手料理をふるまう話
千里眼の子どもは愛子というらしい。目が覚めた子どもに日本語で話しかければ流暢な日本語で返ってきた。牢屋ではイタリア語を話していたから日本語が話せるか不安だったが、詰まることなく話していて愛子が日本人であるという事実を突きつけられた心地になった。
初めて愛子と会話した日から、数日は愛子の住む部屋に行っていたが、突然帰国を命じられてイタリアから離れることになった。その間、ベルモットに愛子のことを頼んだが、イタリアに戻ってきてから、僕がいない間の食事がケーキなどの菓子類だったことを知った。愛子は非常食のような食事が不味くて食べたくないと言っていたが、愛子の年齢だとまともな食事をしないのは問題だろう。
研究所の簡易キッチンで、ケータイとにらめっこして数分。ようやく目的のページを見つけた。支給される食事を食べたくないのなら、僕が作るしかない、と思い立ったのは愛子からご飯を食べたくないと言われたときだ。だけど、今まで料理を作るなんてほとんどしたことがなく、やっても自分のご飯を作るくらい。人に作ることも、愛子のような子どもに食べさせたこともない。だからその場では「僕が作る」なんて言えなかった。
今キッチンの冷蔵庫を漁って、なんとか一食分の料理を作れるだけの材料を寄せ集めた。卵、チキン、ケチャップ、それに野菜が少し。あと珍しく日本米があったので子どもの好きそうなオムライスを作ることにした。
ケータイで調べたオムライスのレシピを開きっぱなしにして、頭の中で工程を思い浮かべる。今から作ると夕食には早いが、万が一失敗したときのために早めに作ることにした。
愛子が野菜嫌いだったときのために、野菜は小さめに。病み上がりの愛子に味の濃いものを食べさせられないので、調味料もきっちり量る。
お世辞にも、手際がいいとは言えないけれど、なんとか完成した。
お皿にラップをかけてトレーにオムライスと飲み物を置き、愛子の部屋まで運んだ。トレーを持っているが、片手で持てないわけではない。だけどドアを自分で開けるのが少し怖くてノックの代わりに名前を呼んだ。
もしかしたら具の野菜が多かったかもしれない。もしかしたらオムライスは好きじゃないかもしれない。もしかしてが積み重なって不安になっていたとき、ドアが開いた。
僕の腰あたりの身長の愛子は、ドアを開いた体勢のまま僕を見上げてぱちぱちと瞬きをした。
「オムライス?」
きょとんと愛子が首をかしげた。
「あ、うん。ここのご飯が不味いって言ってただろう? だから、その……キッチンを借りて作ったんだ。見た目は不恰好だけど味は問題ない、はずだ」
言いながらオムライスが愛子に見えるようにかがんだ。
オムライスを見た愛子はさっきまでの大人しい表情を明るく変えた。大げさなくらい喜んで、まだ食べてもいないのにお礼を言ってくれたので、とりあえずオムライスが嫌いではないことがわかって安心した。
オムライスを持って部屋に入り、部屋の中央にあるテーブルにオムライスを置いてからソファーに座った。そしてオムライスが待ちきれないとばかりに目を輝かせる愛子にオムライスの乗ったお皿を渡すと、すぐさまラップをはがした。
一口オムライスを食べた愛子は目を見開いて、笑顔で口にオムライスを詰め込んだ。それを見ていると、部屋に入るまでの心配がバカだったように感じた。それくらい勢いのある食べ方で、お世辞で美味しいと言っているわけではない食べっぷりだった。
この年になると、そんなに料理を頬張って食べるのを見ることがないので、とても新鮮で、そしてアニメみたいな食べ方にふき出してしまった。口いっぱいにオムライスを詰め込んだ愛子は喋ることができずに首を傾げて僕を見たのも、より一層おかしくて笑いが止まらなくなった。
こんなに喜んでもらえるなら、時間があるときは料理を作ってあげようと思い頭の中で明日からのスケジュールを確認した。