つらつらと、真っさらなお空から落ちてくる雪を目で追った。寂しそうなそこには何も無いのに不思議だね。

そっと目を閉じれば、そんな言葉が聞こえてきそうです。




大きな大きな雪国の隣で目を覚ました私を見つけたのは東の島国さんだったらしい。その人が教えてくれた。色んな事を教えてくれた。自分の事、世界の事、その世界にいる同じような人達の事。私の名前も付けてくれたのもその人だった。だから私は周りの人達とはちょっと変わった名前になってしまったけれど、ううん、全然気にしてなんかない。とても気に入っているの。その名前を。


「名前ちゃーん」


おっとりとした知った声が聞こえて、振り向けば微かに吹く寒い風の中に紛れて、お花の匂い。ふわりふわり、揺れる髪を押さえつけながら真っさらな世界の中見えた大きな影は隣国の雪国さんだった。

「イヴァンさん、それ」

それ、と指差して私は驚いていた。だって、イヴァンさんの腕の中には、イヴァンさんですら抱えきれない程の沢山の花がその巨体を埋め尽くさん限りあったから。それに、

「青い、バラ?」

美しいけれど、珍しい、花。

「うん、今日は特別な日だから頑張ったんだ」
「ぇ?何かありましたっけ?」
「まぁね。君にとっては何でもないような事だけど、僕にとっては特別、な日なんだ」

ふふ、と懐かしむような嬉しそうな笑みを零しイヴァンさんは「はい」、と私に青いバラの花束を渡してくる。咄嗟に受け取ろうと手を伸ばすも"ぁ"、と思った時には遅く、それはイヴァンさんですら溢してしまいそうな程あったのだから私なんかが持ちきれる訳もなく、勿論のこと簡単に取り溢してしまいパラパラと真っさらな地面にこれまた溶け込んでしまいそうな青が落ちてゆく。

「あ!ごめんね名前ちゃん!」

余程嬉しかったことなのだろう。イヴァンさんは事が起きるまで微動だにできなかったようで、そこで漸く慌てたようにあたふたと落ちきってしまったバラを掻き集めだす。

それは白より透明な青。

「きれい、ですよね」

ちゃんとそこにあるのに雪に溶けてしまいそうで、一枚、散った花弁を掌の上に置いてみる。

「青いバラの花言葉の中にね、"奇跡"ってあるんだ」

目が離せないでいた私に静かに語りかけてくるイヴァンさんの落ちついた声。真っさらな世界の中、そんな貴方も真っ白で、この青と一緒のようでパッとそちらを見やる。視線を上げた先には、とても温かな笑みを零す貴方。

「奇跡、みたいだったから。君がここに生まれたことも、今居てくれることも。だからこれを君にあげたくなって」

柄にもない事だけど受け取ってくれる?そう、何かに怯えた貴方は、抱え直した青いバラを今一度私に渡す。

「そう、言えば」

受け取りながら、こんな事が前にもあった事を思い出す。微かに漂うお花の匂い。


"ぼくとおともだちになってくれる?"


もう大分昔のことだったから忘れてしまっていたけど、そう声を掛けてきたのは今よりもずっと小さくて、でも今と同じような真っ白な男の子だった。ふるふる、震える手には一輪の名も知らない花。

「100年だよ、名前ちゃんが僕と友達になってくれて今日で丁度100年目の記念日なんだ」

覚えてなかったよね、とマフラーに埋もれる顔が赤くなっているのがほんの少しだけ見えた。そうだね、もうそんなに経つんだね。

「イヴァンさん、」

今思い出したよ。だから泣かないで。

ざく、と雪の軋む音と一緒に前に進む。鼻の先まで赤くなる貴方に手を伸ばせばふわりと風が吹いて、片腕に抱える青いバラの香りを何処までも運んでいく。ふわり、ふわり。甘い甘い香り。はらはらと、舞っていく青。私はそんな光景にも目もくれず、子供のように静かに涙を溜める貴方の身体を抱きとめた。


「ありがとう、ございます」


静寂の中に溶けていった微笑み
侵略しにきた貴方と同盟を交わしましたね


15.11.16
あみだに嵌ってます。第一弾です!
どなどなどーななーな、とあみだしましたらイヴァンで花束だったので短いですが書けました!

菊さんに拾われるロシアの隣国(小さな国)→イヴァンさんに狙われる→菊さんに必死に守られる→領土にならなくてもいいから友達になってで、もうあれから100年だね、みたいな。菊さん出せなかったのは残念ですすみません(_ _;)