絵本を真剣に読む彼女は。
ああ、別に悪いわけじゃないんだけど。
・・・・・俺だってゲームしてるし。
でも、俺は絵本にすら嫉妬してるのに、名前はそ んな様子もなくて。
悪いわけじゃないんだけど、少し、嫌だなって。

「・・・・・何読んでるの?」
「赤ずきんちゃんだよ。読み聞かせでもしてあげようか。」

いたずらっぽい笑みを浮かべて、そんなこと言うから。

「要らない。」
「あら。」
「・・・・・知ってるし。」


  赤ずきんが恋する乙女の可能性


「そりゃまぁそうだ。」

研磨の返事に頷く。

「狼ってさ、妙に赤ずきんちゃんに執着してるよねぇ。」

そのために先回りしてまで、おばあさんを食べたり、変装したり、

「ん、そうだね。」

研磨がこちらに寄ってきた。

「でも・・・・何となくわかるかも。 」
「狼の気持ちが?やっぱり、男は狼?」
「っぷ、何それ・・・・・。」

研磨が少し笑って・・・・・そうじゃなくて、と言って、あたしを抱き寄せて

「食べたいくらいに執着するのも分かるって。」
「ふーん?」
「名前。」
「ん?」

研磨があたしの手を握りしめ、かぷり、とあたしの腕を甘噛みした。

「好き・・・だよ。」
「あたしも好きだよ。」

ふふふっと笑う。例えば、好きな人にそこまで執着されるのはきっと嬉しい。
まぁ、生命の危機に瀕しているのなら、別だけど。

「ね、名前。」

あたしにすり寄ってくる研磨は本当に猫っぽい。けど。
あたしの腕を、首筋を、手を甘噛みし、こちらを見る、その目はどこか、狼じみていた。
もしも、赤ずきんちゃんで猟師さんが出てこなかったら、こんな感じなのだろうか、なんて思 う。

「研磨。」
「ん?」
「食べるなら残さず食べてね。」
「・・・・・恥ずかしいね。」
「うん、そうだね。」

自分で言っておきながら、自分でも照れてしまう。

「でもまぁ。」

研磨がそっぽ向いて、小さな声で

「食べるなら、全部食べるから安心して。」
「・・・・うん。」
「・・・・・なんで、こう恥ずかしいことが二人きりだと言えちゃうんだろ。」
「あたしも不思議。」

俺は名前を抱き寄せて、キスをした。

「まぁ、あれだよ。」
「なに。」
「お互い好きだから、ちょっと甘い言葉くらい囁きたくなるんだろうね。」


End