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 ライと女性を探し回ったけれど、詳しい場所を聞いていなかったのでさすがに探しきれず、昼を少し過ぎたころに探すのを諦めた。だからといって二人のことを諦めたわけではない。方向を研究所に変えて、もう一度走りだす。きっとバーボンかスコッチなら彼女のことを知っているだろう。なんたって変装もせずに白昼堂々と歩いていたんだから。普段の澄まし顔のライが、彼女にデレデレしている姿を今すぐ見たかったけれどそれはおあずけだ。
 並盛に来たときの倍の速さで研究所に戻ると、とりあえず先に談話室や食堂に誰かいないかを確認した。誰も研究所に来ていないので、さっさと部屋に戻った。部屋にはバーボンの電話番号のメモがある。ちょっと前にもらってから今まで一度も使ったことがないそれをやっと使うときがきた。
 倒れこむように部屋に入って、壁際のテーブルの引き出しを力強く引き開け、中の小さなメモを手に取った。一応ちらりとメモが合っていることを確認してから鉄砲玉のように部屋を飛び出す。エレベーターを待っている時間も惜しくて階段で一気に一階までかけ降りて、普段入ることのない事務室のドアをノックした。
 荒い息を整えてから、そっと事務室に入ると人のよさそうな中年の女性が出迎えてくれた。

「あら、どうしたの?」
「ちょっとバーボンに連絡したくて……。電話を貸してください」

 握ったメモを女性に見せると、にこやかに笑って電話のある場所まで案内してくれた。そしてそのまま女性がメモの番号を打って、受話器だけを私に渡してきた。
 受話器を耳に当てるとプルプルと呼び出し音が聞こえる。もう一度、深呼吸をして息を整えていると受話器の奥でガチャリと音がした。

「はい?」
「もしもし、バーボン?」
「愛子? どうしたんだ? 何か問題でも……」
「ううん、問題じゃないんだけど聞きたいことがあって!」

 初めての電話にバーボンが受話器の向こうで取り乱したのを察して、慌てて制止する。私の言葉に僅かに間を置いたバーボンが落ち着いたのを感じ取って本題を切り出した。

「ライって彼女いるの?」
「は?」

 受話器の向こうでぽかんと口を開くバーボンが見えた。それくらい素っ頓狂な声だった。
 バーボンがそんな声を出すのもしかたがない。私がバーボンの立場でも同じような反応をするだろう。だけど今はライの彼女のことが知りたくてしかたないので、「どうなの」と答えを急かす。

「ああ。確かに彼女がいるっていう話は聞いているが」
「やっぱり! 黒髪の綺麗な人でしょ」
「綺麗かどうかは人によって判断が変わるが、……まあ、そうだな。どうして愛子が知っているんだ?」
「え! あ、たまたま聞いたの!」

 ライの彼女のことばっかり考えていて、私が彼女のことを知れるはずないってことを失念していた。咄嗟に誤魔化したけれどバーボンはあまり納得していない様子が読み取れた。
 これはまずい。誤魔化す技術のなさは骸が太鼓判を押すほど。ここは変に言い訳を連ねるのではなく話を変えようと思い「それより!」と語気を強めた。

「ライの彼女ってどんな人なの?」
「あー……、もう少しでそっちに着くから、直接言うよ」

 バーボンは申し訳なさそうな声で電話を切った。私の方がどうでもいいようなことで電話をしたのに。
 受話器を戻すと、離れていた中年の女性が「終わった?」と近寄ってきた。電話のお礼を言うとにこにこと笑いながら「いいのよ〜」と嬉しそうに私の頭のなでる。この人はきっと組織のやっていることを知らない人だろう。表情が全然違う。
 もう一度お礼を言ってから事務室から出ると、ちょうど今来たらしいスコッチと出くわした。私を見たスコッチは、あれ? と首をかしげた。私がこんなところにいるのが珍しいんだろう。

「バーボンに電話してたの」

 ピラピラとメモを揺らして見せると、スコッチは合点がいったような表情をした。

「急用かい?」
「ううん、全然。ライが女の人と歩いていたから彼女かなって気になって電話したの」
「彼女……宮野明美か」
「スコッチも知ってるの? 知り合い?」
「いや、知り合いではないけど彼女も組織の人だから顔と名前は知っているよ」

 まさかの情報に驚いた。ライにくっついて腕を組んでいた彼女が組織の人だなんて。
 「その話、もっと詳しく聞かせて!」とスコッチに詰め寄ると、スコッチは苦笑を浮かべて「それなら場所を移そう」と言って、上を指差した。たしかにこんな玄関のそばで立ち話をするようなことじゃない。
 はやる気持ちを抑えて、スコッチに連れられてエレベーターに乗った。

ヒトリヨガリ