「え、出したの?」

目の前で赤毛の友人が静かにこくり、頷いた。
たったそれだけの動作で血の気が引いていくようだった。ちょっと待って。え、本当に出したの?

「会ったの…?」
「あ、会ってない」
「それで出したの!?」

馬鹿じゃないの!?とついでに叫んでしまい、自分の声が思ったより大きくなっていたことを知る。咄嗟に口を両手で塞ぐが周りは私たちのことなんて眼中に無いかのようにいつも通りの喧騒の真っ只中で、注目を浴びていないことに安堵する。が、今問題なのはそんなことではない。

「それで、なんて書いたの」
「普通に好きです、ってだけ……」
「そ、それだけ?」
「う、うん」

身を乗り出すように聞いてくる私に赤毛の友人は目線をきょろきょろさせながらもなんとか返答していく。しどろもどろになっていく答えはなんとも曖昧で頼りない。ていうか、ヤル気あるのかこいつ。




赤毛の友人。仙石名前との出会いは突然だった。感動的なものだとかぎすぎすした衝突的なものだとかは一切無く、ごくごく普通に、突然出会った。

隣のクラスだったらしく、お互い何気なしに廊下に出ていたところで何故今まで会わなかったのかと不思議に思うほど呆気なく対面した。そして、私の方から声を掛けた。声を掛けた、と言うより名前を見つめたままフリーズしていた私が気になったのか、こてんと首を傾げつつ待っていてくれた名前におずおずと声を振り絞った、が正しいのだが。

「え、仙石?」「??はい、仙石ですが」「な、何してんの」「何、とは?」「ここ二年の教室だけど」「私、二年生なので」「それにそれ女子の制服なんじゃ」「私、女子ですが」「髪もいつの間にそんな伸ばして」「はぁ……中学を入ったぐらいから」「??仙石、だよね?」「??あの、どちら様ですか?」「え?」「え?」

と、こんな会話もあったものの、私たちはなんだかんだと打ち解けたのだ。




「はぁ〜〜〜何やってんのー」
「ご、ごめんねほのか。何か行動に移さなきゃとは思ってたんだけどいざ何かをしようと思ったら何も思い付かなくて」
「仙石介して接点持つとか」
「翔くんは絶対協力しない」
「偶然装って衝突とか」
「不自然すぎない?」
「書くにしても呼び出して一度対面しなきゃ!」
「は、恥ずかしすぎて絶対駄目になる!」
「ああ!もう!なんでそれが駄目でこんなワンテンポ通り越してこんな事が出来るの!?」


普通に好意を意中の相手に伝えるなど友達でも勇気がいるというのにこいつときたら!自分の事など棚に上げて、これからこの天然な友人の恋愛成就にどう協力していこうかと頭を抱えた、ある昼下がりの日差しの温かな日のこと。前途多難である。


18.4.3