ひみつを食べちゃった子猫
「そうっと、そうっと気をつけてくださいね」
「わかってるよ」
「両手でしっかり持って、……重たくないですか?」
「うん、大丈夫」
「火傷しないでくださいよ。ああ、やっぱり危ないので僕が……」
「ねえ静かにしてよ。気が散るから」
ぴりぴりした透くんに見張られている私が手に持っているのは、危険物でもなんでもなく、沸騰したお湯が入ったケトルである。
まるで爆弾解体でもしているかのように透くんはハラハラと心配して、「ボウルは僕が押さえていましょうか」とか「冷ましてから入れませんか」とか横槍を入れてくる。
「もう! 一回手伝ってもらったら途中から透くんが全部やりそうだからいや。年下の友達だって一人で作るって言ってたんだよ?」
たしかに透くんの身長に合わせられたキッチンは私の胸の位置でやりづらいけど、踏み台さえあればどうってことない。透くんにとってはケトルを持ちながらそれに乗ることすら要注意行動らしいけど。
ケトルを使うことくらい普段からあるのに、どうでして「料理」となったら放っておいてくれないのだろう。
ジャバアっとガラスのボウルにお湯を注ぐときも、適温まで下がったお湯でホワイトチョコレートを湯煎している間も、透くんはよく回る口を動かし続けた。
静かにさせることは諦めて、私は黙々と作業を進める。スティックを刺したマシュマロを溶けたチョコレートに潜らせコーティングしていき、固まる前に上に可愛いハート型のカラースプレーチョコを振りかけていけばできあがりだ。
チョコを冷蔵庫に入れ、やっと落ち着いた透くんをキッチンから追い出した。最後まで見ているとうるさいけど無視をして、買っておいたクッキングシートを透明のラッピング袋のサイズに切って詰めておく。シートは百均で一目惚れした、幻想的なグラデーションの空の柄。
固まったマシュマロチョコを袋に入れて、仕上げに虹色のリボンで口を結べば、どこからどう見ても「小学生女児が頑張ったバレンタインチョコ」だ。
「で、誰に渡すんですか?」
ダイニングでちらちら私の様子を窺っていた透くんが、目ざとく完成を察して聞いてくるけど、それも無視してまずは写真をパシャリと撮った。
うん、いい感じに写っている。
「はい」
キッチンから出て、完成したたった一つのラッピング済みチョコレートを透くんに差し出すと、柔らかい目を真ん丸にしてチョコと私とを何度も見比べた。
「僕に?」
「友達は今日学校だから交換はできないけど、どんなのを作るか知りたいって言われたから写真を見せるって約束だったの」
それを言ってきた歩美ちゃんは、年上のお姉さんがどんなものを作るのかが気になったらしい。
最初は自分で食べる予定だったけど、シートのデザインを見た瞬間に行き先は透くんに決まった。歩美ちゃんたちには内緒にしないとややこしいけど。
チョコなんて今までの人生で山ほどもらってきただろうに、透くんは私が気後れするほどチョコを喜んで大事そうに両手で受け取った。
「食べるのがもったいないですね」
「そんなたいしたものじゃないでしょ。マシュマロにチョコをかけただけだよ?」
「それでもメニューを決めて、レシピを探して、ラッピングも工夫したでしょう? 全然たいしたものじゃないですよ」
にこにこ笑ってチョコを片手に何度も何度も頭を撫でてくる。
「今日はもう胸がいっぱいだから、明日食べますね」
「絶対にやめて。明日の朝、残ってたら私が食べるからね!」