距離感を測りかねている。
じっと見据える、視線の先の男は難なくスコープ越しに引き金を引く。微かな反動でイーグレットを持つ腕がぶれた。耳に届くか届かないかの発砲音の後に残る煙がユラユラ揺れて、火薬の匂いを充満させた。

くらりとくるその瞬間が好きだ。スコープを覗くそのタレ目が好きだ。隊の人達と戯れている時に見せる気の緩んだ表情が好きだ。引き金に伸ばされる骨ばった指先だとか、狙撃手の癖にグラスホッパーで空中を翔ける背中だとか、その時にふと交わる視線だとか、それに慌てて逸らしてしまうけど、それも好きな一瞬だ。

瞳を閉じれば、瞼の裏でふわりと微笑む彼と視線がかち合う。それに紅潮しながらも自然の動作で閉じていた瞼を開き、視線を静かに逸らす。自身の腕に収まるイーグレットのスコープを覗けば標的が見えた。予測出来ない動きで、右に左に、上に下に、挙句に後ろに前にと俊敏に動く丸い標的。大丈夫。一言、心の中で唱えれば、不思議と一人でに騒いでいた心臓が水平線のように鎮まった。大丈夫。もう一度唱える。ひとつ息を吐けば、それが合図だった。引き金に伸ばされた指が一瞬震え、力強く引かれる。

途端、丸い標的に一つの空洞が開いた。

「なぁ隠岐くんや」

訓練が終わり、出来の良し悪しの談笑でがやがや騒がしい訓練ルームの端っこ。設置された長椅子に腰掛け一息ついていると、ふと隣に影が差した。確認しなくても分かる、影の正体。隠岐くんは私の問い掛けに「なん?」と返しながら、ちゅーとパックのジュースを飲んでいる。パックを持っていない方の手には私が持ってきたカフェオレがあった。

「いきなり好きって言ったらどうする」
「マジかってなるな」
「…まぁそだね。あ、カフェオレ頂戴」
「んー」
「好きなんですけど」
「俺もやで」
「カ、カフェオレがだし」
「残念、俺は苗字さんがやけどな」

一気に赤くなる。ニヤリと笑う隠岐くんと紅潮したままの表情で視線がかち合う。自分から言っときながら、反撃を予想していなかった。なんたる不意打ちだ。冷えきったカフェオレと一緒に両手で熱くなった顔を覆うも熱は全く冷めそうに無い。隠しきれていない赤をそのままに、隠岐くんと同じ呟きが溢れた。

私はこの男が、全くもって敵わないほど、好きで好きで


「……マジかぁ」


堪らなく大好きなんだ。


16.8.15
トリオンだから火薬の匂いとかするのかしないのか疑問です。多分しないんだろうけど、まぁいいか。