宇宙よりも深くあおに流れ

「今夜、宇宙ステーションが見えるらしい」
 そう言った透くんは、夜になってから私を外に連れ出した。
 到着したのは東京郊外。私たちは、車の中で調べた宇宙ステーションが現れるという東の空を見上げた。
 青みがかった黒い空には、月光に照らされた灰色の雲がうっすらかかっている。
「曇ってるけど……」
「残念ですね。分厚くはないから見えたらいいんですけど、それも難しそうですね」
 透くんは決まりが悪そうに肩をすくめた。
 別に透くんが悪いわけじゃないんだから、そんな表情をする必要はない。でも、わざわざここまで連れてきた負い目があるのだろう。それだって、ドライブに来たのだと思えば不満にもならない。いい気分転換だった。
 腕時計を確認した透くんは、「時間ですね」と呟いた。
 じっと夜空を見上げるけど、雲間に見えるのは星が一つと飛行機の赤い光だけ。
「見えない」
 そもそも宇宙ステーションって見てわかるものなの? と口を開こうとしたとき、透くんがおもむろに空を指差した。
「あそこのぼんやりと光っているものが宇宙ステーションですよ」
「本当に?」
 指し示された先を目を凝らして見ると、確かに他と違う雲があった。だけど、ただそこだけ雲が厚くて白く見えているような気もする。
 けれど、それが宇宙ステーションだと透くんに言われれば、たしかに他の雲と違って発光しているようにも見えてくるから不思議だ。
「まあ、そういうことにしておくよ」
 納得すると眠気が襲ってきて欠伸が出た。目を擦れば、それを止めるようにやんわりと透くんが私の手を取って、そのまま繋いだ。
「帰りましょうか」
 ほのかな光もすでに見えなくなっていた。
「寒くなくてよかったですね」
 優しく細められた瞳は普段なら綺麗な空色だけど、暗闇の中ではほとんど黒色と変わらない。それでも、私たちとは違う、吸い込まれるような色彩をしている。
 その瞳はまるで宇宙のようで、それが隣にあるというのはなかなか贅沢のようなことに思えた。宇宙ステーションに乗って、遥か遠くに行かなくても、手の届くところにあるのだから。


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2020/11のイベントで頒布した無配です。
題:喉元にカッター様

ヒトリヨガリ