制服姿に身を包んでいられる、高校生という名の肩書の時間が残り僅か一年を切ったその年。私は相変わらず学校という場所に居たし、授業やら帰りのSHRやらが終わりを告げる鐘が鳴った途端に其処から飛び出すのなんて日常風景の一部にしかすぎず、向かうは当たり前のようにボーダー本部基地そこである。
同じボーダー所属の友人達とわいわいがやがや騒がしくいつも通りの道を歩く。手には学生鞄の他に食べかけのお菓子の袋とかその他諸々色んな物を抱え、学校であった出来事やこれから基地で何をするとか何をしようとか、それこそ有り触れた話題はつきず本部へと続く道を歩きながら盛り上がる。そんな些細なヒトコマの合間に割って入って来た来訪者に歩みを進めていた足が止まった。先程までの談笑は何処へやら、友人の一人がごめんなさいと一度断りを挿れると鳴っていた着信音を切り発信源の元を手に耳に当てはめた。所属する隊の、隊長からの呼び出しらしい。談笑もそこそこに本部につくなり友人、望はさっさと自隊の作戦室へと行ってしまった。他の友人達も以下略でじゃ、後でと散り散りに別れていく。つまらない。非常につまらない。取り敢えずと一人取り残され所属している隊もない私はとぼとぼランク戦へと向かう。
こういう時、隊っていいなぁと思う。友達だとか、仲間だとか、そう言うのとは違うくて。確かに一緒に隊を組んでいなくたってボーダーとしての仲間意識はある。だが、『隊』としての仲間意識は別格だと、自隊で行動を共にしている時の友人達を見ているとそう思える。しかし、いざうちに来ないかと誘いを受けたとしても私はその誘いを考えることもせず突っぱねてしまうだろう。相性だとかの前にそもそも誰かの下につくという事自体が考えられないのだ。
例えば、友人である望の隊長、東さんならどうだろう?多分東さんなら文句無しで付いて行くと思う。後あげるなら師匠だろうか。他の人も考えてみるが脳内会議にかけられるよりも先に無理だなと即決結論付けてしまうあたり私は私というものをよくわかっていると思う。しかし残念なことに東さんのとこは定員オーバーだし師匠に至っては幹部なので隊を組むということ自体無理な話だ。前に幼馴染で腐れ縁の慶に勧誘されたことがあるが一瞬の躊躇いもなく断った。絶対無理。人物が人物というのもあるがロングコートという隊服も顔を引き攣らせた要因になったのはきっとその場に居合わせた東さんと風間さん、もう一人の幼馴染、蓮しか知らないだろう。
「無理なら自分の隊を作ったらどうだ?」
そんな考えなかったです、師匠。
延々と続くような同じ景色の廊下で、これまたばったり、久々に会った師匠の相も変わらない凛々しい姿にクラっとしながらもなんとかその場に踏みとどまった私は、今度は師匠のなんて事無いように発せられた言葉という名の鈍器で頭部を強打した。いや、強打させられた。
羨ましがるばかりいつの間にやら視野が狭まっていたらしい。隊を組むという思考から私の中で『誰かの下につく』という考えが定着してしまい、自分が上に立つという事をうっかりにも落っことしてしまっていた。なんてことだ自分。指図されるのが嫌なら自分が指図する側につけばいいのだ。誰もが文句言えない立場になればいいのだ。そうだなんで気づかなかった。
「師匠…」
「ん?」
「私、自隊作ります!」
自分でも単純だと思う。
☆ ☆ ☆
「お」
普段ならば見ない姿に、不思議な光景を目撃したと驚いた。あの噂は強ち間違いではないようだ。
数日前から流れている噂の主な発信源は、A級隊員であり今現在噂の渦中にいる人物の腐れ縁でもある太刀川だ。長らくフリーだった牡丹道紅香がなんの前触れもなく隊を立ち上げる、というそんな噂。誰かが隊を立ち上げる、なんて話はボーダーの中じゃそんなに珍しい話ではない筈なのだが『あの牡丹道妹が』という訳で早くも流れる噂に噂が嵩張り尾ひれが付きまくっている。
――― 失恋してヤケを起こしている、だとか。
――― 太刀川と賭けをして負けたから、だとか。
――― 忍田派信者を増やしにきた、だとか。
有る事無い事飛び交う噂話を本人は知らない。普段ならばたたっ斬るカモの首根っこ引っ掴んでブースに放りこんだ後ランク戦ランク戦。なんて語尾にハートだか音符だか付きそうなほど楽しそうに仮想住宅街を飛び回る彼女の姿は今は何処にもない。あるのは真剣にランク戦をする隊員達が映るモニターをガン見している、違和感しか与えない光景だけだ。
隊を立ち上げるなど目星どころかきっとなんの考えもない様は彼女らしい、とそっと溜息が零れた。
「よ、紅香」
声を掛けたことで集中していた視線が逸れて、彼女の瞳が俺を捉える。一瞬間を置いて「東さん、」と驚いたように目を見開くものだからほんの少しだけ笑いが零れそうだ。手をあげれば軽く会釈され、どうしたんですかとキョトンと首を傾げられた。
「こっち来てるなんて珍しいですね」
「まぁな。ちょっと事の真意を確かめに」
「へ?真意??」
「いや、こっちの話だ気にすんな」
なんですかーもぉー、と唇を尖らせる後輩を尻目に笑み。さて要件を言ってしまおうかどうか迷うも、目の前の後輩は噂話の類というものに疎い方である為既に周知の事実であっても未だ知らないであろう事が伺い知れる。チャンスは平等に。溜息を吐きつつとある話を切り出した。お前は絶対に自分から聞きには来ないからな。全く世話が焼ける。
「隊を作るんだってな」
「ああ、もう聞いたんですか」
「大分出回ってるぞ?太刀川との賭けに負けたとか、忍田さんの信者を増やすだとか」
「賭け!?私そんなのしてませんよ!!」
「ハハ、どうせお前のことだから突発的なアレだろ」
「うっ」
「そんな世話の焼ける後輩にとっておきの話だ。後は早いもの順だから上手く口説いてこいよ」
「え…?」
口説く?と意味が分からないと言葉を反復し、頭にハテナを浮かべる紅香に俺の口元はにんまり弧を描いた。
16.5.28
18歳紅香ちゃんのキャラが実は定まっていない件について。早く成人せねば。
16.6.14 一部修正