とくんと優しく心臓が動く。

今死んだら幸せなまま死ねるのかな。

そんな馬鹿な話をできる勇気はこれっぽっちもないのだけれど。

『井浦くん、』

「んー?」

『このバンドいいねえ』

二人でイヤホンを片方ずつ付ける日が来るなんて思ってもいなかった。

ふわふわとこれまた優しく笑う隣の名前に俺も笑いかける。

「よかったら貸そうか?」

『え、いいの?』

頷けばまた一層笑った。

よく笑う子だなあと流れる音楽なんてろくに聞きもせずに思う。

さあ帰ろうか、彼女が言う。

気づけばもう外は暗いし音楽も止まっていた。

イヤホンを名残惜しくも取り外してカバンにしまう。

「送って行くよー」

『…でも井浦くんの彼女に悪いよー』

まあ、こんな勘違いをされているわけで。

いないといっても井浦くんかっこいいし優しいからすぐできるよ!と言われる始末。

いないんだけどなあ。

嬉しさと混じってなんだか複雑な心境。

俺の数歩先を歩く#ame2#が少し遠く感じて好きと言ってしまいそうになったけれど喉まできて飲み込んだ。

伸ばしかけた手は下ろそう。

『…でも彼女さんには悪いけと、送ってもらいたいなあ』

…ああもう。

好きなんてもんじゃない。

大好きでも言い表せないくらい大好きだ。

数秒前の決意を蹴っ飛ばして取り敢えず手を握った。

驚く顔ですら、真っ赤になった顔ですら、好きを募らせるものになってしまう。


花葬