いっしょの海に溺れたい

 日差しがギラギラと睨みつけてくる。拭っても拭っても噴き出してくる汗と、まとわりつくような水分を孕んだ熱気の鬱陶しさに耐えきれず「あああ」と呻き声を上げた。
 私の横でへばっている松田も同じようにシャワーでも浴びたかのように汗だくだ。
 神社の周りは自然が残っているとはいえ、地面はコンクリートだし周辺のビルに反射した光が襲ってくる。
「ねえ、コンビニ行かない?」
「ありだな」
 言うが早いか松田はベンチから立ち上がり、ボトボトと滴るほど汗をかいたプラカップを勢いよくゴミ箱に捨てた。
 木陰から出ると、そこは地獄のような夏だった。太陽は冬の優しさを忘れてしまったように攻撃的だ。
 思わず目蓋を閉じた。
 それから、そうっと細目を開けたら松田が笑っていた。
「眩しそうだな」
「眩しいよ。松田はいいよね、サングラスが……」
 あって、と続けようとした言葉が途切れた。そうだ。私も持ってるじゃん。
 リュックからピンクのミラーサングラスを取り出して掛けてみせた。
「随分とご機嫌さんなサングラスだな」
 笑いを耐えながら言う松田に、「でしょ!」と胸を張って自慢してやった。あまり海外の子供がかけているようなデザインで気に入っているのだ。
 神社を背にして歩いていると、松田がぽつりと「あー、海行きてえなあ」と呟いた。
「あ、いいね! 行こうよ」
「……先に言っとくが泳がねえぞ」
「なんで! 泳がないなら何しに行くの」
「夏を感じるだけだよ。もうこの歳になると海ではしゃぐと疲れるんだよなあ」
「まだそんな歳じゃないし、だいたい松田はニート中じゃない。疲れてもいいでしょ」
「休職って言え」
「ねえ、じゃあ代わりにお祭りに行こうよ」
 代替案を出せば、松田は「この前行っただろ」と眉をひそめた。この前はアロハシャツだったから、「次は甚平を着てきてほしいの」と言えば嫌そうな顔をして「なんでだ」と渋々理由を聞いてきた。
「『陣平が甚平着てる』って笑いたいから!」
 「くだらねえ」と笑う松田の後ろに、真っ白な入道雲と鮮やかな青空が見えた。
 暑さはまだまだ続く。夏が終わる前に、松田と一緒に海に飛び込んで水しぶきを浴びて笑いたい。


◇◇◇
2020/8のイベントで頒布した無配です。
題:喉元にカッター様

ヒトリヨガリ