「あ、苗字先輩だ」
「なぬっ!?」
「ちょ、二人とも」
お昼休み。食堂の購買にて本日のランチを得るため、同じくランチを欲する生徒の行列に並んでいると、後ろからそんな声が聞こえた。
振り返ると、案の定そこには彼らがいた。
「おお!名前先輩!こんちやっす!!」
「こんにちは」
相変わらず今日も元気に挨拶してくる沢村くんに、小さい声ながらも真っ直ぐ挨拶してくる降谷くんに、そんな二人を必死に宥めながら控えめに挨拶してくる春市くん。
彼らは、一年ながら既に野球部のベンチ入りメンバーという凄い子たちだ。
「名前先輩、何をお買いになられで!?」
「えーとねえ」
「ハムカツサンド」
「え、なんで知って」
「そうだぞ!お前なんで知って…ハッ!まさかお前、ストー」
「してない」
「じゃあ何で分かんだよ!」
「いつも食べてるから」
「いやお前、それほぼスト」
「栄純くん降谷くん、苗字先輩が困ってるよ!」
「なっ、春っちほんとか!? 名前先輩、すいやせん!」
「すみません」
「いやいや、謝るほどじゃないけど!」
そんな彼らは、なぜか私にとても懐いてくれています。
「みんなって、どうして私と絡んでくれるの?」
「どうして…って」
「そりゃあ、俺たちの神様仏様女神様名前様っスから!!」
周りから聞けばおかしいとも受け取れる沢村くんのその解答に、降谷くんももこくこくと頷いた。春市くんは苦笑を浮かべている。ちなみに私は沢村くんのの言い分に心当たりが充分にあったため、春市くんと同様苦笑を浮かべた。
彼らとの出逢いは、ほんの二週間前。ここ食堂だった。
その日も購買の行列に私は並んでいて、私の前に並んでいたのがこの三人組だった。
沢村くんは、もう夏だというこの時期にアツアツの肉うどんを頼んでいて内心凄いなあと感心しているだけだった。なんせ、そのときはまだ知り合いも何も顔も知らなかったから。
その後、私はいつものようにハムカツサンドを買ってからくるりと行列を抜けると、またもや三人組の姿を見つけたのだ。まあ、そこまでは良かった。
それから、沢村くんと降谷くんが手にお昼ご飯を持ち、まだ立った状態のまま何やら(しょうもないことで)言い合いをして、勢いあまって沢村くんは手をあげそうになり、彼の持っていた肉うどんの汁が、あらまあなんと。他の生徒にかかってしまったのだ。まあ、本当の悲劇はここからだった。
なんと、その生徒は悲しきかな彼らの野球部の先輩である小湊亮介くんだったのだ。そのときの彼らの絶望に満ちた顔は今でも忘れられない。正直思い出すと笑えてくる。
私はその亮介くんと去年から同じクラスであり、仲も良い方だったため彼の怖さは十分理解していた。そのときだって、亮介くんの表情は見えなかったけど、背中からのオーラは凄いったら凄いったら。
しばらくすると、一年三人組(春市くんは完全被害者)が怒られているのが不憫に思えてきて、少し助け舟を出してやろうと思ったのだ。
「亮介くん」
「…苗字じゃん」
「ず、ずいぶんお怒りだね」
「なに?今おまえに構ってる暇ないんだけど」
「(ヒィ…)…この子達も、わざとじゃないんだし反省しているようだし、許してあげなよ…ね?」
「…」
「……」
「ま、そうだね。今回は許してやる」
そう一言残して、亮介くんは踵を返した。良かった良かった。
「…神だ…」
「神様」
「…うん」
「え?」
「あなたは女神様かぁあああ!!」
肉うどんを手に持ったまま、そうやって沢村くんが叫んだからまたちゃぷんと汁が床に溢れたのも記憶に新しい。
それから、彼らは私に懐いてくれている(らしい)。
彼らは出逢ってから、その度顔を合わす度に色々な話をしてくれた。野球部のベンチ入りメンバーだったり、春市くんは亮介くんの弟だったってことやら。正直その事実には驚きだったなあ。
「名前先輩!夏の大会、応援きてくれるっスよね!」
「そりゃあもちろん!」
「全試合来てくれますか」
「学校ある日は行けないけど、夏休みからは全試合いくつもりだよ」
「そうなんですね…やった」
「うん!だから、みんな頑張ってね。応援してるよ」
いつも元気で明るい沢村くん、寡黙だけど意外と緩い降谷くん、すぐ赤面しちゃう可愛らしい春市くん。
「ほんっと、みんな弟みたいだ」
無意識に出たその言葉に、ついハッと我に帰るも、三人が嬉しそうに笑うからまあいっかと自己完結させた。
そうだ。今日は財布の中も結構余裕あるし、三人にお昼ご飯を奢ってあげよう。きっと、いや必ず恐縮するだろうけど奢ってあげよう。可愛い可愛い弟のような彼らに。
エールを込めて、
request; 楽さま / 1年3人組に懐かれる先輩ちゃん