眩しいと目を瞑った、夏の日のことだ。

西日が射し込む部屋は昼間と変わらぬ明るさで、どんどん日の入りが遅くなるこの頃は時間感覚が狂ってくる。もう六時を回ったかと思えば一周回って既に短い針は7を指していた。

「今日の当番って名前ちゃんだっけ?」
「え"!?そ、そーでしたっけぇ?」

本部と違ってアットホームな此処、玉狛支部では揺ったりとした時間が流れていた。長時間滞在する人数が少ないと言うのもあるが各々が自分の家に居るのと大差ない事柄を好きにやりながら過ごしているというのが一番の理由だろう。勿論訓練などもするが、現時点でこの場にいるのは五歳児と眼鏡オタクというふわふわメンバーだけである。あと自分。

そんな中で突然振られた使命は今日の晩御飯だった。いっけね、そいうえば私だったわ。すっかり忘れていた事態から引き吊り気味の口元を読んでいた漫画本で隠す。もう一度言おう。もう既に7時なのだ。この時間まで忘れていたとは何作れば残りのメンバーが帰ってくるまでに作り上げられるだろうか。

「何故汗を流す」
「私にはレイジさん並のハイスペックを持ちあせていないから」
「名前ちゃん名前ちゃん、何も其処まで求めていないから」
「何処まで求めてるんですか!?」


そこでダン!と壊れんばかりの勢いで扉が開かれ、玉狛支部一のお転婆娘が帰ってきた。言い放たれた言葉は今の私にとって最高に救いの言葉でした。


「ねぇ!今日お祭りだって!屋台も出てたんだけど行っていいかしら!!?」
「わぁ!私行きたいな!」


視界の端でやれやれと肩を竦めるふわふわメンバーなど私は知らないからな。




ぞろぞろと浮き足立つ足並みを揃えて、人工的に作られた光の集落とごった返す人々の波と熱の中を歩いていた。その後帰ってきた、三雲くん空閑くん千佳ちゃんレイジさんとりまるくんも交え、夏の風物詩だと言わんばかりに着物なんかも取り出してちゃっかり着ている。

「ふむ、これが祭りか」
「空閑は祭り初めてなのか?」
「そんな暇はなかったからな」
「じゃあ今日は祭りデビューだ!」

「こっちさ来いや」と空閑の手を引けば慌てたように三雲くんがついて来た。「あまり遠くに行くなよ」と声を張り上げるレイジさんはちゃっかり千佳ちゃんの護衛任務についているようだった。陽太郎が栞にチョコバナナを買って貰っている光景を尻目に「はーい」と返事をしておいた。

「祭りといったらたこ焼きに焼きそばだろ?あ、射的もいいな、後は金魚掬いに、空閑くんやってみる?」
「色々あるんだな」

つらつらと目に入る屋台や定番を挙げていく。指を折りながら挙げていく食べ物の匂いが腹の虫を鳴らすも周りの喧騒に掻き消されていった。が、隣の二人には聞こえていたらしく。ぐーーと盛大に鳴った数秒後に「たこ焼きでいいですか」とできる後輩くんがごほんと一つ咳払いしをして離れていってしまった。

「三雲くんイイコだな」
「オサムは面倒見がいいからな」
「年上として情けない」
「そう気にするな」
「おうよ」

漂うは美味しそうな匂いだけではなく、祭り特有の空気だ。星一つ見えない闇夜だというのに其処だけがキラキラと光る、日常の一部からかけ放たれた浮世絵のような不思議。


ごった返す人の波から離れて、三雲くんが買ってきてくれたたこ焼きを頬張る。あつあつで美味しい味が口内に広がる。「今度はお姉さんが買ってきてあげるよ何が言い?」なんておどけて聞けば「いえそんな」と謙虚な三雲くんと「では隊長我輩は」なんてノリに乗ってくれる空閑くんと談笑する。途中とりまるくんとも合流したり、他のボーダー隊員とも遭遇したりと時間が流れる。


揺ったり、揺ったりと。



「また来たいな」


ふと溢された、白い君の呟きは誰の元にも点されず、闇の中に消えていく。深くなった闇の世界に光が瞬いた。


太陽は上っていない。上ったのは一瞬の花だった。


17.8.6