が、だいすきだ。

「いま、帰ってきたんだ」
「……おかえり」
「ただいま」

 微睡みの世界で私を優しく撫でてくれていた手が、零くんだと分かると更にしあわせな気持ちになる。零くんのパワーって、すごい。重くて何度も落ちてくる目蓋を必死に上げながら、零くんの顔を目に焼き付ける。零くん。

「眠いよな、ほら」

 零くんはそう言って私に布団をちゃんとかけ直してくれた。だけど私は力なく首をふるふると振ってそれを否定する。「ねむく、ない」「嘘つけ」「零くんと、いっしょに寝たい」いっしょに布団に入って、いっしょに目を閉じて、いっしょに夢に落ちたい。そこまで全て言える気力はもうなかったけれど、零くんは一言で分かってくれた。だけどそれを許してくれなくて、また私の頭を撫でる。眠気が更に増して、もう目蓋を開けることすらできなかった。

「……零、く、」

 だんだんと零くんの声が遠くなってゆく。だけど気配はずっと感じることができていた。ああ駄目だ、もうだめだ。夢の世界のドアノブを引こうとした瞬間、唇に柔らかい感触がして僅かに現実に引き戻される気がした。「おやすみ、嫁」その声は、鮮明にひびいた。おやすみ、零くん。今度こそ私は夢の世界のドアノブを引いた。明日の朝目覚めたら、隣に零くんの姿がありますようにと願いながら。


//180322

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