心配する話

「悪いやつをさがす手助けをしてくれ」なんてどの口が言うのだろうか。僕を見上げる無垢な目を見つめ、心が痛んだ。だけどこれが組織の命令だからしかたがない。そう思ったのに、愛子が「悪い人をやっつけたいから大丈夫だよ!」と元気よく言うから、ついに見ていられなくなった。
 こんな小さな子どもを任務に連れて行きたくないけれど、組織からの命令だから僕に拒否することはできない。しかたがないんだと言い聞かせないと、どうにかなってしまいそうだ。

「頑張るから久々に料理作ってよ」

 真面目な空気を壊すように愛子が明るい声を出した。ご褒美の前借だねと冗談っぽく言うけれど、僕の顔色を伺うような笑い方をしている。
 子どもが大人の顔色を伺うなんて、そんな不幸なことは他にない。それも、この日本で起きているということが僕を苦しめる。本来なら、来年使うランドセルを楽しみにするような年齢なのに、この子は楽しみが食事しかない。それも母親の作る料理ではなく、上手くもない僕の作る料理だ。イタリアにいたときは、研究所で出されるご飯が不味いから相対的に僕の料理を喜んだのかと思ったけれど、まともな食事が出されるここでも僕の料理を食べたがるなんて、きっと手料理に飢えているのだろう。
 何が食べたいか聞いても「なんでもいいよ」と返すのは、遠慮しているのか、それとも答えられるほど料理を知らないのか。

「また前みたいにお菓子ばかり食べてないか?」
「大丈夫だよ。最近ベルモットが来てないからお菓子のストック少なくてちゃんと考えて食べてるの。ここに来てから健康的な生活するようになったんだよ。……前よりはね!」

 愛子は胸を張って答えているが、その返答だとお菓子さえあれば今でも向こうと同じ食生活に戻るということにならないか? 自信満々に答える愛子に出鼻を挫くようなことは言えないので、言葉を飲み込んで「その調子だ」と頭を撫でた。愛子は困惑した顔でぱちぱち瞬きをする。おや? と内心首を捻る。てっきりもっと喜ぶと思っていたのに……。褒められ慣れていないから、どうしていいのかわからないのか。
 愛子が、できるだけ普通の生活をして、普通の幸せを感じられるように守ってやりたい、そう思いながらエレベーターの前を通り過ぎ、右手にある簡易キッチンに入る。
 入った瞬間、愛子は笑顔になった。そのまま軽い足取りで冷蔵庫を開けて中を見てから僕の方に振り返る。

「何が作れる?」

 愛子の後ろから冷蔵庫の中身を確認する。
 野菜がたくさんあるから、できるだけ野菜を使った料理がいい。食材を見ながら僕の作れる料理を思い浮かべる。

「そうだなあ。……野菜炒めとか、ロールキャベツとか。ああ麺があるからラーメンなんていいかもね」
「じゃあラーメンにしよう!」

 目を輝かせて愛子が力強く言った。
 ラーメンか。できれば健康的な料理がよかったけれど、塩分を少なくすればいいか。味を聞けば醤油か味噌を挙げてから僕にどっちがいいかを聞いてきた。まさか僕も食べるとは思わなかったので驚いて愛子の顔をまじまじと見てしまった。

「そうだよ! 一緒に食べようよ。ラーメン作るの手伝うしさ」

 愛子は「任せて!」と力こぶを作るポーズをして見せる。子どもらしい無邪気な姿に目尻が下がった。

「……ありがとう。じゃあ野菜たっぷりの味噌ラーメンにしようか」

 そう言ってから、冷蔵庫から食材を取り出した。

ヒトリヨガリ