今は昔ほど、一緒に居る時間は減ってしまったと思う。ふと見えた、図書室の窓から差し込む陽の光。その下で彼は馴染みのある兄貴分の人に引っ張られていた。久しぶりに見る君の姿に、背の大きさを感じた。

――元気そう

家が近所で、親同士が同級生だとかで、だからいつも気づけば隣に居た。居てくれた。だけどたったのそれだけだった。それだけで、特別ではなかったことに中学生の頃思い知らされた。それと同時に気づかされた自分の感情。

もう、その隣に居るだけじゃ満足なんて出来なくなっていたことに、私は私自身に呆れたんだ。この欲張り。きっといつか、彼は私の気持ちに気づき始めるだろう。そしたらどうなると思う?彼もまた呆れちゃう?それとも鬱陶しいとか言って、最悪嫌われてしまうかも知れない。私はその想定の"かも"ですら恐怖だった。だから、その前に距離をとった。彼もまた、自然と私から距離を置くようになった。その理由は解らないけど。今はこうして遠巻きに彼を見かける程度で、こんな風になったのは私が原因だって言うのに見かける度に思うんだ。

「あ、おい名前だっぺ?おーい名前ー!」

デンの声が外で響き渡るのを感じた。相変わらず大きな声に慌てて何もなかったかのように振る舞おうとするけど、君の表情をみたらそんなことできなかった。気づいていたのかと、一瞬息をするのを忘れた。

「名前ー!委員だっぺか?ガンばれよー」

わしゃわしゃと子犬のように手を振り回すデン。視界の端で確認しながらも、私の焦点は君を捉え続ける。いつぶりだろうか、君に真っ正面からちゃんと向き合うのは。久し振り過ぎてやっぱりダメだ。ほら、溢れてきちゃう。


寂しいって感情が…。


離れた場所からでもデンは矢継ぎ早に話す。こちらに来れば良かったものの、時間もそう無かったみたいだし、外に居る彼らと二階の図書室に居る私の距離は案外近いみたいだった。だから移動するよりも別に指して問題はなかったのだ。そして、そんな時間の終わりを告げたのはやはり昼休み終了を知らせるチャイムで、パタパタといくつもの足跡が途端にあちらこちらで聞こえてくる。

「やばいべ!イース、俺らも」
「さき行ってて」
「え、でんもよ」
「いいから」

言われるがまま、デンは彼に一言遅くならないよう言ってから立ち去っていった。私も急がなければならなかったのだけれど、どういうわけか身体が動かない。目も彼を捉えたまま。もう一つのチャイムの音。イースは何も言わず校舎の中へと姿を消した。一体何がしたかったのか、到底私の頭では理解なんて出来なくて、それでもちょっとした予感はあった。昔から不思議なところがあった彼。それでも、このなんとも言えない予感に私は素直に従ってきたんだ。

きっと、来る。って。

脈打つ心臓が爆発してしまったんじゃないかってぐらい熱い。どきどきと火照る身体のこの音は外側にまで漏れていそうで、彼の来るこの数分がどうしようもなく果てしない時間に思えて苦しかった。がらがらと戸が開く音が耳に届く。何も言わない。だって分かってるから、彼だって。

「イー、ス」

最後に、いつこの名を口にしたんだろう。

振り向いた先のイースはいつも通りの無表情を貫いていて、何を話せばいいのかからない私は視線をさ迷わせた。久し振りだね?元気にしてた?ありきたりな言葉ばかりが頭の中に並ぶ。違う。こんなことを言いたいんじゃない。

「久し振り」

先に言葉にしたのはイースの方だった。

「イースも"久し振りだね""元気にしてた?"」
「まぁまぁかな。皆一緒だったし」
「そっか、それもそうだよね」
「名前は?」
「私もまぁまぁ、かな」
「ふぅん」

そんな、曖昧でありきたりな会話。もう授業には間に合わないだろうから、気兼ねなんて必要ない。私とイースは二人して隅っこの本棚の一角におさまっていた。埃だとか気にせず、二人並んで腰を下ろす。なんとなく落ち着いた。

「ほんと、久し振りに名前を見た」
「…」
「話すのも久し振り」
「…」
「昔は結構一緒に居たよね」
「…」
「虫とかまだ嫌い?」
「…嫌い」
「寒いのとか暑いのとか」
「…無理」
「じゃぁさ、」

時間よ止まれ。止まってしまえ。心からそう願わずには入られなかった。彼の次の問いが怖かった。予感、想定。頭の中で警告音が鳴り響く。その問いに私は一体なんて返事をする?その返事でまた壊れてしまうの?いいや、違うか。壊れるんじゃない。この臆病者が勝手に壊してしまうのよ。これ以上のことなんて決して望まないから、この時間が少しでも長く続くようお願いします。ねぇ、神様。彼は続ける。耳をありったけの力で塞いだとしてもそんなの意味なんてなかった。そして、

心地よかった空気が


「僕は?」


その瞬間、本当に止まってしまった。


14.5.18
遅くなってしまってすみません人( ̄ω ̄;)アンケでコメントを貰っていたクーデレ(仮)のアイス君です。これクーデレじゃねぇよとか思いつつ書いてしまいました。えへ(笑)