Detectives
2023/11/26
「えぇ、実は」
「初めまして。梓さん」
「うわぁ、モデルさんですか?」
梓の言葉にふたりは顔を見合せ、彼女は思わず破顔し、安室は困ったように苦笑した。
「透さんに聞いた通りの可愛らしい方ね。これでも物書きを生業としているんです」
彼女は残り少ないガムシロップとミルク入りのアイスコーヒーをストローで一口飲み込む。
「私はよくよく梓の話をしてくれるのに、私のことは秘密にしていたなんて、本当に秘密主義者ね、透さん」
いたずらっ子のように笑って、目の前に座る透の腕に触れる。
「そろそろ、行かないと」
「あぁ、打ち合わせだったね。送るよ」
「いいのよ。透さんはゆっくりしていたら、久しぶりなんでしょ?ポアロ」
すっと立ち上がる彼女はやはり姿勢の良さからか、実際の身長より大きく見えた。
「梓さん、お会いできて嬉しかったです。透さん、探偵業で迷惑をかけてばかりだろうけれど、これからもよろしくお願いしますね」
まるで切り取った絵画のように、美しく笑う。
「こちら、こそ。あの、またいつでもお越しください」
そんな人に微笑まれ、妙に緊張してしまう。
安室さんだって、イケメンと人気もあって、綺麗な顔をしていると思っていたのに、同棲の美はなんとも破壊力がすごい。
カランカランと扉の音がして、ただ彼女を目で追ってしまっていたことに気づく。
「緊張した」
ぼそり、呟くと安室は持っていったコーヒーカップをソーサーに丁寧に戻しながらも、吹き出しそうになるのを堪えている。
「なんで梓さんが緊張するんです?」
「だって、あんなに綺麗な人、生まれて初めて出会いました」
それに、安室さんの婚約者さん、だなんて。
「なんかもうハイスペックカップルすぎて」
色々と脳内処理が追いつかないなか、唯一、はっきりと脳内に浮かんできたのは
「これで、JKや安室さんファンも落ち着きますね」
勘違いではあれど、私だからこそ炎上必至だった件も、あれほどの美人、なんなら品もあり、性格も良さそうな婚約者がいるとなれば皆大炎上を通り越して、諦めの境地に達することだろう。
「それは梓さんが過敏だっただけかと思いますが」
安室は再び苦笑して、なんならその態度にこちらとしては腹が立ち。
「そもそも、あんな素敵な方がいたならなんでもっと早く教えてくれなかったんですか」
と、私の今までの無駄に等しい行動を恥じたのだった。