side.堀

「仙石さんに弄ばれた!」

ばんっ!と煩く生徒会室に入ってきた緑に一同がなんだなんだと視線を集めた。煩い。マジで煩い井浦。がぶり、宮村のパンを噛じりながら眺めた。

「なんのこと」
「なにこの人しらばっくれて!酷い!私のことは遊びだったのね!」
「君のような女(ヒト)と遊んだ覚えはない」
「いやあああああ!!!」
「浦子落ち着け」




お昼休み。「何かしらね」「何騒いでんのかしらね」と茶飲み友達よろしく状態でのほほんと河野さんや綾崎さんとかるーく談笑しながら、突如始まった昼ドラ劇場を鑑賞していた。いつもの事ながら男子達の茶番は訳が分からない。あ、井浦はいつも訳が分からなかったか。

「で、何?」

井浦が一頻(ヒトシキ)り騒いで落ち着いたところで、突然始まった昼ドラはそんな仙石の問いで幕を閉じたことを知らせる。が、ぜぇーはぁーと意味のない呼吸を繰り返しす井浦がまたも騒ぎだした。この緑は静かにするということがコンマ数秒も出来ないのか。ほとほと呆れながら紙パックをじゅーと搾り上げた。うん、美味しい。

「まだ知らばっくれる気ぃ!??」
「だから何なんだよ。本当に心当たりが無いんだけど………」

井浦くん怖い。小さく呟くくらい仙石がかなり引いたところで、これだよ!これぇぇ!!とぶんぶん振りながら井浦が掲げてきたのはさっきから持っていた手紙らしき紙。いや淡いピンクの封筒?

「何それ」
「ラブレター、らしい」


!!!!??


「何よそれ!本物!??」
「え!?ついに井浦くん貰えたの!!?」
「やったじゃん!ヒューヒュー!!」
「ヒューヒュー!!」
「秀おめでとう!ヒューヒュー!!」
「ヒューヒューって!やめて!傷を抉らないで!!」

聞いてみたところなんとそれはラブレターらしく、この場に居るメンバーの野次馬根性に火を付けた。井浦がラブレターを貰ったという事実に皆して固まることほんの数秒後。一気に沸き立つ面々。上から私、綾崎さん、ユキ、宮村、透、そして冷静に疑問を浮かべる河野さん。

渋るように吐いた答えにほんのちょっとの違和感を覚えるも、驚きすぎて開いた口が塞がらない。そこまで考える余裕はどこにもなかった。井浦が持ってるってことは井浦宛であっているのよね。なんて、そんな分かりきっていることを一人頭の中で再確認するぐらいなかった。

「良かったじゃない。でもそれが何か仙石くんと関係あるの?」

そうだ。いつもの井浦なら、周りが引くぐらい喧しく騒ぎ立てるか、うざがられるぐらい自慢してくるかのどっちかだ。そう冷静になった頭で考えてみると井浦の様子が可笑しい、ような気が。

「いや俺だって喜びたいよ!?でもこれ仙石さんからみたいだし、ちょっと………」


!!??


まさかの爆弾投下に全員の訝しげな視線が仙石に移った。そして、それにたじろぐ仙石。いや、レッドチキン。

「はぁぁあああ!?変な言いがかりをばらまかないで欲しい!!」
「だって!ほら!ほらここに!しっかりと仙石って書いてあるじゃん!仙石名前って!」
「は?ナマエ?」
「女の子の名前まで使っちゃって!」
「まぁまぁ落ち着けって」
「宮村みたいな字まで書いて!」
「井浦くんそれどういう意味!?」

なんなのかね!とこれまた騒ぎ出した緑はレッドチキンの異変に気づかないようだ。ナマエ?ともう一度小さな呟きでその名前を漏らす仙石の眉間が凄いことになっている。あいつどんどん仏頂面が酷いことになってってるけど大丈夫かよ。てかナマエって、もしかしてあの名前ちゃん?のことなのかしら。

小さい頃に何度かしか会ったことはないけど確か一つ下だったと記憶している、仙石と同様小さな赤髪の女の子を思い出す。最後に会ったのは中学に上がる前だったかな。夏休みで、その日は祭があるとかではしゃぐ名前ちゃんと一緒に嫌がる仙石を引っ付かんで行ったっけ。そっか、普通に考えて名前ちゃんももう高二かぁ。てか井浦が言うように手紙に書かれてある名前のせんごくナマエがもし仮に仙石名前ちゃんなら、名前ちゃんは高校は片桐にしてたの?仙石からはそんなこと一言も聞いていないんだけど?ええ?どうなってんの?ね?仙石ぅ。

「(ビクウウゥゥゥ!!!!)ヒッ!なんだ!悪寒が!」
「どうかしたの会長。凄い汗だけど……」

「仙石くん!正直に言って!レミのことはカモフラージュだったの!?」「え、仙石さんの本命って俺だったの」「んな訳あるか!」「え、じゃぁ井浦くんがカモフラージュ?」「だからなんでそうなるの!?」「正直に言ってって言ってるのに……」「俺は何時でも正直だよ!」「いや、お前の半分は嘘だろ」

さっきからそんな馬鹿丸出しの会話が繰り広げられていたが(河野さんが呆れていた)、突然途中で中途半端に途切れさせ辺りを怯えたようにきゃろきょろしだす仙石。あらイヤだ。井浦の煩くて纏まらない説明のせいで私まで色々とごちゃごちゃ考えちゃってつい漏れちゃったか。殺気的な何かも一緒に。



まぁ、取り敢えず仙石よ。

「名前の字かどうか見てやる!その手紙を寄越せ!」
「うわあああ!仙石さんが乱暴してくる!」

お前は一旦落ち着け。


数分間の赤と緑によるもみくちゃの末、「いいから、井浦くん、破んないからその手紙、ちょっと貸して」と二人して息乱れている状態だったがさっきよりか大分落ち着いた対応を見せた。が、心なしか若干低い声だったけど。ぎゃーぎゃーといつもの倍騒がしさに拍車がかかり、主に騒がしい井浦と綾崎さんを落ち着かせることが出来ないと悟ったのか半ば無理矢理、井浦からもぎ取った手紙を走り読みしている。どんどん険しい顔つきになってきているのをその他の面々と一緒にはらはらしながら見つめる。そして、

「貴様なんぞに名前はやらんぞ!」
「仙石さん、今友達に貴様って言った?」

手紙がぐしゃぐしゃになった。


18.4.3