え。

一瞬、見たものに対して足と一緒に思考ごと止まってしまった。いやいや当たり前なんだけど初めて見る光景に“ありえない”ものでも見たような、まるでホラー体験でもしてしまったような気分だ。

ざわざわといつも通り賑やかな商店街をその人は悠然と歩いていた。人目を引く黒々と靡く学ランも赤い腕章も今はなく、畏怖の対象として君臨している筈の彼だと、雲雀さんだと気付く者は誰一人としていないようだ。学ランではなければあの人でもあそこまで溶け込めるものなのか。

どうしよ……。

幸い気付いたのは私の方が先のようだし、見つかってしまう前に逃げてしまおうか。しかし何故私服に違和感なんか持たせてしまうのかあの人は。誰しも着るのが当たり前の普段着を、足を止めてしまうほどの驚異に変えてしまう雲雀さんに対して私は恐怖します。なんなんだろうあの人もうよく分からん。それでも写真の一枚でも撮っておきたいのが正直な気持ちである。ああ、どうし

「え……」
「何」
「え!?」

え!とまた意味不明な単文じゃない単文が口から漏れる。正確には一文字である。確かに遠目から見掛けていたよ。そして今し方逃亡の計画を練っていた原因が何故か、何故か!今まさに目の前に立っている。あっれぇー?やっぱりホラー?

「君さっきから不審な動きしてたよ」

じとー、と日頃の比ではないほどのジト目を食らいつつ、私は沸き上がる恐怖と興味と興奮にがんじがらめにあっていた。逃げたいがこの確実に普段見れない雲雀さんの私服姿など激レアだ。超超超激レアだ。一旦引いていった煩悩が熱を出してきてしまった。しかし相手はあの雲雀さんである。でもでも風紀委員あたりなら高値で買ってくれそう……。ってだから!

「あああの、雲雀さん!奇遇ですねこんなところで会うだなんて。……と、ところで差し支えなければお写真の十枚か二十枚ほど撮らせて貰えませぐへっ!」
「気持ち悪い近づくな」

衝動とは恐ろしいものだ。自分でも知らず知らず命棄てた覚悟の言葉がつらつらと雲雀さん相手に飛び出てきた。そして女の子相手でも容赦なく振りかざしてくるトンファー。流石です雲雀さん。そしてめっちゃ痛い。

若干涙目になりつつ、構えていた私の携帯が軽快な音を奏でた。ニヤリと笑う私と、ピクリと反応を見せた雲雀さん。


この後めちゃくちゃ追いかけ回された。


17.7.16