「ウラヌスは、人魚姫の話、知ってる?」

その言葉に怪訝なん視線を寄越す。

「何が言いたいか、分からない。」

彼女は俺の隣を歩き、ふふふっと笑った。
俺はそんな彼女を気にせず、進みながら

「知らない。」
「・・・・・・人魚姫ってのはね。」

聞いていないのに、彼女は簡単な説明をし始める。

「溺れた王子様を助けた人魚姫は王子様に恋をするの。 美しい声と引き換えに、2本の足を手に入れて、 王子様の傍に居るんだけど、結ばれなければ、泡 になるの。でも、王子は助けてもらったのは隣国 の姫様だと勘違いして、その人と結婚するの。 人魚姫の姉たちが魔法のナイフを用意して、この ナイフで王子を殺せば、人魚に戻れる、だから王 子を殺して、海に戻ってきて、って。でも、人魚 姫は王子を殺さず、泡になる話。」



  それは両思いでも変わらない悲劇


「話に寄っては、人魚姫が幸せになる話もあるんだけど、あたしはこっちの方が好きかな。」
「・・・・好き?」

すごく、怪訝な表情をして、ウラヌスはやっとこちらを見た。

「え、うん。」
「・・・・・・普通は幸せになる話を好むものだと思った。」
「普通だったら、こんな所には居ないよ。」

普通なら、世界の終わりを望まないし、人も殺さないだろう。

「・・・・それもそうだな。」

ウラヌスは納得したように視線を前に戻す。
ああ、もう少しこの話しを伸ばすべきだったかな、なんて思いつつ。

「でもさ、好きな人の終わりを選ばず、自己犠牲に尽きる。それは、一種の美談だと思うのよね。ご都合主義のハッピーエンドより好き。」

終わることは一種の幸せでもあるかもしれないし。 小さくそう呟くと

「なら、あんたもそうありたいと?」
「好きであることと、憧れはまた違うよ。」
「・・・・・・名前。」

ウラヌスは立ち止り、あたしを見て。

「なら、お前はどうしたい。」

どう、したいか。
そう問いかけられていると理解するのに、数秒かかり、その答えを導くのに数十秒要した。

「ウラヌスが望むままにしてほしい・・・・・かな?」

君の幸せを祈っているよ、と肩をすくめ、そう答 えると、ちっと舌打ちをされた。本心での答えだから、何に彼が苛立ったのか、何が悪かったのか。

「なら、俺がお前を殺しても、大人しく殺されると?」

こちらを睨むように見つめながら、ウラヌスが問いかけてきた。
あたしは、少し悩んで。

「いや、抵抗はするよ?だって、その方がウラヌスは嬉しいでしょ?」
「・・・・・・・・・。」

その目は、本当に分かっていない、と言いたげで。

「ああ、本当にあんたはその人魚姫とやらによく似ている。」
「え?そう?あたしは「自分の中の定義にしたがって、何もかも決めつけて。」

その声は本当に苛立っている様子で。

「なぜ、自分が死ぬべきだと勝手に決め付ける。なぜ・・・・想いも伝えず・・・・・!!!」

さも、自分が王子で、あたしは人魚姫かの様に。 自分だって、好きだったのに、何故それを選んだかと問う様に。
普段、クールな彼とは似ても似つかない印象すら受ける。

「ねぇ、ウラヌス。」
「・・・・・・なんだ。」

あたしは彼の頬を両手で挟む。どこか、熱い、彼に微笑みかけて。

「それで、あたしがあなたに選ばれて喜ぶと?」
「・・・・・・・・・。」
「あなたとあたし、どちらか選ばないといけない状況で、あなたを殺せるあたしであると?」
「思えないな。」

あたしを抱き寄せながら、諦めたようにウラヌスは目を閉じた。

「ああ、そうだ、あんたはそういう女だ。」

だが、それでも、好きな女性が塵や泡になるのを見て、満足する男は居ないだろう。
それすらも、分かっていて、あんたは選ぶんだろう?

end