新しいお友達
新しいお友達


 とある土曜日。娘と二人で、少し遠出をしようと隣町の米花町へと車を走らせていた。今は仕事に行っている零くんに昨日の夜、そのことを話すと「おまえ、運転大丈夫なのか?」と心底不安そうに言われてしまった。たしかに久々の運転だけど、だからこそ乗っておかないと、それこそペーパードライバーを拗らせてしまう。いつどんなことがあるか分からないから、運転の感覚は保っておかないと。

「うわぁ、おっきい!」

 そんなこんなで、無事に米花町のデパートに到着し娘と買い物をする。普段行くようなスーパーより遥かに大きな規模だから娘も楽しそうに目を輝かせていたけど、やっぱり子どもは外で体を動かしたりして遊びたいのか、すぐにグデーっと疲れはてた様子だった。もう少しデパートを回ってみたかたったけど、今日の夕食の材料は買えたし仕方なしにデパートを出た。
 そして家へ帰ってる途中で、住宅街を走っているとき。娘が突然大声を上げた。

「ママ!見て、あそこ!」
「んー?」

 娘の指さす方を見れば、そこには一つの公園があった。「いきたいの?」と尋ねれば、全力で肯定するように頷かれる。まだまだ幼いから、もし駄目だと言っても一度いきたいと思ったら子どもは駄々をこねるものだ。それなりに言うことは聞いてほしい。だけど、小さい頃から駄目駄目と強調して自分の意見を言えなくなる子にも育ってほしくない。こういうとき、教育って難しいなあとも思う。零くんに相談したくなる。
 考えた結論、私はそばに車を停めてその公園で遊ばすことに決めた。「この公園には、あんまり来れないからね」と以後ここで遊びたいという意には釘を刺して。

 公園に入り次第、娘がまず向かったのは大好きなブランコだった。しかし、二人分のブランコには既に五人もの先客がいた。一人の女の子は普通にブランコに乗っていて、大柄な男の子と細身な男の子が二人乗りをしている。危なそうに見えるけど、大丈夫かな。
 とにかく空きがないし滑り台でも行く?と娘に提案しようとしたら、隣にいたはずの娘がいない。見渡せば、ブランコのところへ行っている姿を見つけた。相変わらずの行動力の早さ。誰に似たのか……と内心苦笑しながらも、私もブランコの方へ向かった。

「娘、そんなにブランコ乗りたいの?」
「うん。のりたい!」
「じゃあ、ちゃんと順番待つんだよ」
「はぁーい」

 一度やりたいと思ったことや決めたことは貫き通すところとか、だけど駄々をこねないのは賢いなと我が子ながら思う。これだけで、親バカっておもわれちゃうのかな。娘の頭を撫でていると、「ねぇ」と近くから声が聞こえた。

「ブランコに並んでるのかしら」

 やけに大人びた女の子が、娘にそう訊ねる。う、うわぁ、この子何歳なんだろう。単純に見た目だけ見れば小学生くらいだけど、雰囲気がもはや小学生じゃない。
 その女の子の問いに娘は「うん!」と満面の笑みで頷く。すると、その女の子の隣にいたメガネ少年(こちらも随分と小学生とは思えぬ異様な雰囲気を纏ってる)がブランコで和気藹々と遊んでいた他の三人のお友達の方へ振り向いた。

「おーい、お前ら、ブランコ乗りたいって子がいるから代わってやれー」

 衝撃を受けた。すごい、リーダー格な男の子なのだろうか。小学生から何歳も上くらいに感じるその言い方に驚きを隠せずにいると、その様子に気が付いた男の子は私を見て「え、えへへ」と誤魔化すように笑っていた。なんだろうこの子、変な感じ。とにかく心の中で気に留めておいて、「ありがとう」と口にする。ブランコで遊んでいた子たちは娘を見るなり、一つのブランコを空けてくれた。優しくて、良い子たちだなぁ……。しかも、「背中押してあげようかー?」「何歳なんですかー!?」と一緒に遊んでくれようとしている。うわぁ、本当に良い子たち……。そんな雰囲気に和みながら、ブランコ付近のベンチに腰掛けようとするとそちらにも先客がいた。というか、先ほどのやけに大人びた女の子と謎めいた男の子。

「少しお邪魔してもいいかな?」
「いいわよ」
「あ、ありがとう」

 二人が座っている隣に腰を下ろす。ブランコの方を眺めれば、娘もあの良い子たちときゃっきゃと楽しそうだった。良かったね、娘。その様子をぼんやり眺めていると、隣から視線を感じた。

「……なにかな?」

 メガネの謎の男の子の視線だった。

「あの子、おねーさんの妹?」

 男の子が指さしているのは、恐らく娘のことで。突然質問を投げかけられたことより、その内容につい驚きを隠せずにいる。

「いやいや、あの子のお母さんだよ」
「まじかっ!?」
「えっ」
「あ、いや、あはは!おねーさん、すっごい若いね!高校生くらいかとおもっちゃった!」

 小さいくせに言うことはやはり一丁前だ。社交辞令なのか、それとも本気で思っているのか。若いといわれるまでは嬉しかったけど、高校生と見られるのは……少し複雑だ。私、そんな幼く見えるのかな。決して童顔じゃないはずだ。というか、高校生より10年以上長く生きているのに。
 すると、男の子の隣にいた女の子が先ほどの私たちのやり取りを聞いてから口を開いた。

「あの子、髪の色素も虹彩も薄いから」
「うん?」
「あなたがあの子の姉なら、少し不思議だと思ってたの」
「へ、へぇ…」
「でも。母ということなら……あの子のお父さん――あなたの旦那さんは外国の人なのかしら?」

 そこまで聞かれて、ああと気付く。娘のことをハーフなのかと尋ねているのだろう。確かに、私がもし娘と兄弟なら、純日本人の塊である私と娘の繋がりが不思議に思える。
 娘はどちらかというと零くんの血が強くて、生まれつきの髪色も金に限りなく近い明るい茶髪だ。目だって、青色だ。ハーフと間違われたことは幾度となくある。普通の人なら疑問に思うことは当然だと思った。
 だけど私はそれ以上の疑問を今抱いている。

「旦那さんは外国人じゃないよ」
「……へえ、そうなの」
「ねえ、それより。君たちは小学生?」
「うん!一年生だよ!」
「そっか。お名前はなんていうの?」
「江戸川コナン!」
「コナンくんかぁ。えっと……あなたは?」
「……灰原哀よ」
「哀ちゃん。可愛い名前だね」

 そう言うと、大人びた女の子――哀ちゃんはフイと顔を逸らしてしまった。あれ、なんか気を悪くさせちゃうようなこと言ったかな。にしても、コナンって凄い名前。ご両親はコナン・ドイルとかが好きだったりするのかな? とてもインパクトのあって覚えやすい名前だ。
 それからコナンくんたちが通っている小学校の話だとか、今娘とブランコで遊んでいる子らと自分たちで少年探偵団として事件を解決してるだとか、さまざまなお話をコナンくんがしてくれた。小学生離れしたところを一瞬見てしまったせいか、何だか全て演技っぽく見えてしまうのが嫌な大人だなと自分を戒めたくなったんだけれども。コナンくんが話している間も、哀ちゃんは彼を白けた目で見ていて余計にそう感じてしまう。やっぱり、なんなんだろう。この子たち。

 しばらくして、ブランコから色々な遊具で遊んでいた娘は疲れ果てたのか一緒に遊んでくれていた子たちと一緒に私のいるベンチへとやって来た。

「ありがとうね、娘と一緒に遊んでくれて」
「いえいえ!どうってことないです!」
「私たちも、娘ちゃんと遊べて楽しかったもんね!」
「おう!また遊ぼうな、娘!」

 嬉しいことにそう言ってくれて、娘も満足げだ。少年探偵団と名乗っていた五人とお別れして、今度こそ私は帰宅だと車を走らせた。助手席に座っている娘は爆睡だ。よだれを垂らしながら寝息をたてている娘に笑みを浮かべながら、私は運転に集中した。
 それにしても、コナンくんと哀ちゃんか。不思議な小学生だったな。
 







 数日後。お昼頃に家へ帰ってきた零くんに、娘が待ってましたと言わんばかりの表情で畳み掛けるように零くんへ話し始めた。

「ぱぱ!この前ね、新しいお友達できたんだ!」
「へえ、そうなのか? 幼稚園の?」
「んーん! 小学生さんだって!」
「……小学生?」

 キッチンで夕食の準備をしながら、二人のやり取りをこっそりと聞く。零くんもさすがに、小学生という娘にとってイレギュラーな単語には気になった様子だった。

「娘がブランコしたいって言ったらね、譲ってくれて、」
「あぁ」
「そのあと、一緒にあそんでくれたの!」
「優しい子たちだったんだな」
「うん! 名前はね、あゆみちゃんと、みつひこくんと、げんたくん!」

 わ、すごい!娘ったら良く覚えてる!数日前とはいえど、一日限りしか遊んだことのない人の名前を、しかも一気に三人も覚えていたなんて凄い。キッチンから凄いね、と心の中で褒めていたからか、零くんの体が硬直していることには彼が口を開いてからようやく気が付くことになるのだ。

「……あゆみちゃんと、みつひこくんと、げんたくん?」
「うん! あと二人いたけど、その人たちはママと喋ってた!」
「嫁、どこの公園に行ったんだ?あとその二人の名前は?」
「えっ? えーと、米花デパートの帰りに近くに寄った公園で……」

 突然私に視線が向けられてびっくりしながら、零くんの質問に対して答えようと頭の中の記憶をぐるぐると再生した。駄目だな、娘はパッと三人もの名前を言っていたのに私が名前を思い出すのを苦労している。
 あの大人びた女の子は――だめだ、一向に思い出せない。けれど、あのメガネの男の子なら思い出せる気がする。すごくインパクトのある名前で……確か、小説作家さんだとかの名前と同じで……ああそうだ、コナン・ドイル!

「一人はコナンくんって子だったよ、苗字は忘れちゃったけど」

 閃いたように人差し指を立てて、私は零くんに教える。すると零くんは確信づいたように「コナンくんだと!?」と大声で叫んだ。なんだか、とても驚いている様子だ。何でだろう。尋ねてみると、しばらく零くんはぶつぶつと一人で何か言いながら顔を上げた。

「……いや、ちょっと知り合いでな」

 し、知り合い?小学生と?頭に疑問符がぽぽぽん、とたくさん浮かび上がる。謎が深まるばかりだ。色々根掘り葉掘り聞きたい気持ちも山々だけど、干渉しない方がいいかなと思った。多分仕事とかで知り合ったとかなんだろう。零くん、公安警察だし。仕事内容も捜査内容とかも私は何一つ分からないけど、それ以外は考えられない。というか、違う環境で出逢っていたらそれはそれでびっくりする。

「コナンくんたちと、どんな話をしたんだ?」

 しかし、零くんの方からそのコナンくんについて色々と尋ねられる。興味があるのか、確認を取っているのか。確かにコナンくん、明らかに普通の小学生ではなかっただろうし……零くんもなにか分かったりしてるのかな?

「んー、娘のお姉ちゃん?って聞かれた。勘違いしてたっぽい」
「……」
「それで母だよって弁解したら旦那さんは外国人なの?ってもう一人の子に聞かれて」
「違うって、答えたのか?」
「うん、事実を述べた……かな」

 すると零くんはまたもや一人で何か深く考えている様子だった。そして、パッと顔を上げてやんわりと笑う。少し困っているような表情だった。そして一言、「侮れないな」と呟いた。え、何が?

「もー、パパ聞いて!それでねっ」
「ごめんごめん、何だ?」

 娘がぷんすか怒り出して、零くんは慌ててそちらの方へ視線を戻した。侮れない? 何が? 侮れないっていうのは、私たちのことについてなのか、零くんが、なのか。益々謎が深まり頭を悩ませていたのだけど、油の中に浸っている状態にいた天ぷらの存在を思い出し慌てて料理に意識を戻したのだった。いつかまた、コナンくんたちに会えたら良いんだけどな、なんて考えながら。


//180312

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