鏡に映る、真っ白に包まれたその人物は、どこからどう見ても自分に見えなかった。
 綺麗なドレスに身を包んで、綺麗に化粧をされて。自分がここまで綺麗になれるなんて、と驚いたくらいだ。

 頭の上でキラキラと輝くティアラに、目も輝いた。子供の頃からずっと憧れていたこの純白の姿に、口元が緩んだ。控えめなノックの後、僅かに開いたドアから聞こえたその声に、笑みが漏れた。

「お、おお、お邪魔してもいいっすか!」
「どうぞ」

 ぎこちなくドアを開いたかと思うと、トントン、と彼がこの部屋に入ってくる足音が耳に入る。あ、緊張しているな、って足音だけで察してしまう辺り、彼が分かりやすいのか私が凄いのか分からなくなってくる。

「名前、もう大丈夫か…?」

 その言葉を合図と思って、私は仕切りのカーテンからソッと彼の目の前に出ていった。

「っ…!」
「どう、かな?」

 栄純。名を口にすると、彼の肩がほんの少し跳ねた。
 ドレス姿を栄純に見せるのは今日が初めてだった。挙式当日に、彼に初めて見てほしい。私のわがままだった。そのため、お母さんと二人きりでいつもドレスは選びに行っていた。
 だから、栄純がどんな反応をするのか楽しみで、それであってちょっぴり不安だった。
 栄純は顔を真っ赤にしたまま、微動だにしない。彼の口から出てくる言葉を、ずっと待っているけれど、彼の口は一向に開かない。思わず、彼の名をもう一度呼んだ――そのときだった。

「え、栄純?」

 ぽろぽろぽろ、栄純の目から涙が溢れていたのだった。わんわんと子供みたいにな泣くんじゃなくて、本当に涙だけ溢れているかのような。突然の出来事に私は慌てて、彼に近寄った。
 彼の髪は既に格好良くセットされているから頭を撫でることも出来ない。代わりに、私は彼の片頬を右手で包む。
 それと同時に、大切なことを思い出した。

「栄純、すっごくかっこいいよ」

 あまりにも自分の姿を、彼にどう思われるかを気にし過ぎていて、大切なことさえも忘れていた。
 私と同じ真っ白なタキシードに包まれた栄純は、本当に、とても格好良かった。

「名前」
「なあに?」
「似合ってる」
「…」
「世界でいっっっちばん!綺麗だ!!」

 突然の彼の大声に、目を見開きながらも口が緩んでいた。

「なんていうか、だな。その…本当、名前が綺麗過ぎて泣けてきた!」
「ふふ、涙もろいんだから」
「なっ、仕方ねーだろ!!」

 未だに顔を真っ赤にさせながら、栄純はぷいっと顔を背けた。そんな彼に、また笑みが漏れた。

「…なぁ、名前」
「んー?」
「俺、ほんとに」
「…うん?」
「こんな綺麗なお嫁さん貰っちまってもいーんだよな?」

 鼻をこすりながら、栄純はちらちらと私を見ながらそう言った。
 いつもは元気でうるさい人なのに、こうやって照れたらモジモジと控えめに話すのがすごい可愛らしい。同い年なのに、本当に年下を見ているかのような。でも、いざとなれば頼もしくて、強くて、格好良くて。

「私も、こんな素敵な人のお嫁さんになってもいいのかな?」
「っんなの、当たり前だ!もうバッチコイだ!」
「じゃあ、私もバッチコイだ」

 彼の鼻先に唇を寄せ、微かに触れる。彼はまた顔を真っ赤にしたかと思えば、突然真剣な表情に切り替わる。思わず胸がきゅんと高鳴った。

 すっと顔が近付いたかと思えば、私の唇には彼の唇が恐る恐ると重なっていた。少し、震えている気がした。
 栄純のお陰で、私はこんなにも幸せだ。この幸せを、これからもずっと続けていこうね。二人で支え合って、バカみたいに笑い合って、生きていこうね。

 長いようで短いキスを終えて、暫く見つめ合う。すると、彼の鼻先と唇に私がつけているリップの赤がほんのりとのっていて、急いで指で消し、どちらからともなく微笑み合った。
 さて、これから二人の幸せを、二人の未来を、一緒に誓いにいきましょうか。






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