「こいつはバカに決まってんだろ」
助けてください先生、いじめです。前後の席の野球部員に私、いじめられてます。
何が悲しくて、待ちに待っていた二年生初めての席替えで前が倉持、後ろが御幸になってしまったのだろう。なにか罰が当たることをしただろうか。
「君たちね、とりあえず私のことをバカって言いたいだけだよね?」
そう言い返すと、さっきまでしつこいくらい私に突っかかってきたくせに、ツーンと何食わぬ顔で無視してきた。泣いてもいいかな?私の眉根が下がったのを見つけたのか、倉持が「なに変顔してんだよヒャハハハ!」とまた笑ってきた。御幸はいつの間にかスコアブックを読んでた。まじなんなのこの人たち。前の席の奴も、後ろの席の奴も、相変わらず都合良いマイペース自由人で笑える。
驚くでしょう、これが日常茶飯事なんです。
二年生で、二人とも初めて同じクラスになった。倉持は言わずもがな、目つき悪いし口悪いし、隠し切れぬ元ヤン臭がハンパなくて。御幸は良いこと悪いことなんでもズバッと言って、掴み所のない性格だとクラスメートとの会話を聞いて思っていて。あ、この人たちとは関わらない気がする。てか関わりたくないです。そう思ってた矢先、席替えでこの二人に挟まれてしまったのだ。
でも、絡んでみたら二人とも意外に絡みやすいという驚きの事実が発覚した。何だかんだ私は奴らに下に見られているけど、一緒にいてまあ楽しい。下に見られているけど(ここ大事)。クラスメイト、じゃなくて友達って呼べる存在だと思う。奴らがそう思ってるかは知らないけど。まあ少なくとも私は。
そんなある日だった。
「お前って御幸のことカッコイ〜とか思わねえの?」
「なによ倉持いきなり」
「こいつの顔だけ見たら大抵の女はそう言うだろ?」
「顔だけ見たらね。でもこいつの性格を知ってしまったら全くカッコイ〜んなんて思えないよね」
「言ってくれんなあ苗字」
倉持の質問に本音を隠さずに答えると、後ろから御幸に首の肉を摘まれた。こいつ。
「野球してる姿は?」
「見たことない」
「あ?お前、去年の夏大きてねーのかよ。全校応援」
「あはは」
仮病を使ってサボりましただなんて口が裂けても言えない。すると、そんな私を御幸が見越したように鼻で笑った。
「今週の日曜」
「はい?」
「練習試合。うちのグラウンドでやるから来いよ。強制な」
「え、やだ」
「倉持も俺も見れるぜ?」
「おめー何ニヤニヤしてんだよ」
「いやいや、全く興味ないから」
大事な大事な日曜日ですよ?そんな貴重な休日にわざわざ君たちの野球姿を見に行かないに決まってるでしょうが。そう、見に行かない。はずだったんだけどな。
「…来ちゃった」
おかしい…こんなはずではなかったんだけだな。あいつらには秘密でやってきたけども。絶対会いたくないからね。絶対からかわれるからね。けど来たら来たでやっぱり後悔だ。ていうか、一人で来るんじゃなかった。
野球のユニフォーム着た部員がグラウンドにも、グラウンド外にもいっぱいいた。部員多すぎ…こんな中から倉持と御幸探せるわけないじゃん。
観客席みたいなところがあったけど、男の人いっぱいだったからとりあえず木陰から試合を見ることにした。
試合が始まった。倉持は打順やらが一番って言ってたからすぐさま「あ、倉持だ」と気付いた。倉持はヒットを打って、塁に出た。かと思うと、すぐに次の塁に走った。ん?チーターかな?「ヒャハッ!」と笑ってガッツポーズを作る倉持に、相変わらずだと笑みがこぼれた。
お餅みたいな人の次に、御幸らしき人がバッターボックスに立った。奴はカキーン、と金属音を響かせた。御幸がヒットを打って、ランナーを二人還してた。
守備についたときも、御幸は二塁に怖いくらいの速さでボール投げたり倉持が飛びついてボール取ったり、なんていうか。普段の教室での奴らとはまるで違うじゃないの。
◇◇◇
試合は青道が勝った。二人とも活躍してて、なんか余韻みたいなものがあってしばらく木陰でグラウンド整備や片付けする選手をボーッと眺めていた。
御幸も、倉持も、凄かったな。ちょーっと印象変わったかもしれない。教室でのあいつらは本当ムカつくしつこいドSな奴だから。真剣に何かに打ち込んでる人たちってやっぱり――。
「あれ、ちょ、おい!御幸!」
そのとき、誰かが御幸を呼んだ。見覚えのある声が。
「ヒャハハハハ!苗字じゃねーか!」
「げっ」
この笑い方…倉持しかいない。顔は見てないけど、とりあえずやばいと思って逃げようとしたが誰かが目の前に立ちはだかった。この茶髪、ボサボサ髪、メガネ…御幸しかいない。
「よー、苗字。試合見に来てくれてたのかよ」
「…いや?忘れ物したのでつい先程学校に来たばかりですよ」
「っていうくせに何も持ってねーじゃねーか」
倉持に図星をつかれて、つい言葉に詰まる。しかし、試合見に来てました!なんて言えない。恥ずかしい。とりあえず早く逃げたい。そんなとき、救世主が現れた。
「あ、名前ちゃん!」
「ゆゆ唯ちゃん!」
一年の頃、同じクラスだった野球部のマネージャー唯ちゃんと出くわした。よし、少し唯ちゃんを利用して二人から離れようとした――がしかし。
「名前ちゃん、今日ずっと試合見てくれてたんだね!」
「え」
「試合前からいたよね?私見かけたんだけど、ちょっと忙しくて声かけられなくて」
やばい、爆弾発言をされてしまった。後ろにいる二人が見らずともニヤニヤしているのがわかる。冷や汗たらり。
「また良かったら見に来てね!それじゃあ、私仕事あるから…ばいばい!」救世主と思っていたが、どうやら違ったらしい。唯ちゃんは可愛らしい笑顔を残して、その場を立ち去った。やーん、唯ちゃーん……
「へーえ?」
「試合前から?」
「…」
「あんなに、誰が行くかこの野郎!とか言ってたくせに?」
「べ、別にあんた達を見に来たんじゃないから!」
「じゃあ誰見に来たんだよ?」
「…はいはいはいはい!あんたたちが見に来いって言ったから来てあげたの!」
「はっはっはっ!かわいーところもあんじゃんお前!」
「……」
「ヒャハハ!顔真っ赤じゃねーか!」
「赤くないし!」
ほら見ろ、やっぱりからかわれる。とりあえず未だにお腹を抱えて笑ってるメガネと元ヤンの顔に鞄をバシーン!とぶつけてやった。
すると元ヤン、もとい倉持は「あぁ!?」と怒りを露わにしてきて私はすぐさま逃走する。
「御幸、倉持!」
今年の夏大は応援行ってあげる!捨て台詞のようにそう言い残して私は猛ダッシュで家へ帰った。
真剣に野球に打ち込んでる御幸と倉持はかっこいい、なんて死んでも言わないね!
青と春から逃げよ
request; 七星さま / 倉持と御幸の友達で、こっそり試合を見に行ってるのがバレていじられるツンデレな女の子