黒歴史に赤の付箋


「あ!Kだ!望、ダブルKが来たどうしよ!」
「あら、本当だわ」

「……なんスか、それ」

元隊室を出て直ぐの、真っ直ぐな廊下の突き当りの角を曲がったところで、ばったりと鉢合わせする女先輩の二人組。よく見る組み合わせなので其処には差して驚きはしないながらも、その会話に疑問符が飛ぶ。なんだダブルKって。

ヤッホーと大きく手をぶんぶん振る赤髪の先輩とその隣で「こんにちは、烏丸君」とお淑やかに挨拶する色素の薄い茶髪の先輩。対象的な二人に「こンちわ」と此方も短く会釈する。今しがた来訪した二宮さんを思い浮かべ、二宮さんが来たなら加古さんも来るだろうな、とは大体予想は出来ていたが加古の隣で「今隊室居たの?姐さん居る?」と質問してきている赤髪の先輩、牡丹道さんまで来るとは思わなかった。

「ダブルKって何スか」

姐さんは居るのか居ないのかとまだ聞いてくる牡丹道さんに、出会い頭に来た!と言われた言葉をぶつけてみる。それにきょとんと間をたっぷり三秒程開け、たかと思えば今度はふっふっふと笑い出した。なんだ。

「何言ってんの。烏丸(K)京介(K)でしょうが!」

とのこと。胸をはって、どやぁと何を自信満々に言っているのか分からない牡丹道さんから、そっと隣で微笑む加古さんへと視線を外せば気にしないで、と返って来た。分かりました。スルーしときます。


「そう言えば、要さんならまだ隊室に居ると思いますよ」


二宮さん来てましたし、と牡丹道さんのお巫山戯に忘れかけていた事を二人に伝えれば、「桐絵もダブルだよ」「本当ね。今度誘ってみようかしら」「苦労するんじゃない?」「あらそんなことないわよ。桐絵ちゃん可愛らしいじゃない」と女二人で盛り上がっていた話がピタリと止まり、次の瞬間、二人の姿は其処に無かった。

最後に聞こえてきた「あんにゃろー抜け駆けか!」と言った然程女の人の声とは思えないドスの効いた言葉は聞かなかったことにしよう。てか桐絵って誰だ。



☆ ☆ ☆



「タワー壊して土下座か!」
「ああー面白かったわね」

パラパラと、散乱する紙の音となんら変わらない声量で黙れ、と女子高生二人の言葉に項垂れる男子高生約一名。面白い光景にまた吹き出しそうだ。そんな光景を微笑ましそうにクスクスと声が聞こえてきそうな笑みを浮かべながら、事の発端であろう人物、姐さんこと要さんは違うのよと私と望に口添えしだした。

「丁度タイミング悪かったものねぇ」

トランプタワーの大作が出来そうだったらしい要さんのところへ、タイミング悪く訪れた二宮が原因でそれは崩れてしまったらしい。ちょっとした振動で、微妙なバランスで築かれた建築物は下から崩れ去っていってしまったらしく、しかもその建設者の目の前で(遊びだったとは言え)努力が無になったのだ。当然怒るか泣くかだが、姐さんは後者だったらしく泣いた。喚くことはしなかったが、訪れた途端泣き出すのだ。そりゃあの常に仏頂面な二宮ですら焦ったような面持ちに変わったらしい。だって相手はめっちゃ目上。焦って謝るが静かにポロポロと涙を流し続ける姐さん。泣き出した原因が床に散らばっているトランプであることを、焦りながらも理解した二宮は謝りながらトランプを掻き集め姐さんに渡そうとした。その時だ、姐さんが二宮の行動をピタリと止める一言を発したのは。

「あ、望と紅香が来る」と。

その言葉に、その告げられた名前に、自然と眉間に皺がよる。

要の衰えつつある、しかし紛れもないサイドエフェクトだった。勘に近い、感覚的認識による極々稀なそれが今や無くなりかけていることを今の時点で二宮は知りはしないが、この人が言うなら本当に二人が来るのだろうと、当たり前のように思った。そしてこの状態を見られたくないと思ったのか勢い良く、トランプを掻き集めていた二宮はトランプを持ったまま頭を上げたらしい。それがいけなかった。そして丁度上にいた姐さんも、その二宮に気づけなかったらしい。

「いいえ寧ろバッチリでしたよ!」
「慶が状況説明しろって言ってる…ッ」

抑えきれない笑いがぶっと出た。そして睨まれる、というローテーションが二宮にとっての黒歴史を目撃してからの流れである。だって、ねぇ。

「牡丹道、消せと言っただろう」
「逆に聞くけど私があんたの言うこと聞くとでも?」

それはないわね、と望。望も笑いを堪える気すらないのか、さっきから横で肩を震わせているのが分かる。




元菫青隊隊室を訪れたと同時に起きた事故、二宮が泣きはらす姐さんの目の前で土下座(実際は顔面衝突の際に打ち付けた顔を抑えていただけなのだが)という二宮と同年代の女子高生二人にしてはなんとも可笑しな画を撮ってから騒がしかった三人を、もう涙は引っ込んだのか元菫青隊隊室主、菫青要が割って入った。

二宮の掻き集めた、再度ばらついたトランプを綺麗に机に叩きつけながら揃える。匡貴、望、紅香。三人の名を呼び注意を自身に向けさせると。


「ジジ抜き、やりましょ?」


にっこり笑みを付きで、場にそぐわない遊戯の提案を提示するのであった。

16.10.31
Peony.03の時系列にやっと!やっと追いつきました!!ε-(´∀`*)ホッ
それぞれのターンで進めてたのでちょっと頭の中が、書き漏れないよね??あっても番外編で書こう。